2026年5月末日
社会技術研究開発センター長
日比谷 潤子

科学技術は長年にわたって社会の発展を根底から支え、暮らしや産業に大きな恩恵をもたらしてきました。しかしながら、私たちは多様で複雑な課題が重なり合う時代に直面しています。急速な技術革新が社会のあり方そのものを変えつつある一方で、制度や社会のしくみは変化の早さに追いついていません。国家間の対立から、技術の恩恵をめぐる経済格差、価値観の分極化に至るまで、分断は社会のさまざまな局面で広がり、深まるばかりです。このような情勢の中で、本来社会を支えるはずの科学技術そのものに対する信頼が揺らぎ始めています。さらに、気候変動、激甚災害、感染症の流行、資源の枯渇といった地球規模の危機が互いに連鎖しながら同時に進行し、不安は止まるところを知りません。いずれも、一つ一つ切り離して解決できるものではありません。今世紀最初の25年が経過した今、世界の人々は社会のしくみそのものが問われている時代を生きているといえるでしょう。
RISTEXは、その前身である「社会技術研究システム」が2001年に設置されて以来、社会の中で科学技術をどのように活かすのかという問いに、一貫して向き合ってきました。私たちが重視してきたのは、技術の発展そのものではなく、その成果が社会に信頼され、制度や暮らしの中に根づいていくプロセスです。科学技術がもたらす倫理的・法的・社会的課題(ELSI)への対応はもとより、研究やイノベーションの過程そのものに社会の価値や期待を組み込んでいく責任ある研究・イノベーション(RRI)の視点は、今後ますます重要になっていくものと考えています。私は2019年から2021年まで「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」のアドバイザーを務めましたが、自然科学と人文・社会科学の研究者が、行政や企業、地域の方など多様な人々と協働しながら知を生み出し、社会に届けていくというR ISTEXの基本的な姿勢に、目を開かれる思いがしたことをよく覚えています。
今や、立ち止まっている時間はありません。地政学的な分断も、自然が突きつける環境の危機も、深刻さを増しています。そして、この二つが互いに切り離せるものでないことは明らかでしょう。地球規模の危機の時代に、科学は何ができるのか。その問いを社会とともに模索し続けることこそが、私たちに課された使命です。RISTEXがこれまで培ってきた社会技術の蓄積を土台に、持続可能な未来に向けて、先頭に立ち、大胆、かつ細心の注意も払いつつ、歩みを進めてまいります。研究者の皆さま、関係機関の皆さま、そして社会の多くの方々とともに、よりよい未来のための科学技術のあり方を追求していきたいと考えております。