センター長挨拶

2024年10月1日

社会技術研究開発センター長
小林 傳司

写真:センター長・小林 傳司

 社会技術研究開発センターは英語名称を、Research Institute of Science and Technology for Societyと名乗っています。直訳すると、「社会のための科学と技術の研究所」になります。

 「社会のための科学」という表現の由来は、1999年にハンガリーの首都ブダペストで、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)と国際科学会議(ICSU)が共催した世界科学会議で発出された「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言(ブダペスト宣言とも呼ばれる)」にあります。この会議では、21世紀を迎えるにあたって、改めて科学の役割を考え直す議論が繰り広げられました。その結果をまとめた宣言には、伝統的な科学の役割である「知識のための科学、進歩のための科学」に加えて「社会における科学と社会のための科学」という言葉が書き込まれました。そのメッセージは、科学知識の利用は社会に貢献するものであること、科学の正の側面と負の側面への関心を持つことが必要であること、研究倫理を重視すること、知識への公平なアクセスを確保すること、科学教育を充実させること、そして科学者が社会との対話を積極的に行うことなどでした。

 いずれも現代の科学の在り方にとって重要な指摘ばかりですが、とりわけ「科学知識の利用は社会に貢献するものであること」を重視して本センターは設立されました。以来、本センターは、社会が解決を求めている課題の探索をしたうえで研究開発領域やプログラムを設定し、それに取り組む研究のファンディングを行ってきました。2005年以来設定した研究開発領域やプログラムは15以上にのぼります。

 本センターが取り組む社会課題解決のための研究は、「解決に必要な学問を動員する」ということにつきます。そもそも、ブダペスト宣言のScienceは自然科学、技術、そして人文社会科学を包含する意味で使われています。本センターもその意味で、理系や文系といった学問分類にとらわれないファンディングの方針を採用しています。それに加え、近年では、地球環境問題やSDGsをはじめとする社会課題が複雑になっています。特定の分野の研究成果を応用すれば解けるというものではなく、社会的課題に直面している多様な人々を巻き込んだ研究(共創あるいはtransdisciplinary研究)が必要だという認識が世界的に広がりつつあります。 日本でも科学技術基本法の改正により、人文社会科学も視野に入れた「総合知」という考え方の重要性が強調されています。

 21世紀に必要な「社会に貢献する科学」の在り方を見据え、社会課題の解決に必要な学問を動員し、新たな研究方法の開発と活用を行うこと、これが本センターの使命だと考えています。

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