本文へスキップ

  1. JST トップ >
  2. RISTEX トップ >
  3. 持続可能な多世代共創社会のデザイン >
  4. 領域のリサーチ・クエスチョンおよび回答

領域の成果領域のリサーチ・クエスチョンおよび回答

Q1. 持続可能な社会の実現にとって、どのような多世代的なアプローチが有効か? どのような問題に何故有効なのか?


①多世代共創は、人口高齢化に関係した分野で、持続可能な社会の実現にとって有効かつ重要である。
日本の高齢者比率は既に4分の1を超え、2024年以降は3割を超え続ける。こうした社会を持続可能なものにしていくためには高齢者を含む多世代共創は不可欠である。方法論の改善には試行錯誤を伴う時間が必要であることを考えれば、有効な方法論の開発と普及は緊急度の高い課題である。また、日本を追って高齢化する諸外国にも応用可能であろう。高齢者の状況は様々ではあるが、全体としては、高齢者はケアの対象であるとともに潜在的な労働力でもある。多世代共創は両方の面で効果が認められる。まず、多世代共創を通じて居場所と出番を提供することで、多くの高齢者は元気で充実した生活を送れるようになる。一方で高齢者の活力を社会に生かすことができれば、労働力不足の解消にもなる。しかし、多くの高齢者は活躍の場所を十分に与えられていない。それは定年制などの制度のためでもあるが、高齢者の社会参加を促すノウハウが不十分なためでもある。高齢者は、できるだけ人の世話になりたくないとの意識を持つ一方で、人とのつながりも希求しており、こうした複雑な心境や個々の事情に即した活性化の方法論を開発するうえで多世代のアプローチが有効である。

②多世代共創は、地域の活性化にとって有効かつ重要である。地域に記憶と愛着を持つ高齢者と、現代の諸事情に詳しく行動力のある現役世代とがつながることによって、新しい可能性を開くことができる。廃れつつある、あるいは廃れてしまった、地域の諸資源の間のつながりを再編成するためには、それらを守ってきたものの存続方法を希求している高齢者と、現代的視点でそれらを紡ぎ直せる現役世代との共創が有効である。そしてそうした活動が子供達の世代に夢や希望を与えることを意識すると、地域のエネルギーはますます活性化する。

③多世代共創は、財政赤字の抑制や削減に役立つ。特に重要なのは、高齢者の健康増進に伴う医療費の削減と互助やボランティアへの代替を通じた行政経費の削減である。後者に関しては、行政から住民や活動参加者への負担や責任の移転という要素が無いわけではないが、十分な検討と合意形成とある程度のインセンティブの付与も含めて実施していけば、行政、住民、活動参加者の3者にとってウイン・ウインになり得る。多世代の住民が地域の問題に取り組むことは、行政に比べて横断的なアプローチがし易いという利点もある。

④先祖から子孫につながる流れの中で、人々が「今を託された世代である」という意識を持つことが、持続可能な社会の実現のためには不可欠である。そのためには、将来の世代に思いを致すとともに、過去の世代が将来に何を残そうとしたかについて知る機会が重要であろう。核家族化の進展や、生活の多忙化のためにこうした機会は減少している。「子供や孫のために何かしたい」という意識があっても個人でできるのは、遺産を遺すなど限られたことである。しかし、地域の大人が協力して「子供や孫のため」に何かを行うと、様々なことが可能になる。そして大人達が協力する姿を見て子どもは喜び、それがさらに大人たちを元気づける。これが多世代共創が持続可能な社会を作り得る重要な理由である。

⑤社会的な意思決定に大きな役割を果たしているのは現役世代であるが、この世代は、職業や立場の影響を受けることが多い。利害関係に巻き込まれる前の若年世代や、利害関係から脱した高齢者の、より自由で純粋な発想から得るものは大きい。

⑥国際化や技術進歩のために、持続可能な社会とは同じことを続ける社会ではない。持続可能性は人々の価値観にも依存して決まるものであり、当事者性の高い若い世代に加え、経験を積んだ上の世代が参加して社会的な合意を形成することが望ましい。

⑦持続可能な社会の実現のためには、単に個人個人がそれを志向するだけでは不十分で、実現に向けた社会的なシステムの構築や、そのための合意形成が不可欠である。こうした合意形成が多世代で行われることで、よりよく、より持続可能なシステムを作ることができる。

⑧核家族化の中で、地域での世代間の助け合いの必要性が増している。安心を担保するような社会技術やICT開発・活用の余地が大きい。また、助け合いから生まれたつながりが発展していくこともある。行政は世代別のアプローチが主流であるが、多世代共創という横断的アプローチはその弱点を補完できる可能性がある。

⑨人々は、所得や賃金の増加や生活の利便性だけでなく、他者とのつながりを通じた充実感も求めている。同世代との交流・共創は安心感や満足感をもたらすが、他世代との交流・共創は、使命感や達成感を感じる重要な機会になる。子供の重要性を示唆する調査結果もあるが、どのような分野でどのような他世代の重要性が何故高いかを明らかにすることも、今後の重要課題であろう。

Q2. 特に若い世代(子供、学生、若年単身者、子育て世代等)にとって、多世代共創的活動に参加するための動機にはどのようなものが考えられるか?


①核家族化の進展や、幼少期に年上・年下の子供と遊ぶ機会が減少したために、若者にとって斜めの人間関係を築く機会が減少している。サラリーマンが増加したことから、親の経験から学ぶ機会が減少し、親や祖父母とともに地域のイベントに参加する機会も減少している。一方、親でない大人との関係も希薄になっている。機会が与えられれば若い世代がこれらの重要性を認識し積極的に参加するようになる可能性がある。

②若い世代は諸課題(勉強、進学、恋愛、就活、子育て等)を抱えており、少子化や貧富の格差拡大に伴って強まった親からの期待の下で、心理的な余裕がない場合も多い。そこで、こうした諸課題と組み合わせる形や、こうした諸課題をより有効に解決できるチャネルとして、またレジリエンスを強化し得る場として、多世代共創的活動を設計していくことが重要であろう。

③若い世代内部での競争関係に鑑みれば、上記の諸課題との関連が不明確な活動に参加することで、自分だけが遅れてしまうという不安を抱く可能性に留意が必要であろう。このため「参加の制度化」(次項目参照)も検討すべきであろう。

④現代の若い世代は、非正規雇用の比率が高く、将来への大きな不安を抱いている。この不安を軽減するための一つの方法は地域のなかでの絆を強化することであり、こうした需要に応えていく必要がある。

Q3. 仮に多世代共創的活動の中で、持続可能な社会の実現にとって効果があるものがあるのに、一部の世代に十分な動機がないことが障壁となっている場合に、参加の制度化などに向けて、どのようなことが考えられるか?


①まず、動機を高めるための努力(持続的な社会の重要性に関する認識の浸透、経験者による体験談の広報、ネットワーク作りの促進など)が重要であろう。

②しかし、経験しないとわからない効能もあり、活動への参加で自分だけが遅れてしまうという不安にも配慮する必要があるので、何らかの制度化も考えるべきであろう。具体的には人為的なインセンティブを付加する場合と強制的要素を持たせる場合とが考えられる。

人為的なインセンティブとしては、謝礼、資格(就職面での優遇等)などが考えられるが、コストに見合ったメリットがあるなら、それをどう回収できるかも含めて積極的に検討すべきであろう。インセンティブは必ずしも、大きなものでなくても良い場合がある。参加への心理的なハードルを下げるためのきっかけになるような工夫が有効なことがある。

強制的な要素をもったものとしては、学校教育への組み込みや義務化が考えられる。その場合、単に大人の都合で導入するのではなく、若い世代自身や将来世代にとってのメリットが大きいことを十分に説明する必要があり、そのための根拠となるデータが必要である。また、社会保障を巡って、若い世代に大人世代に対する不信感があるとすれば、それを払拭するような対策が同時に必要であろう。

⑤参加の促進策としては、インセンティブの付与や制度化の他に、情報的手段も有効である。何かをしたいと考えていても、自ら情報を集めて、ドアをたたく人はそう多くないからである。例えば定年退職を間近に控えた人々を主な対象として、自治体などが主宰して特定の日に、NGOなどが出店を出して参加者を募る活動を一斉に行う「地域デビューの日」(仮称)などを設けることも一案である。

⑥大学の学生が研究の一環として地域の多様な世代と関わりを持つことは、一つの有力なチャネルであろう。

⑦参加の制度化を考える場合には、それが全体主義的な色彩を帯びないよう、あるいは帯びていると誤解されないよう十分な注意が必要である。

Q4. 自然科学系の新技術(情報技術を含む、潜在的技術も含む)は多世代共創のあり方にどのような影響があり、それが持続可能な社会の実現にとってどのような含意を持つのか?


①これまでの科学技術の発達は、人と人の助け合いの必要性を低下させたり、生活と生産を分離させたりする効果を持つものが多かった。このため、人々の絆が弱まり、地域社会の弱体化やそれに伴う環境悪化などの背景になってきた。しかし、近年の発達した諸技術は、逆の方向の効果を持ち得るものが多いと考えられ、その可能性を意識的に追及することが重要と考えられる。

②まず、ICTの活用が重要であろう。ICTは通信を通じて空間的隔たりを埋めるだけでなく、記録・検索を通じて異時代間の隔たりを埋め得る。また、身体が衰えた高齢者が社会とのつながりを維持する重要なチャネルになり得る。しかし一方で、ICT弱者が取り残されることにならないような配慮が必要である。

③ICTは、匿名性の高さに伴う問題や、情報操作への脆弱性といった問題を抱えている可能性があり、それを補完して安心して利用するための仕組み(社会技術)をあわせて開発する必要がある。

ソーシャルメディアがもたらすつながりには浅いものが多い可能性がある。浅いつながりのメリットとデメリットを分析して、活用策を議論していくことも有用であろう。

⑤ICTの発達は、多様な需要を満たすための汎用的なコンテンツと、個別の需要を満たすための目的別インターフェイスを両立させる可能性を広げている。多世代が共用できるシステムを通じた新しい多世代共創がそこから生まれる可能性がある。

⑥医療の発達は、人とのつながりなどのソーシャル・キャピタルや幸福感が健康に与える影響を客観的に検証することを可能にしつつある。また、なじんだ町の自宅で生活をしながら治療を続けるためのノウハウの開発が可能になり、メリットも明らかになってきた。

制御技術の発達も高齢者のケアなどの面で様々な可能性を開いている。

マルチレベル分析の発達によって、集団が個人に与える影響と個人が集団に与える影響との相互関係を包括的に分析することが可能になった。

⑨技術の発達を促すためには、その将来的な活用可能性が見えることが必要であり、そのためには制度面も含めた前広な検討が必要である。

⑩多世代共創は技術革新のあり方を変えていく可能性を秘めている。多世代からの多様なニーズをAI(人口知能)やビッグ・データを活用しつつ、日本の優れた要素技術と組み合わせることで、日本の国際競争力を新しい時代にふさわしい形で強めていくことも期待される。

Q5. 多世代共創的活動は人々の意識にどのような変化をもたらすか? そのような意識変化は持続可能な社会の実現にとってどのような含意があるか?


①参加した人々が活性化したとの報告が多いが、参加した人々が多世代共創的活動への潜在的な志向性をもっていたという自己選択バイアスの可能性にも配慮した慎重な分析が必要であろう。そうした人々の潜在的能力を発掘することはもちろん重要ではあるが、参加に消極的な人々とのギャップを拡大させることがないような配慮も必要である。

②多世代共創に参加した多くの人は、充実感や達成感を感じており、それが次の活動につながるという好循環に入っていくことも多い。このような循環が生まれると、新しい問題が起きても皆で協力して解決していけるという、地域への安心感が醸成される。

③参加に消極的な人々を巻き込むためには、楽しさ適度な緩さが重要であろう。ただし緩いつながりがうまく機能するための条件について検討が必要である。

④人々の活性化は意識面だけでなく、健康の改善と相互促進的に進展する可能性が高く、その具体的なメカニズムを解明することが望まれる。健康の改善はそれ自体重要であるとともに、労働供給の増加や医療費の削減を通じて経済や財政の持続可能性に寄与する。

⑤多世代共創的活動は、欝や引きこもりに有効である可能性があるが、最初のハードルをどう乗り越えていくかについての検討が重要である。

Q6. 社会実装を軌道に乗せるために、どのような戦略や配慮が有効か?


(1) 多世代共創の仕組みが生まれるような仕組みはどのようなものか?どう作り得るか?


①多世代交流から始めて、意義と楽しさを理解してもらうことが出発点であろう。そして相互信頼が高まりある段階(共創融点)を超えると共創の動きが出てくる。最初の一歩のハードルを下げることが重要であるが、そのためには楽しさを盛り込むことを考えるべきであろう。

②多世代交流の「場」を設けることで、多世代共創に発展していく可能性がある。現在の公共施設の多くは世代別に作られているが、これを多世代型施設として利用することを検討すべきであろう。施設の有効利用や経費の節減につながる可能性もある。

③一世代だけでは作れない資産や、将来世代への影響が大きい問題に関する議論は多世代で取り組むべきとの認識を広める必要があろう。そのため、学校教育の中で多世代共創の概念を教育するカリキュラムも必要であろう。

④子供の参加は、大人や高齢者に大きな訴求力を持ち、多世代を引き付ける「核」となり得る。一方、子供には大学生のような少しだけ上の世代と交流することへの需要が強い。多世代間のこうした誘引構造をうまく生かすことも考えるべきであろう。

⑤うまくいっている活動の共通点としては、革新的なアイディアを持つリーダーと、その人のリーダーシップを尊重しつつ事務的にしっかり支えるようなゲートキーパー(ネットワークの仲介者)が何人かいること、そしてそのチームの世代がある程度多様であること、また行政とうまく連携していることなどがあげられる。

⑥参加は、必ずしも一堂に会するという直接的な参加でなくても良いが、初期段階では物理的な場の重要性が高い。

⑦各種のノウハウを蓄えて各地の多世代共創を支援するような支援組織の必要性も考えられるが、これが自立していくためのファイナンスの問題などを解決する必要がある。


(2) 担ぐ人の育成:多世代での推進役が必要と思われるが、それはどのように確保できるか?


①長期的な戦略のもとにこれから社会に出るエントリー世代へ地域の持続可能性情報を伝えることが重要である。

自分事という意識をもってくれない人は推進役にはなりにくいが、一方で、義務や負担と感じさせないような緩さや退出の自由度も必要であろう。

③若い参加者に関しては、過重な負担と感じない程度に、意欲・能力・適性に応じた役割を積極的に割り振っていくことが重要であるが、組織等で人材の配置・育成能力を培った高齢者の能力を活用すべきであろう。

④活動の種類によっては、経験→審査→資格認定というプロセスが有効な場合もある。


(3) 場:空間的な場の確保と同時に場の特性を維持・改善していくためにはどうしたら良いか?


①基礎自治体という場で考えることが必要かつ有効である分野が多いと思われる。

②教育機関における取り組みも重要である。低学年のうちから上級生、下級生、中高生、大学生、大人、高齢者などとの交流に慣れてもらうような仕組みが必要ではないか?

③地域コミュニティ以外にも、バーチャルな場が機能し得る。ただし、活動の立ち上げ期や、初めての参加者のアクセス容易性という観点からは、「居場所」など、物理的な場の効果はやはり大きい。その理由は、多様性に対応しやすいことではないかと思われる。すなわち物理的な場には様々な性格の空間があり、集団内での自分の位置づけやその日の気分に応じて居心地の良い場所に座り易いことや、場の雰囲気や皆の表情を見ながら適当なタイミングで話し出せることなどである。バーチャルな場も、物理的な場のもつこうした特性を取り込んでいくことで、機能を高められる可能性がある。


(4) 活動基盤:ファイナンスが大きな条件だが、それ以外にどのようなものが考えられるか? また、ファイナンス上のネックにはどのようなものがあって、どう乗り越え得るか?


①NPO法人を設立して、公的な助成等を受けて活動するのが代表的な選択肢であろう。

②経費を抑えるためには、既存施設の有効利用も重要である。

③高齢化の中で、空き家や独居住宅のような個人資産を地域の拠点として利用する手法も有効である。この際、提供してくれる人にとってのメリットをどう確保するかに配慮する必要がある。

④分野によっては民間企業の投資が見込めるものもある。


(5) 社会的認知の上げ方:熱心な賛同者、おとなしい理解者、無関心な人、反論をしてくる人、類似の活動をしている人、など様々な人がいる中で、どのように社会に浸透していくか?


①信頼関係が基盤として必要なので、急ぎ過ぎず、小さな成功から始めて積み重ねていくことが重要である。

②地域の人間関係を理解し、地域のリーダーの協力を得ることも重要である。一方で、既存の人間関係からニュートラルな場として位置付けることも重要である。

③自治体の協力は重要であるが、地域の人々との直接的な関係を築くことも重要である。地域の人々が「上から降って」きたと感じられるようなことは避ける必要がある。

メディアに取り上げてもらうことも効果がある。

⑤運営の透明性に留意し、批判や反論に柔軟に対応することが多様な人々の信頼を得ていくことにつながる。

⑥より一般的には、社会関係資本も含めた地域の資源の状況への関心を高める必要がある。そのためには地域間比較ができるような指標の開発と整備も重要である。


(6) 自治体との関係:分野によっては重要であるが、自治体には、公平性重視、縦割り、外部への警戒感などの特性があるが、一方で個人として応援の気持ちを持っている人もいる。こうした構造の中で、どう協力を取り付け社会実装につなげるか?


①自治体との連携は参加者の安心感につながる。自治体の協力を得るためには政党や宗教団体からの中立性に対する配慮が重要である。また、地域の活性化や財政負担の減少につながり得るということを説明することも、自治体の協力を得るうえで重要である。

②自治体は心強いパートナーになり得るがリスクに敏感である。主なリスク要因としては、何か事故があった時の責任問題と、研究資金が途絶したあとの運営を肩代わりさせられるのではないかという将来負担の懸念とがある。前者に関しては、必要に応じて保険でカバーしたり、自己責任での参加であることを確認する措置をとったりするなどの対応が必要であろう。後者に関しては、早い段階から様々な選択肢を検討し、関連の情報を開示しつつ自治体と相談していくことが重要であろう。

③問題意識をもった自治体の協力を得て成功事例を作り、そこから広めていくのが効果的であろう。

④活動がある程度広がり有効性についての社会的認知も高まってくれば、まずは地域横断的な連携を行い、さらには全国的な制度化も検討すべきであろう。その際に、規制改革特区などの制度を自治体と協力して活用していくのも一案である。


(7) マニュアル化などが可能か?


地域が抱えている課題は多様であり、一つのマニュアルを作ることは困難であるが、多世代共創、あるいはその前段階としての多世代交流の促進については経験から学べることも多いので、チェックリストのようなものは、作成可能と思われ、本領域ではハンドブックを作成することとした。

Q7. 多世代共創の程度や多世代型ソーシャル・キャピタル(SC)の指標、および中間的指標について:


(1) 指標にはどのようなものが考えられるか? また、持続可能な社会の実現に寄与するという面での有効性を評価するための中間的な指標としてはどのようなものが考えられるか?


①一般にSC指標はアンケートで作成することが多いが、多世代型の質問群の開発も進んできた。今後は、例えば以下((2)を含む)のような整理に基づく、仮説検証型の作業が重要と思われる。

②より詳細に把握していく場合には、活動の種類、相手、場、共創的要素の有無、などいくつかの軸で整理していくことが考えられるが、どのような軸が重要かは実証分析も踏まえた検討が必要である。

③暗黙知の共通性、共通意識シェアド・リアリティ(共通の経験)の有無や程度は、通常SCの要素には含まれないが、共通の基盤を持つ人々の間では信頼感が形成されやすく、こうした要因が地域のSCの形成に大きな影響を与える可能性がある。この点の解明も重要であろう。

④多世代共創とのSCとの関係を考えていくためには、多世代共創に関する意識指標と行動指標を区分し、どのような環境要因が意識の形成に寄与するのか、またどのような環境要因のもとで、意識が行動に結び付きやすいかを吟味していくことが重要であろう。

⑤多世代型SCは広義と狭義の二つを区別することが有効な場合もある(広義は異世代との交流を含むもの、狭義は三世代以上が参加するもの)。また、子供の参加の有無も重要な要因である可能性がある。


(2) 持続可能な社会の実現に寄与するという面での有効性を評価するための中間的な指標としてはどのようなものが考えられるか?


①中間指標としては、A. 多世代共創活動の浸透度(関連するイベントへの参加人数、交換される情報の量や質、認知度など)、B. 多世代型SCの形成度合い、C. 幸福度・生きがい・健康感・健康度、D. 共通意識や共通認識の形成の程度、などが考えられる。最初の3者については、相互に密接に関連していることが実証されつつある。

②最終目標である「持続可能な社会の実現」により近い中間指標としては、E. 持続可能な社会を実現するための行動(例えば、エネルギーを節約する行動、地域のためのボランティア活動、地域のビジョン作り)に関する行動指標群が考えられる。また、F. 地域の未来についての問題意識や危機意識の水準の変化など、それに対応した意識指標も中間指標になる。

③さらに、G. 持続可能性に直接関係する指標群の計測が可能な場合もある。環境への負荷、地域の人口増減や雇用、地域の自治体の財政状況などである。

④そこで、A~DとE~Fとがどのように関連しているか、またE~FとGとがどのように関連しているかということを明らかにしていく必要がある。また、多世代共創という方法論の意義を明らかにする上では、多世代型のSCの方が同世代型のSCよりもC~Fとの相関が強いかどうか、についての検証も行う必要がある。

⑤別の角度からのチェックポイントとしては、H. 個人の自由意志の存在、I. 地域外出身者の被排斥感、J. 自立と協調のバランス、なども重要と考えられる。こうしたものとA~Gとの相互関連についても研究を深める必要がある。

Q8. 地域の自然の持つ意味をどう捉え、どう生かしていくか?


(1) 持続可能な社会の実現に向けた多世代共創活動の中で、地域の自然はどのような意味をもつか?


①山や川の自然やその四季の移ろいは、人々に自分の有限性を想起させ、歴史、先祖、子孫などに思いを致すきっかけを与える。

②子供時代に地域の自然に親しんだことが、共通体験として地域の基盤になることもある。

③災害に対する対応は地域社会の結束の大きな要因になってきた。こうした有事の際に行政などを補完する地域社会の役割はなお重要で、ここからより広い協力・共創に発展する可能性がある。

④自然は、地域の祭りなど共同活動の舞台(共同利用の対象)になる。

⑤自然は、人々に癒しや元気を与える効果がある。


(2) 地域らしさを規定する要因として、自然要因の重要性はどう変化していくか? また他の要因で重要となってきたもの、重要となっていくものは何か?


①就業や所得に占める第一次産業の比率低下や災害対応の進歩などによって、自然条件が地域に与える影響の重要性は低下してきた。

②しかし、自然条件の影響は地域の歴史や伝統という形で残っている。歴史や伝統が再評価される中で、地域の自然が再注目される可能性もある。特に海外からの観光客が増加する中で、地域の自然や伝統産業が新しい意味を持つ可能性に注意が必要である。

③また地場の野菜、果物、魚介、鉱産物などに、地域を特徴づける産物としてのポテンシャルを持ったものもある。

④経済活動の広域化・国際化が進む中で、資本、労働、技術、情報などの地域間流動性は増している。こうした中で上記の自然要因や歴史要因などに加え、インフラとソーシャル・キャピタルが、地域を特徴づける要因として相対的に重要になっている。

⑤地域の自然や伝統のどの部分を守るべきか、またインフラやソーシャル・キャピタルをどのような方向に発展させていくべきか、については多世代の市民が参画しつつ議論していく余地が大きい。


(3) 地域をとりまく条件は多様とは言っても、すべての地域が独自の途を見出すことは可能なのか?


①似た特徴を持つ地域が似たような活性化戦略を採用することは自然である。

②また、似たような地域の事例から学べることも多いが、何らかの条件の差によって期待された効果が得られないこともあり、地域興し・地域づくりにあたっては地域特性に関する多面的な検討が重要である。

③地域活性化に際して、所得水準や特定品目の生産額などを目標に掲げると、すべての地域が上位になることは困難であるが、満足度や充実度などより総合的な指標をKPIとすれば地域の実情にそくした形で十分な水準を達成できる可能性があろう。そのためには、総合的な指標が、どのような要因に依存するかの考察が重要になる。こうした面での研究開発が重要である。

④地域の市民がこうした研究や議論に参画することで、発展戦略やソーシャル・キャピタルにも地域的多様性が生まれてくる可能性がある。


領域の成果