Parallel DAY2 (16:30-18:30, 26. Sept. Room: 503)
CS1-07 Intergenerational co-creation to achieve sustainable and inclusive development
Chair: Takashi Omori, RISTEX, JST, Japan
前列左より、内田氏、山本氏、大守氏、Leng Leng Thang氏、 後列左より、古川氏、島谷氏。
WSSF2日目の9月26日、「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域は、パラレルセッション「Intergenerational co-creation to achieve sustainable and inclusive development」を開催しました。
開会にあたり、領域総括の大守隆氏より、本領域では持続可能な社会を実現するために多世代共創的活動は有効であるという作業仮説に基づいて活動を進めており、16プロジェクトを採択している旨、説明がありました。また、これまでにわかったこととして、多世代共創的活動は老若男女に活力を与え、考え方・行動を変えることができ、多様な知の集約を可能とし、合意形成を促し、活動を持続可能なものにすることが挙げられました。
次に「未来の暮らし方を育む泉の創造」プロジェクト代表の古川柳蔵氏より発表がありました。本プロジェクトでは、北上市、豊岡市、伊勢志摩地域、沖永良部島といった自然豊かな場所をモデル地域として、バックキャスティングと高齢者へのインタビュー(90歳ヒアリング)を組み合わせて、厳しい環境制約下でのライフスタイルイノベーションに取り組んでいます。
バックキャスティングでは、最初に何が将来の環境制約となるかを理解し、振り返って将来発生する課題を見つけ、次にこれらの課題を解決するために、未来の持続可能なライフスタイル、目的・ビジョンをデザインします。そしてこれらを達成するための方法を考えます。90歳ヒアリングでは、例えば、昔はコミュニティで大切な自然資源を共有しており、木材を切って保管し共有するプロセスを楽しんでいたことが分かります。
本プロジェクトでは、昔のライフスタイルを概念化し、ここから新しいライフスタイルを創造します。ライフスタイルイノベーションの過程としては、最初に、大学と自治体が協力して新しいライフスタイルを幾つかデザインし、その後、モデル地域において、選んだライフスタイルを試行し、新ビジネスを提案します。
このような取組は、秋田市、湯沢市、大津市、都市部の杉並区でも始まっており、ライフスタイルイノベーションの潮流は日本で広がっていて、アジアにおいても有効ではないかとの発言がありました。
次に「分散型水管理を通した、風かおり、緑かがやく、あまみず社会の構築」プロジェクト代表の島谷幸宏氏が発表しました。古代の日本で空、雨、海はすべて「あま」という同じ音で表され、水は空から来て海に行くという循環の思想がありました。日本では、打ち水や、かめ貯水など、水を管理してきた長い歴史があります。しかし現代の都市部では、全ての雨水が地下に潜り、循環システムを見ることができません。そこであまみず社会を提案します。あまみず社会では、あらゆる場所で浸透、貯水、利用が行われ、人と人、人と自然がつながります。
このようなコンセプトを広めるために、樋井川流域に「あめにわ憩いセンター」「あまみず科学センター」をつくり、茶会や、あまみず学習ワークショップ、あまみずレンジャーによる環境教育等により、多様な世代に継続的に働きかけています。例えば福岡市立友泉中学校では、あまみず社会のコンセプトを念頭に、あまみず流出抑制効果のある、楽しい雨水貯留、利用方法のアイディアを話し合い、計画にまとめて雨水タンクを設置するなど、あまみず学校プランの実装を進めています。また、分散型水管理システムの考え方と要素技術、それを支えるコミュニティデザインについてあまみずコーディネーター養成講座を開催し、人材育成を実施しています。
次に「地域の幸福の多面的側面の測定と持続可能な多世代共創社会に向けての実践的フィードバック」プロジェクト代表の内田由紀子氏が発表しました。内田氏は文化と心理の相互作用の過程を解明する文化心理学的アプローチをとっており、個人の幸福を超え、社会やコミュニティなどの環境と、個人との相互作用の中にある幸福感に着目し、地域の幸福を測る指標を開発しようとしています。
本プロジェクトでは、「地域の人々はどのように幸福を捉えているのか」「地域間でのマクロレベルの幸福をどのように評価するのか」といった問いから始め、540小地域(国勢調査の小地域)をサンプリングして分析し、通信デバイスを用いた社会的ネットワークの行動調査、健康の客観的な指標(ストレスホルモン、血圧、運動機能)との関連調査等を行います。
これまでに、地域内の信頼関係がほかの土地に住む人や移住者への開放性に結びついており、これには地域への愛着が関係していて、このような社会資本は持続可能性につながるといった調査結果が得られています。今後、日米の比較等により、どのような条件なら地域内の信頼関係と開放性が結びつくのか検証する必要があります。
最後に、シンガポール国立大学准教授の Leng Leng Thang氏の発表「Promoting intergenerational programs and co-locations of cross-age services for sustainable intergenerational understanding: the case of Singapore」があり、多世代によるアプローチとして、プログラムによる活動、空間デザイン、カリキュラム、政策の側面について説明しました。
シンガポールでも高齢化が進んでいますが、シンガポールでの社会政策の中心は家族で、3世代同居家族の割合は他の先進国に比較して高くなっています。
教育的活動として、RSVP Singapore - The Organisation of Senior Volunteers、教育省による学校でのValue-in-Action (VIA) 、第3世代評議会(C3A:Council for Third Age)によるIntergenerational Learning Programme (ILP)、高齢者と子供が場を共有する試みとしては、3-IN-1 Family Centerや、St Joseph's Home、Project Spring-Winter等が紹介されました。
この後、全ての発表者に加えて平安女学院大学准教授の山本芳華氏が登壇し、大守氏が座長としてパネルディスカッションを行いました。
最初に山本氏は、奈良県大和高原地域で生産されている大和茶を、茶農家のサポート、普及のためのブランディング等により持続可能なものとするプロジェクトについて説明しました。山本氏が授業で家に急須があるか聞いたところ、ペットボトルのお茶は飲むけれど、約半分の学生は急須を持っていなかったとのことです。日本の緑茶の消費量が減少し、価格が下落し、茶農家の高齢化も進む中、特に大和茶の状況は深刻です。この活動は多くのボランティアによって支えられており、今後も推進していきたいと述べられました。
Leng Leng Thang氏からは、これまでの発表を聞いた上でのコメントとして、古川氏、島谷氏のプロジェクトからは、日本は自然を重視しており多世代をつなぐツールとなっていると感じたが、特に食は重要で、シンガポールでも多世代によるアプローチに食の要素を取り入れているとの発言がありました。
次に領域のリサーチ・クエスチョン(*)の2「特に若い世代(子供、学生、若年単身者、子育て世代等)にとって、多世代共創的活動に参加するための動機にはどのようなものが考えられるか?」について議論したところ、楽しさ、食、自然、コミュニティにおける役割や、かつての神社や寺社のように多くの機能をつなぐコミュニティセンターが挙げられました。また活動の継続のためには、活動の核となってくれる人を見つけることが重要との発言もありました。
また、多世代共創的活動における感想として、登壇者からは、多くの人が「多世代共創」という言葉を気に入っているということを意外に思ったとか、子供達が両親だけでなく、祖父母の絵を描くようになるなど、高齢者との交流に関心を持つ様子が印象的だったといったコメントがありました。
最後に大守氏から本セッションの登壇者・参加者への謝辞が述べられ、セッションは終了しました。
*当日発表資料(一部Web公開用に修正しています)