科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム(RInCA)について

RISTEXは、2020年度の新規プログラムとして「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム」を設定し、2020年5月より活動を開始しました。

本プログラムの詳細サイトは下記よりご覧ください。

プログラム総括

唐沢 かおり

東京大学 大学院人文社会系研究科 教授

情報技術やバイオテクノロジーなどに代表される新興科学技術(エマージング・テクノロジー)が加速度的に進展するなか、科学技術と社会・人間との関係が大きく変容し、ものの見方すら変えられてしまうという現実に私たちは直面しています。科学技術は、新しい知や恩恵をもたらし私たちの生活を豊かにしてきた一方で、人類の歴史にとって不可逆的な変容をもたらす可能性もはらんでいます。
JST社会技術研究開発センターに2020年度から設定された「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム」は、こうした背景のもと、科学技術が人や社会と調和しながら、持続的に新たな価値を創出する社会の実現を目指す、イノベーション志向の研究開発プログラムです。

本プログラムでは、新興科学技術がもたらす倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI: Ethical, Legal and Social Implications/Issues)に対して、研究開発の初期段階から予見的・包括的に取り組みます。そこから生まれる知見を、研究・技術開発の現場に機動的にフィードバックすることを通じて、責任ある研究・イノベーション(RRI: Responsible Research and Innovation)の実践的な協業モデルの開発を目指しています。
本プログラムの英語名称 "Responsible Innovation with Conscience and Agility"、略して「RInCA」とは、ELSI/RRIの実践において、誠実に・良心をもって(Conscience)、迅速に行うこと(Agility)が重要だという認識を表しています。

ELSI/RRIの取り組みは、技術実装ありきの視点に隷属すべきではないことはもちろん、研究開発にブレーキをかけるためのものでもありません。イノベーションや未来社会を創造するナビゲーターとして機能し、人類が将来とり得る多くの選択肢を生み出す原動力となる営みとなるべきものだと考えています。そのために、「この科学技術をなぜ必要とし、またそれにより、どのような価値の実現を目指しているのか?」といった根源的問いを持ち続け、多様な視点からの議論に基づく思索を言葉として表現していくこと(「言説化」)が重要であると考えます。ELSI/RRIの実践においては、この根源的問いの探求と言説化に取り組みながら、社会や多様なステークホルダーと共に知識と価値を創る努力が不可欠なのです。
本プログラムでは、内外の研究者・関与者の多様性と交流を重視して、学術研究が生み出す「科学知」、現場が持つ「実践知」、人と社会のあり方に関わる「人文知」を有機的につなげるためのダイナミックな運営により、様々な科学技術に関わるELSI/RRIを推進する基盤形成に取り組んでいきます。

研究開発プログラムの目標

本プログラムは、科学技術が人や社会と調和しながら持続的に新たな価値を創出する社会の実現を目指し、新興科学技術がもたらす倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)を発見・予見しながら、責任ある研究・イノベーション(RRI)を進めるための実践的協業モデルの開発を推進します。

研究開発対象

本プログラムでは、新興科学技術のELSIへの対応と責任ある研究・イノベーションの営みの普及・定着を目指し、研究・技術開発の初期段階から包括的・実践的にELSI/RRIに取り組む研究開発を推進します。
研究開発プロジェクトにおいては、科学技術と人・社会との間に生起する日本社会が抱える諸課題、あるいは具体的な新興科学技術を出発点として、研究者やステークホルダーの知を結集した実施体制で取り組みます。

期待されるアウトプット

  • 科学技術の特性を踏まえた具体的なELSI対応方策の創出
  • 研究開発現場における共創の仕組みや方法論の開発
  • トランスサイエンス問題の事例分析とアーカイブに基づく将来への提言
  • 根源的問いの探求・考察を通じた、研究・イノベーションの先に見据える社会像の提示

研究開発期間・研究開発費

  • 研究開発プロジェクト:1年~3年半 (1課題あたり 600~1,200万円/年 程度(直接経費))
  • プロジェクト企画調査:約半年 (1課題あたり 300万円/半年 程度(直接経費))

なお、ELSI/RRIの取り組みは、科学技術がもたらす課題に対する「いま、ここ」での対応や順応の方策にとどまりません。世代や空間を超えた影響の検討はもちろん、人類が求める普遍的な価値、生命や人・社会の善きあり方に関わる「根源的問い」を必然的に内包するものです。本プログラムは、この「根源的問い」への探求・考察を含みながら、研究・イノベーションの先に見据える社会像を示すことにも取り組みます。日本社会の文脈や特性を踏まえながら、グローバル社会においても普遍性を持つ価値の考察を深め、その言説化・表象化にも挑戦します。

研究開発プロジェクト

2022年度採択

ヒト脳改変の未来に向けた実験倫理学的ELSI研究方法論の開発
太田 紘史
(新潟大学 人文学部 准教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
教育データ利活用EdTech(エドテック)のELSI対応方策の確立とRRI実践
加納 圭
(滋賀大学 教育学系 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
医療・ヘルスケア領域におけるELSIの歴史的分析とアーカイブズ構築
後藤 基行
(立命館大学 大学院先端総合学術研究科 講師)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
公正なゲノム情報利活用のELSIラグを解消する法整備モデルの構築
瀬戸山 晃一
(京都府立医科大学 大学院医学研究科 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
コミュニティのスマート化がもたらすELSIと四次元共創モデルの実践的検討
出口 康夫
(京都大学 大学院文学研究科 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
「胎児-妊婦コンプレックス」への治療介入技術臨床研究開発に係るELSI
松井 健志
(国立がん研究センター がん対策研究所 生命倫理・医事法研究部長)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)

2021年度採択

人工知能の開発・利用をめぐる自律性および関係性の理論分析と社会実装
宇佐美 誠
(京都大学 大学院地球環境学堂 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
「空飛ぶクルマ」の社会実装において克服すべきELSIの総合的研究
小島 立
(九州大学 大学院法学研究院 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
パンデミックのELSIアーカイブ化による感染症にレジリエントな社会構築 (COVID-19関連課題)
児玉 聡
(京都大学 大学院文学研究科 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
研究者の自治に基づく分子ロボット技術のRRI実践モデルの構築
小宮 健
(海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門 研究員)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
持続可能社会に向けた細胞農業技術のELSI/RRIの検討
日比野 愛子
(弘前大学 人文社会科学部 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)

2020年度採択

脱炭素化技術の日本での開発/普及推進戦略におけるELSIの確立
江守 正多
(国立環境研究所 地球システム領域 上級主席研究員/東京大学 未来ビジョン研究センター 教授)
萌芽的科学技術をめぐるRRIアセスメントの体系化と実装
標葉 隆馬
(大阪大学 社会技術共創研究センター 准教授)
現代メディア空間におけるELSI構築と専門知の介入 (COVID-19関連課題)
田中 幹人
(早稲田大学 政治経済学術院 教授)
ELSIを踏まえた自動運転技術の現場に即した社会実装手法の構築
中野 公彦
(東京大学 生産技術研究所 教授)
携帯電話関連技術を用いた感染症対策に関する包括的検討 (COVID-19関連課題)
米村 滋人
(東京大学 大学院法学政治学研究科 教授)
Social Distancingによる社会の脆弱性克服・社会的公正の回復と都市の再設計 (COVID-19関連課題)
林 良嗣
(中部大学 持続発展・スマートシティ国際研究センター 卓越教授)

研究開発期間:1~3年* 研究開発費:1,500万円/年(直接経費)程度
*研究開発成果の定着や展開の可能性のさらなる向上が期待される場合、評価を経て、2年間を上限として研究開発期間の延長を可能とする。

プロジェクト企画調査

2022年度採択

埋め込み型身体機能補完技術をめぐるELSI/RRIの検討基盤の構築に向けた企画調査
大沼 雅也
(横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院 准教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
ELSI研究における法学的アプローチの探究に向けた基礎的検討
笹岡 愛美
(横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院 准教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
FemTech(フェムテック)のELSI検討に関する企画調査
標葉 靖子
(実践女子大学 人間社会学部 准教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
メタバースが拓く新しいサービスとELSIに関する企画調査
永井 由佳里
(北陸先端科学技術大学院大学 理事・副学長)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)

2021年度採択

責任ある研究とイノベーションを促進するSFプロトタイピング手法の企画調査
大澤 博隆
(筑波大学 システム情報系 助教)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
脳の越境と融合にまつわる倫理とその認識的ダイナミクスの検討
太田 紘史
(新潟大学 人文学部 准教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
学習データ利活用EdTech(エドテック)のELSI論点の検討
加納 圭
(滋賀大学 大学院教育学研究科 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
「スマートシティ」の全体論的・個別的ELSIに関する企画調査
出口 康夫
(京都大学 大学院文学研究科 教授)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
人の意思決定を操る技術のELSIマッピング作成の企画調査
中澤 栄輔
(東京大学 大学院医学系研究科 講師)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)
ポリジェニック・スコアの社会受容性に関する企画調査
山本 奈津子
(大阪大学 データビリティフロンティア機構 特任講師)
  • 研究開発実施報告書
    • (掲載予定)

2020年度採択

ヒト由来情報利活用の信頼性確保に向けた制度設計と研究者によるアウトリーチの検討
明谷 早映子
(東京大学 大学院医学系研究科・利益相反アドバイザリー室 室長)
「空飛ぶクルマ」の社会実装における社会的課題解決についての基礎的検討
小島 立
(九州大学 大学院法学研究院 教授)
パンデミック対策の国際比較と過去の事例研究を通じたELSIアーカイブ化 (COVID-19関連課題)
児玉 聡
(京都大学 大学院文学研究科 准教授)
医療におけるトランスサイエンス問題の政策史研究とアーカイブズ構築
後藤 基行
(立命館大学 大学院先端総合学術研究科 講師)
分子ロボット技術の社会実装に関するRRIコミュニケーション実践の企画調査
小宮 健
(東京工業大学 情報理工学院 助教)
大学・地域密着型リビングラボを通じた「転倒しない街」の共創に向けた企画調査
島 圭介
(横浜国立大学 大学院工学研究院 准教授)
システム・デザインの手法による科学技術の社会インパクトの可視化と共創システムの基本設計
調 麻佐志
(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授)
遺伝子差別に対する法整備に向けての法政策の現状分析と考察
瀬戸山 晃一
(京都府立医科大学 大学院医学研究科 教授)
人工主体の創出に伴う倫理的諸問題を分析・討議するプラットフォームの構築に向けた企画調査
田口 茂
(北海道大学 大学院文学研究院 教授/人間知・脳・AI研究教育センター センター長)
細胞農業技術をめぐる社会的価値観・政策・倫理のダイナミズムの検討
日比野 愛子
(弘前大学 人文社会科学部 准教授)
「実験社会」における社会実験化の手法と影響に関する検討
見上 公一
(慶應義塾大学 理工学部 専任講師)
「技術構成主義」に立つ「生と死」をめぐる倫理の分析と社会的議論の啓発に向けた企画調査
渡部 麻衣子
(自治医科大学 医学部 講師)

企画調査期間*:単年度 企画調査費:300~500万円(直接経費)程度
*将来的に研究開発プロジェクトの提案・実施につながることが期待され、そのために必要な研究開発設計や体制の補完に取り組むことを企図した枠組み。原則として本プログラムの次回公募に応募することを条件とする。

プログラム総括、プログラムアドバイザー

プログラム総括

唐沢 かおり 東京大学 大学院人文社会系研究科 教授

プログラムアドバイザー

(五十音順)

大屋 雄裕 慶應義塾大学 法学部 教授
四ノ宮 成祥 防衛医科大学校 学校長
中川 裕志 理化学研究所 革新知能統合研究センター 社会における人工知能研究グループ チームリーダー
西川 信太郎 株式会社グローカリンク 取締役
/日本たばこ産業株式会社 D-LABディレクター
納富 信留 東京大学 大学院人文社会系研究科 教授
野口 和彦 横浜国立大学 先端科学高等研究院 リスク共生社会創造センター 客員教授
野口 晴子
(~令和2年8月)
早稲田大学 政治経済学術院 教授
原山 優子 東北大学 名誉教授
水野 祐 シティライツ法律事務所 弁護士
/九州大学 グローバルイノベーションセンター 客員教授
山口 富子 国際基督教大学 教養学部 教授

プログラム推進委員

藤山 知彦 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(CRDS)上席フェロー
/元 三菱商事株式会社 執行役員・国際戦略研究所 所長
戸田山 和久
(言説化チーム担当)
名古屋大学 大学院情報学研究科 教授
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