開催日:2019年(令和元年)12月15日(日)
会場:せんなん里海公園しおさい楽習館(大阪府阪南市)
生産・漁獲から流通、消費、評価まで。一連のプロセスを包括的に捉え、ひとつひとつの問題点をクリアしていくことで、漁業と魚食文化を再生していこうという試みが、このプロジェクトです。今回は主に「生産・漁獲」と「消費」に関連する試み。地元のみなさんと一緒に、ワカメを育てます。
海藻を通じて、地元の海の魅力を知るイベント
まずは「私のワカメ」目印プレートを自作
NPO法人大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事の岩井 克巳氏による講習から、イベントはスタートしました。ワカメを含むさまざまな海藻の種類や、海藻が海の環境に与える影響、食品としての魅力についてレクチャーを受けます。刺身のツマでしか見たことのない海藻の「正体」が解説されると、大人の間からも小さく「えっ、そうだったんだ」「ああ、あれが! へえー!」と感心の声がこぼれてきます。
続いて、阪南市長 水野 謙二氏からのご挨拶。阪南市では昨今、地場産物の魅力を掘り起こす活動を推進し、地産地消や外部へのPRに力を入れています。海産物はもちろん、その主戦力。この研究開発プロジェクトの大きな支えです。
岩井 克巳専務理事(写真左)と水野 謙二市長(写真中央)。定員ぎりぎりいっぱい、70名ほどのみなさんにお集まりいただき、真冬の会場もあったかでした。
座学ののち、プラ板のプレートを作成しました。プレートは目印として自分の「ワカメの種」とともにロープにくくりつけ、海に沈めてしまいます。これから3ヶ月間、ワカメの成長を見守ってくれることを祈り、期待をこめてメッセージや絵を描きましょう!
プレートに好きなものをどんどん描く子どもたちと、考え考え描く大人たち。描きあがったらオーブンで「チン」して熱で縮め、厚く破損しづらくします。大塚研究代表も、「チン」のお手伝い中。
島国育ちなら知っておきたい?
正しいワカメの育てかた
さて、ここから先は専門家以外には「未知の世界」。ワカメの「種糸」が登場しますが......これが「種」?
長さ15センチほどの「種糸」は、漂うワカメの胞子を糸に採取して、少しだけ育てたもの。肝心の胞子は糸にしっかりくっついているはずですが、目には見えません。端でひらひらしているのは「芽」だそうです。
「芽が大きく出ている種糸を選んだほうが、よく育つよ」とアドバイスをいただきました。とはいえその「芽」も、お味噌汁の鍋に張りついた残りのようなサイズ。本当に食べられる大きさに育ってくれるのか、ちょっと心細いかも。
この種糸を、養殖用の長いロープ(幹縄)の隙間に、しっかり押し込んでいきます。
「種付け」の準備としてロープを濡らす作業を担当する、学生のみなさん。まんべんなく効率よく全体を濡らす方法を工夫中ですが、なんだか楽しそうですね。冷たい海風が強い日なので、自分が濡れないよう気をつけて......。
種糸をロープに押し込んで固定する器具は、ソーイングに使われる「ひも通し」と理屈は同じです。
ロープにはあらかじめ、等間隔で目印がついています。植付の手順を教わったら、それぞれ自分の場所を確認して、作業開始。目印プレートを結束バンドで取り付け、そばに種糸を植え付けます。
小学生くらいからは、お手本を真似してひとりで種付けも。重たいロープの回収は大変そうでしたが、小さな子どもたちが威勢よくお手伝いしてくれました。
食卓では馴染み深いワカメですが、自分で養殖してみるというのは、かなりマニアックな世界のような気がします。でも会場で伺うと、参加者の3分の1ほどは昨年も参加されたかたとのこと。また、ご家族連れでの参加が圧倒的多数でした。
阪南市には漁協が3つあり、海の幸は「あってあたりまえ」のものです。もっと地元の漁業を見直し、日常的な食卓に海産物を登場させ、地域全体で海のある暮らしを活性化させたい。その気持ちは、地元に暮らす多くのみなさん、とりわけ未来の阪南市を担う子どもたちがいる家庭では、大きく共感できるのではないでしょうか。
大塚プロジェクトではこれまでも、漁場の環境を改善する栄養骨材の設置や、魚の鮮度を保つ輸送方法、地魚を使ったメニューの開発、試食会などを行ってきました。
昨今、「地元ならではの海の幸」にスポットを当てたビジネスが活性化しています。環境負荷の小さい国内水産資源は、持続可能性の面からも注目を集めはじめています。漁業と魚食文化が、一過性のブームではなく次世代を見据えたムーブメントとして、成長していくことを期待します。
まずは3ヶ月後、「私のワカメ」の成長を楽しみに!
※所属・役職は、取材当時のものです。
(文責:RISTEX広報 公開日:令和2年3月31日)