【プロジェクト訪問】『未来町長』がまちづくりに挑む、「くじゅうくり未来ワークショップ」

開催日:2019年(令和元年)9月1日(日)
会場:つくも学遊館(千葉県山武郡九十九里町)

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2017年に公開された「未来カルテ」は、人口、産業構造、財政などさまざまな現状データから、「このままの傾向が続くと、この自治体は2040年にはこうなる」という詳細な試算結果を見せてくれるプログラムです。2019年9月現在、全国1,791の市町村すべてのデータが揃い、誰でも無料でダウンロードして簡単に使うことができます。
このカルテを、中高校生等からの意見抽出や自治体職員の議論に活用する、「未来ワークショップ」という会議の手法があります。この日は、千葉県の九十九里町で開催された「未来ワークショップ」に伺いました。

「町長、大変です!」
2040年就任の未来町長が
九十九里町に山積みの問題に挑む

九十九里町は次期総合計画の策定中です。高齢化や人口減少、空き家問題などが差し迫った課題として論じられる中、対策案を求めてWEBで検索し、目に留めていただいたのが、「未来カルテ」公開サイト「OPoSSuM」だったそうです。たまたま千葉大学にご縁もあり、他市での「未来ワークショップ」例等を確認のうえで、「町の未来を担う、中高校生の意見を吸い上げたい」と開催を決定したとのことでした。
当日は、高校生10名中学生2名、そして「見学」として町役場の若手職員さん5名にお集まりいただきました。司会進行役は、なぜか黒髪のカツラを被った倉阪研究代表。テーブルごとにファシリテータが座り、まとめ役を務めます。
自己紹介を兼ねたアイスブレイクのあと、「時が進み」ワークショップ会場は2040年の未来へ。参加者は「未来町長」に就任し、山積みされた町の問題に挑んでいきます。
未来町長のみなさんの手元には、九十九里町の「未来カルテ」をもとにした資料があります。人口、産業教育、介護、気象、災害、財政......県平均や全国平均と比較して、「九十九里町は、なぜそうなるか」について、倉阪代表が可能な範囲で解説していきます。大変な情報量ですが、さらに町の職員さんから、九十九里町の歴史についての解説も加わりました。未来町長、すごい勉強量ですよ!

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「未来町長バッジ」をつけて、2040年の町長になった参加者のみなさん。問題を解決するために、政策を考えなくてはなりません。

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参加者を2040年にご案内する「未来博士」の倉阪代表は、「2040年になった」とたん、なにやらお年を召したご様子に......。

昼食前に質問票が集められました。お昼休みとリクリエーションをはさんで、その質問票に答える時間が設けられます。「農業人口が減るとどんな影響があるの?」「仕事はどうして減るの?」といった社会学的な質問から、「この町にある太陽光パネルの数は?」のような町政に関する事柄、「ゴミで儲ける方法はある?」というビジネスに関わる事柄まで、「未来博士」や町の職員さんが丁寧に回答していきます。「今も地引き網漁はやっているの?」という質問には、ワークショップに参加していた若手職員さんが手を挙げて回答者役を買って出る一幕も。
そしていよいよ、課題の書き出しと、今の町長への提言書き出しが始まります。「2019年のうちに、こうしてくれたらよかったのに」というアイデアを出し合い、整理していきます。

ここでちょっと面白い光景が見られました。
ひととおり出された課題と提言をまとめたあと、お互いのテーブルを行き来して参考にしあうのですが、「見学」として参加していた若手職員チームのテーブルに、中高校生が集まってしまいました。一斉に取り囲み、「空き家対策にはどんな方法があるの」「温暖化はどうしたら」と現状を尋ね、自分たちのアイデアとの距離感を計りたい様子です。
前半は席についたまま、少し困ったように課題出しの付箋を書いていた参加者も、職員チームのテーブルを見に行ったあとは、立ち上がって次々と付箋を貼っていました。

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中高校生が中心のワークショップで「大人」の意見を参考にするのは、リスクもあります。せっかくの大胆なアイデアや、大人が気づかなかった斬新な視点が、「こんなことを書いたらヘンだと思われそう。恥ずかしい」と萎縮して消えてしまうのです。今回は幸い、プラスに働いたようです。

このまちの未来を、私のアイデアで変えたい
『未来町長』から2019年の町長への提言

まとめた付箋をみんなで見て回り、これはというアイデアに「いいねシール」を貼ったら、いよいよ町長を招いての政策提言へ。それぞれのチームが3分の持ち時間で、イチオシのアイデアを提言していきます。
おそらくプレゼンの経験ゼロのはずのみなさん、ぶっつけ本番の発表おつかれさまでした!

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九十九里浜を「マリンスポーツのための浜」ではなく、「とっても広いフリースペース」として捉えての提言は、大人顔負けのリポジショニング発想でした。また、大人に大人気だった「いわしラーメン」の開発は、地産地消かつインバウンド需要も見込めそうな良案。ぜひ実現してほしいところです。

終了後は、町役場の職員のみなさんが、そこここで「このアイデアなら、すぐできるね」「お金もかからないし」とささやき合っていました。「中高校生から新鮮な意見を吸い上げたい」という目的のワークショップでしたが、参加者の様子からは、また違った変化が見て取れるように感じました。

近隣に大学が無いこの町では、高校を出たら、進学にせよ就職にせよ、いったん町を離れなくてはなりません。戻ってくるのか、こないのか、戻るつもりなら外で何を学んでくればいいのか、何を持ちかえればこの町の未来をよりよいものにできるのか。
つまり、「私自身は、この町をどうしたいのか」......「未来ワークショップ」は、そんなことをふっと考えてみるスイッチになります。

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倉阪プロジェクトのサイト「OPoSSuM 」(Open Project on Stock Sustainability Management )では、「未来ワークショップ」を開催する際のファシリテータマニュアルや、実際のワークショップで使われたチラシや資料なども無料公開しています。自治体等でワークショップを開催する場合は、それらの資料を自由にお使いいただけます。

今回のような出張ワークショップはNPO法人地域持続研究所の事業として行っており有料ですが、当日の司会や各班のまとめ役の派遣はもちろん、自治体の状況に応じた企画の提供、資料の作成や解説も併せてご提供しています。
まちづくりのヒントに、「未来カルテ」や「未来ワークショップ」をご活用いただけましたら幸いです。

※所属・役職は、取材当時のものです。
(文責:RISTEX広報 公開日:令和元年9月20日)

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