「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域は、平成26年度に始まり、令和元年度に活動を終了しました。
成熟社会を迎えた現在の我が国は、人口減少・少子高齢化・財政赤字・気候変動などの複合的な問題に直面しており、環境・社会・経済などの多面的な「持続可能性」が大きな課題となっています。また、社会全体を考えるだけでなく、若者から高齢者まで、それぞれの生活の質の向上や心の豊かさの実現も求められています。本領域は、持続可能な社会の実現に向けて、多世代・多様な人々が活躍するとともに将来世代も見据えた都市・地域を、世代を超えて共にデザインしていく研究開発を推進しました。
本領域の詳細サイトは下記よりご覧ください
領域総括
大守 隆
元 内閣府 政策参与/元 大阪大学 教授※所属・役職は領域終了当時のもの
「持続可能な社会」の重要性が人々に認識されてから相当の時間がたちました。この間、様々な科学技術が進歩し、資本の蓄積や制度の整備もかなり進みましたが、残念なことに、我々の社会の持続可能性が高まったとは言い難いように思います。地球環境問題の中には悪化を続けているものが多くあります。日本の財政の累積赤字も経済成長率を上回る勢いで増加しています。過疎化によって多くの地方自治体の将来が危惧されています。貧富の格差も多くの先進国で拡大してきました。
人々の幸福度や生活満足度は、ある程度の所得水準に達した後は、所得が増加してもあまり改善しないことが知られています。日本もそういう段階に入ったと思われますが、人々の生活不安度が上昇傾向にあることは見逃せません。また、昔に比べて「世の中がすさんできた」とか「世知辛くなった」といった声も耳にします。こうした漠然とした不安感も持続可能性の問題と深くかかわっているように思います。
持続可能な社会を構築するためのアプローチには様々なものがあると思います。多くの方々が、それぞれのテーマに関しそれぞれの方法で尽力されていることに敬意を表します。本領域では、「多世代共創」という方法で持続可能な社会を構築しようという試みに焦点を当てます。持続可能とは同じことを繰り返していくことではなく、変わっていくべきものと維持すべきものを精査していくことが必要で、様々な不確実性の中で、これから生まれてくる世代に何を引き継ぐべきかという観点も含め、社会の中での合意形成が必要です。
かつては、生産と生活の場が一体化していて、家庭や地域社会で多世代が様々な形で協力していました。そうした中で、自分達が悠久の歴史の中で「今」を託されているとの意識も形成されたように思います。大量生産、核家族化、都市化、国際化などに伴ってそのような機会は少なくなりましたが、一方で、最近の情報通信技術の発展によって、人々が新しい形で絆を深め助け合うことが可能になったとも思います。
人類の繁栄はこれからも続いていく、と安心できるような新しい暮らし方と、そのための社会技術を求めて努力を続けたいと思います。
- 前領域総括:植田 和弘(京都大学大学院経済学研究科 教授) ~平成28年1月
領域の概要
科学技術が飛躍的に発達したにもかかわらず、私たちの社会は、少子高齢化、財政赤字、環境問題、過疎化、災害リスク、など多くの課題を抱えています。これらはいずれも持続可能性にかかわる問題で、国際連合が2015年にSDGs(持続可能な開発目標)をまとめたことからもわかるように、こうした問題は程度の差こそあれ、世界共通の課題です。こうした諸問題に対して様々な取り組みがなされていますが、個別に縦割り型の手法でとりくむことには限界があることが明らかになってきたように思います。地域という現実の場で、各種の地域資源の状況を踏まえつつ、総合的な観点から解決策を考えていくことが重要だと考えています。
多世代共創は、そのための重要な方法論だと思います。それは、多世代の人々が協力することで、人々が元気になり、意識が変わり、様々な知恵が集まり、合意形成が容易になり、活動の継続性が高まるからです。詳しくは裏表紙の「これまでにわかったこと」をご参照下さい。もちろん、多世代でやればなんでもうまくいくというわけではありませんし、やり方にも当然優劣があります。そこで社会技術としての多世代共創を開発・改善し、できるだけ多くの地域で、様々な人々に活用していただき、ひいては持続可能な社会の実現に役立てたい、というのがこの領域の趣旨です。
領域の目標
具体的には、次の3点をめざしています。
(1)多世代共創が持続可能な都市・地域のデザインにとってどのように有効かを明らかにする。
(2)多世代共創が有効と考えられる分野に関して、多世代共創を促す仕組みを提案し、試行・改善を行う。
(3)そうした仕組みが社会に実装されていくようにするとともに、知見の交換等を行うネットワークを構築する。
この領域では、上記の観点から、ほとんどのプロジェクトが具体的な対象地域(フィールド)での実証を行い、RISTEXでの研究開発期間終了後にも何らかの形で活動が持続し、社会実装につながることを目指しています。
なお、多世代共創の「共創」とは、「してあげる世代」と「してもらう世代」という関係ではなく、一緒に何かを創るという趣旨で使っている言葉です。そして創る対象は必ずしもモノでなくても構いません。健康や幸福感の増進、財政赤字の削減、環境負荷の低減など、価値を創造していくことが大切であると考えています。
研究開発領域の成果のまとめ
次の3点に関して多世代共創が重要であるといえます。
第一は、時間軸に関するもので、過去から引き継いだ資源(ストック)を、適切なガバナンスによって将来に渡す・つなぐ、という考えや政策をしっかりと根付かせることです。
第二は、地域共同体に関するもので、共同体の機能が低下し、同質的かつ同世代の人々とつながることが多くなる中、持続可能性に関する多くの問題は横断的・総合的なアプローチを必要としています。
第三は、飽和しつつある経済成長の代わりに希求すべき社会の進歩がどのようなものであるべきか、「豊か」さに関する新しいイメージを形成することです。
また、多世代共創は以下のような効果を持つことが分かりました。
- 高齢者には元気と活躍の場を、若者にはやる気を与える。
- 地域コミュニティにおける互助の基盤になる。
- 伝統産業の再生や継承の基盤になる。
- 人々に「歴史の中での自分」を意識する機会を与える。地域の歴史と自然に想いをはせ、子孫に想いをいたすようになる。
- 縦割り社会の弊害を補完する。「ムラに所属する前の世代」と「ムラを卒業した世代」が参加するから。
- 人々を巻き込む力を持ち活動の持続性を高める。「多世代で進めたいので参加していただけませんか?」との誘い方は効果的である。
- 子供の持つ「癒す力」を多くの人に及ぼす。アニマルセラピーやロボットセラピーを上回る効果を持つと思われる。
領域・プロジェクトの成果発信
領域のリサーチ・クエスチョンを作成し、合宿などの場で定期的に議論するとともに、プロジェクトの報告書の中でも答えを求めて、プロジェクトの進捗と共に蓄積された新しい知見に基づき随時更新し、領域の横断的成果としてとりまとめました。
本研究開発領域の活動の記録やプロジェクト成果等は、領域webサイト上で公開しています。
- 多世代共創の意義・有効性とは?
- 多世代共創のインセンティブとは?( 特に若い世代)
- 新技術の影響や含意とは?
- 多世代共創が普及・定着するには?
- 多世代共創を評価する指標とは?
- 多世代共創における地域の自然の意味は?
また、今後多世代共創に取り組もうとする人々のために、各プロジェクトの経験を集約し、多世代共創の方法論を実施する際の留意点を、実例を挙げてやさしく解説したハンドブックを作成しました。
この他に、多世代共創の中心的な概念や問題意識を特定するキーワード集(例:「共創融点」「公園化」など)も作成しました。
領域の評価
中間評価
活動報告書 | 評価報告書 |
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事後評価
活動報告書 | 評価報告書 |
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研究開発プロジェクト
平成28年度採択
*俯瞰・横断枠:領域全体の成果創出に向け、特定の地域をフィールドとしない代わりに、幅広い視野を持って多世代共創の効果や社会実装に向けた制度などの検討を行うもの
漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生 大塚 耕司 (大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科 教授) |
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農山漁村共同アトリエ群による産業の再構築と多彩な生活景の醸成 大沼 正寛 (東北工業大学大学院ライフデザイン学研究科 教授) |
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空き家活用によるまちなか医療の展開とまちなみ景観の保全 後藤 春彦 (早稲田大学大学院創造理工学研究科 教授) |
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地域を持続可能にする公共資産経営の支援体制の構築 堤 洋樹 (前橋工科大学工学部 准教授) |
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生業・生活統合型多世代共創コミュニティモデルの開発 家中 茂 (鳥取大学地域学部 教授) |
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寄付を媒介とした多世代共創モデルの提案* 岸本 幸子 (公益財団法人パブリックリソース財団 専務理事) |
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多世代哲学対話とプロジェクト学習による地方創生教育* 河野 哲也 (立教大学文学部 教授) |
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ソーシャル・キャピタルの世代間継承メカニズムの検討* 要藤 正任 (京都大学 経済研究所先端政策分析研究センター 特定准教授) |
平成27年度採択
地域の幸福の多面的側面の測定と持続可能な多世代共創社会に向けての実践的フィードバック 内田 由紀子 (京都大学 こころの未来研究センター 教授) |
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羊と共に多世代が地域の資源を活かす場の創生 金藤 克也 (一般社団法人 さとうみファーム 代表理事) |
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分散型水管理を通した、風かおり、緑かがやく、あまみず社会の構築 島谷 幸宏 (九州大学 大学院工学研究院 教授) |
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ジェネラティビティで紡ぐ重層的な地域多世代共助システムの開発 藤原 佳典 (地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 研究部長) |
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未来の暮らし方を育む泉の創造 古川 柳蔵 (東京都市大学環境学部 教授) |
平成26年度採択
多世代参加型ストックマネジメント手法の普及を通じた地方自治体での持続可能性の確保 倉阪 秀史 (千葉大学大学院社会科学研究院 教授) |
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多世代共創による視覚障害者移動支援システムの開発 関 喜一 (産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 上級主任研究員) |
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未病に取り組む多世代共創コミュニティの形成と有効性検証 渡辺 賢治 (慶應義塾大学 環境情報学部 教授) |
プロジェクト企画調査
平成27年度採択
農地と里山が結ぶ多世代参加の医農福連携モデル 天野 正博 (早稲田大学 人間科学学術院 教授) |
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多世代共創による魚庭(なにわ)の海の再生に向けた検討 大塚 耕司 (大阪府立大学 大学院工学研究科 教授) |
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輝く女性のワークライフバランスを通じた持続可能な地域デザイン 亀岡 孝治 (三重大学 大学院生物資源学研究科 教授) |
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仮想将来世代との共創によるビジョン設計・合意形成手法の検討 原 圭史郎 (大阪大学 環境イノベーションデザインセンター 特任准教授) |
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多世代で共に創る学習プログラム開発の検討 森 玲奈 (帝京大学 高等教育開発センター 講師) |
平成26年度採択
共想法による多世代交流支援方法の検討 大武 美保子 (千葉大学 大学院工学研究科 准教授) |
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多世代循環型相互扶助システムの開発に向けた検討 藤原 佳典 (地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所研究部長) |
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地域の幸福とその社会文化的基盤の構成要素の検討 吉川 左紀子 (京都大学 こころの未来研究センター 教授・センター長) |
- プロジェクト企画調査代表者の所属は採択時のものです。
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