サービス科学をテーマにした「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」は、平成22年度に始まり、平成28年度に活動を終了しました。
本プログラムは、社会の具体的あるいは潜在的なニーズを把握し、実データや事例を利用した分野融合型(自然科学と人文・社会科学等)のアプローチによって、問題解決のための技術・方法論等を開発(質・効率の向上と新しい価値の拡大)するとともに、「サービス科学」の研究基盤構築を目指した研究開発を推進しました。
本プログラムの詳細サイトは下記よりご覧ください。
プログラム総括
土居 範久
慶應義塾大学 名誉教授※所属・役職はプログラム終了当時のもの
平成22年度から開始された研究開発プログラム「問題解決型サービス科学」は、「サービス科学」の研究基盤を構築すること、および研究成果を様々なサービスに活用し社会貢献をするために有効な技術・方法論などを開発し、「サービス科学」の研究者・実践者のコミュニティの形成に貢献することを目指しています。まだ日本ではなじみの薄い「サービス科学」の研究開発プログラムを構築するために、ワークショップを開催し、対象とする問題解決プロジェクトのイメージ、基礎となる研究エレメントなどの議論を行ってきました。
初年度(平成22年度)の公募では、対象領域を特定せず、幅広く社会におけるサービスの提供者・被提供者を含むサービスシステムに対し、質・効率の向上、新しい価値の拡大および「サービス科学」の基盤研究を目指す科学的アプローチによる研究を提案してもらうことにしました。その結果、北は北海道から、南は沖縄まで、大学・研究所のみならず企業・NPO法人から非常に多くの応募を頂きました。
従来の科学研究と異なり、「サービス科学」では既存のサービスに科学的アプローチを導入してサービスの効率化・最適化を図るだけではなく、自然科学分野とマネジメント・マーケティング・文化人類学等の人文・社会科学分野を融合し、サービスの現場と協業することにより、サービスに関する科学的な概念・理論・技術・方法論の構築を目指します。選考会では、こうした観点に着目しました。採択された研究開発プロジェクトは、サービスの基礎理論、サービスマネージメント、そしてサービス工学に関わるものとなりました。
今後、これらの研究開発プロジェクトが「問題解決型サービス科学」研究開発プログラムのモデルケースとなるように、研究代表者とアドバイザリボードのメンバーとが一体となって実施していきます。さらに、次年度以降の公募に向けて、本プログラムの情報発信に努めるとともに、関係各位との議論を通じ「サービス科学」構築のために努力していきたいと考えています。
プログラムの概要
「サービス」及び「サービス科学」の考え方
「サービス」は社会的・経済的価値を生み出す機能を有し、その範囲は金融業や小売業、情報サービス等、これまで「サービス産業」に位置付けられてきたものから、環境・エネルギー、行政、福祉・医療等の公的サービスまで幅広い分野に至りますが、我が国では、従来、サービスは商品に付加的なもの(商品の値引き等を含む無料の奉仕、貢献等)、あるいは製造業と区分されたサービス産業における商品として捉えられてきた側面があります。
一方、近年では、サービスにより生まれる価値には、サービスと貨幣との交換によって生まれる価値(交換価値)に留まらず、モノやサービスを利用することによって生まれる価値(利用価値)までも含まれ、サービス(サービス業)とモノ(製造業)とは不可分であるという考え方が世界的に拡がりつつあります。
以上を踏まえ、本プログラムでは、「サービス」を、 「提供者による、被提供者のための価値創造を目的とした機能の発現」 と捉えることとします。なお、ここでいう「価値創造」には、被提供者に対して行う一方向的な価値創造のみでなく、提供者と被提供者が価値を共有し、さらに双方向的かつ同時に価値を創造する「価値共創」も含まれます。
また、本プログラムの「サービス科学」が従来の科学研究やサービス関連の研究開発と異なるのは、既存のサービスに科学的アプローチを導入してその効率化や最適化を図るのみに留まらず、社会における様々なサービスについて、サービスの提供者と被提供者を含むアプローチにより、科学的な概念・理論・技術・方法論の知見を生み活用していくことで、新しい学問的基盤の構築と価値の向上や創造を実現しようとする点です。
なお、ここで用いる「科学」は、数学や情報通信工学等の自然科学分野と、マネジメントやマーケティング、文化人類学等の人文・社会科学分野の両方を含みます。以上を踏まえ、本プログラムでは、「サービス科学」を、 「サービスに係わる科学的な概念・理論・技術・方法論を構築する学問的活動、及びその成果を活用すること」 と捉えることとします。
プログラムの目的
本プログラムでは、以下の目的を設定します。
- 問題解決に有効な技術・方法論等を開発します。
- 「サービス科学」の研究基盤を構築します。
- 研究成果を、様々なサービスに活用し、個々の問題を解決することで、社会に貢献します。
- 「サービス科学」の研究者・実践者のコミュニティ形成に貢献します。
上記の目的を達成するために、本プログラムでは具体的なサービスに係わる問題解決を起点とする「A.問題解決型研究」と、「サービス科学」の研究エレメントを起点とする「B.横断型研究」の二種類の研究アプローチを設定します。
さらに「B.横断型研究」の下に、文理融合に重点を置いた研究アプローチのB1(文理融合型)と、人文・社会科学系に重点をおいた研究アプローチのB2(人文・社会科学型)を設定します。
- A.問題解決型研究の問題解決
- B.横断型研究の科学的な概念・理論・技術・方法論の創出
- B1:文理融合型
- B2:人文・社会科学型
AとBが補完的に働き、「サービス科学」の研究エレメントが一般化・体系化されることにより、基盤構築の進捗が期待されます。
プログラム成果のまとめ
本プログラムでは、平成22年の発足以来、サービス科学の研究開発基盤の構築、さまざまなサービスに関する問題解決の方法・技術の創出に取り組んできました。この結果、研究成果を利用したサービス提供に至ったものや、体系的な理論研究成果等を創出してきました。また、サービス科学研究の位置づけを理解するための共通的フレームワークである「サービス価値共創フレームワーク(通称、ニコニコ図)」を提示しました。さらに、サービス学会の設立にも本プログラムの参加者が関与してまいりました。
これらの活動を推進する中で、サービスに関わる社会の状況は大きく変化し、今後はICTを活用した新たな価値を提供するサービスの創出が加速される「超スマート社会」に至ると想定されるようになりました。そのような状況のもと、新サービス創出のために、どのような研究開発の取り組みが必要かについて検討するため、本プログラムの下に若手のサービス研究者やデザイナーなどからなる「サービス学将来検討会」を設置し、1年超の調査、議論を重ね、その検討結果を報告書「未来を共創するサービス学を目指して」として取りまとめました(平成27年10月)。
平成28年度には、上記報告書を基に、新サービスの創出とサービスデザインの方法論の確立に取り組む研究開発プログラム構想の可能性調査の公募を実施し、8課題を採択しました。平成29年3月には、この可能性調査の成果報告を兼ねたワークショップを行い、構想の発展に向けて提案のブラッシュアップを行いました。
本研究開発プログラムの活動の記録やプロジェクト成果等は、プログラムサイト上で公開しています。
「未来を共創するサービス研究開発の可能性調査(FS)」採択課題
- コンテキストと時間変化を考慮したサービスシステムのフレームワークの導出と検証
(澤谷 由里子/東京工科大学 大学院バイオ・情報メディア研究科 教授) - 日本製造業のサービス化における阻害要因とその解決のための研究課題に関する調査
(下村 芳樹/首都大学東京 大学院 システムデザイン研究科 教授) - つなぐ技術による豊かな共空間創造サービスの開発
(白肌 邦生/北陸先端科学技術大学院大学 大学院先端科学技術研究科 准教授) - 豊かなコンテクストのある超スマート社会のサービス・デザイン
(鈴木 智子/京都大学大学院経営管理研究部 特定准教授) - 社会厚生を拡大する共創型プラットフォームサービスの可能性調査
(原 辰徳/東京大学 人工物工学研究センター 准教授) - 超高齢・定常型社会における分散型サービスの展開に向けた調査
(藤田 卓仙/名古屋大学大学院経済学研究科CBMヘルスケアイノベーション寄附講座 寄附講座准教授) - 集合知メカニズムを埋め込むことによるサービスイノベーション
(水山 元/青山学院大学 理工学部 経営システム工学科 教授) - 未来の安心のための災害避難所に関するレジリエンスアシストサービス実装の可能性調査
(綿貫 茂喜/九州大学 大学院芸術工学研究院 デザイン人間科学部門 教授)
なお、本プログラムでの成果を基にした書籍「サービソロジーへの招待」を平成29年度に出版しました。
編著:村上輝康・新井民夫・JST 社会技術研究開発センター
東京大学出版会
定価:本体3900円+税
プログラムの評価
中間評価
評価報告書 |
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事後評価
評価報告書 |
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研究開発プロジェクト
平成25年度採択
【A研究】:「問題解決型研究」:具体的なサービスを対象に、当該サービスに係る問題解決のための技術・方法論などを開発して問題を解決するとともに、得られた技術・方法論が「サービス科学」の研究基盤の構築に貢献することを目的とする研究。
経験価値の見える化を用いた共創的技能eラーニングサービスの研究と実証 淺間 一 (東京大学 大学院工学系研究科 教授) |
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救命救急サービスを核とした地域の安心・安全を創出する知的社会サービス基盤の創生 濱上 知樹 (横浜国立大学 大学院工学研究院 教授) ※進展状況を評価した上で中止 |
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【B研究】:「横断型研究」:研究エレメントに焦点を当て、新たな知見を創出し積み上げることで体系化し、「サービス科学」の研究基盤を構築する。それにより将来的に 現場のさまざまな問題解決に応用され、サービスの質・効率を高め、新しい価値の創出に貢献することを目的とする研究。
高等教育を対象とした提供者のコンピテンシーと受給者のリテラシーの向上による共創的価値の実現方法の開発 下村 芳樹 (首都大学東京 大学院システムデザイン研究科 教授) |
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価値創成クラスモデルによるサービスシステムの類型化とメカニズム設計理論の構築 西野 成昭 (東京大学 大学院工学系研究科 准教授) |
平成24年度採択
【A研究】:「問題解決型研究」:具体的なサービスを対象に、当該サービスに係る問題解決のための技術・方法論などを開発して問題を解決するとともに、得られた技術・方法論が「サービス科学」の研究基盤の構築に貢献することを目的とする研究。
共創的デザインによる環境変動適応型サービスモデルの構築~レストランサービスを例として~ 貝原 俊也 (神戸大学 大学院システム情報学研究科 教授) |
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文化的な空間における触発型サービスによる価値創造 中小路 久美代 (京都大学 学際融合教育研究推進センター デザイン学ユニット 特定教授) |
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ITが可能にする新しい社会サービスのデザイン 中島 秀之 (公立はこだて未来大学 学長) |
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介護業務における情報活用基盤を用いた介護の質の評価に基づく、新しい「人財教育・評価サービス」の検討・実用化 村井 純 (慶應義塾大学 環境情報学部 学部長/教授) |
【B研究】:「横断型研究」:研究エレメントに焦点を当て、新たな知見を創出し積み上げることで体系化し、「サービス科学」の研究基盤を構築する。それにより将来的に 現場のさまざまな問題解決に応用され、サービスの質・効率を高め、新しい価値の創出に貢献することを目的とする研究。
金融サービスにおける企業・従業員・顧客の共創価値測定尺度の開発 戸谷 圭子 (明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授) |
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平成23年度採択
【A研究】:「問題解決型研究」:具体的なサービスを対象に、当該サービスに係る問題解決のための技術・方法論などを開発して問題を解決するとともに、得られた技術・方法論が「サービス科学」の研究基盤の構築に貢献することを目的とする研究。
農業水利サービスの定量的評価と需要主導型提供手法の開発 飯田 俊彰 (東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授) |
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サービス指向集合知に基づく多言語コミュニケーション環境の実現 石田 亨 (京都大学 大学院情報学研究科 教授) |
【B研究】:「横断型研究」:研究エレメントに焦点を当て、新たな知見を創出し積み上げることで体系化し、「サービス科学」の研究基盤を構築する。それにより将来的に 現場のさまざまな問題解決に応用され、サービスの質・効率を高め、新しい価値の創出に貢献することを目的とする研究。
日本型クリエイティブサービスの理論分析とグローバル展開に向けた適用研究※B1(文理融合型) 小林 潔司 (京都大学 経営管理大学院 教授/経営管理研究センター長) |
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やさしい社会の実現を目指したサービスにおける利他性の研究:自殺防止相談員の事例を中心に※B2(人文・社会科学型) 舘岡 康雄 (静岡大学 大学院工学研究科 教授) ※進展状況を評価した上で中止 |
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医療サービスの「便益遅延性」を考慮した患者満足に関する研究※B1(文理融合型) 藤村 和宏 (香川大学 経済学部 教授) |
平成22年度採択
【A研究】:「問題解決型研究」:具体的なサービスを対象に、当該サービスに係る問題解決のための技術・方法論などを開発して問題を解決するとともに、得られた技術・方法論が「サービス科学」の研究基盤の構築に貢献することを目的とする研究。
音声つぶやきによる医療・介護サービス空間のコミュニケーション革新 内平 直志 (北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 教授) |
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サービスシステムモデリングによる産業集積における価値共創の可視化と支援 木嶋 恭一 (東京工業大学 大学院 社会理工学研究科 教授) |
【B研究】:「横断型研究」:研究エレメントに焦点を当て、新たな知見を創出し積み上げることで体系化し、「サービス科学」の研究基盤を構築する。それにより将来的に 現場のさまざまな問題解決に応用され、サービスの質・効率を高め、新しい価値の創出に貢献することを目的とする研究。
顧客経験と設計生産活動の解明による顧客参加型のサービス構成支援法~観光サービスにおけるツアー設計プロセスの高度化を例として~ 原 辰徳 (東京大学 人工物工学研究センター 准教授) |
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文脈視点によるサービス価値共創モデルの研究 藤川 佳則 (一橋大学 大学院国際企業戦略研究科 准教授) |
未来を共創するサービス研究開発の可能性調査(FS)プロジェクト
平成28年度採択
コンテキストと時間変化を考慮したサービスシステムのフレームワークの導出と検証 澤谷 由里子 (東京工科大学 大学院バイオ・情報メディア研究科 教授) |
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日本製造業のサービス化における阻害要因とその解決のための研究課題に関する調査 下村 芳樹 (首都大学東京 大学院システムデザイン研究科 教授) |
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つなぐ技術による豊かな共空間創造サービスの開発 白肌 邦生 (北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 准教授) |
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豊かなコンテクストのある超スマート社会のサービス・デザイン 鈴木 智子 (京都大学 大学院経営管理研究部 特定准教授) |
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社会厚生を拡大する共創型プラットフォームサービスの可能性調査 原 辰徳 (東京大学 人工物工学研究センター 准教授) |
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超高齢・定常型社会における分散型サービスの展開に向けた調査 藤田 卓仙 (名古屋大学 大学院経済学研究科 CBMヘルスケアイノベーション寄附講座 寄附講座准教授) |
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集合知メカニズムを埋め込むことによるサービスイノベーション 水山 元 (青山学院大学 理工学部経営システム工学科 教授) |
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未来の安心のための災害避難所に関するレジリエンスアシストサービス実装の可能性調査 綿貫 茂喜 (九州大学 大学院芸術工学研究院 デザイン人間科学部門 教授) |
プロジェクト企画調査
平成22年度採択
国別適応型サービス設計のためのサービス価値導出プロセスの観測と同定のための企画調査 淺間 一 (東京大学 大学院工学系研究科 教授) |
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製販一体型の情報循環実現に向けた顧客サービスの計測・解析に関する企画調査 貝原 俊也 (神戸大学 大学院システム情報学研究科 教授) |
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地方都市活性化のための社会シミュレーションモデル企画調査 寺野 隆雄 (特定非営利活動法人 横断型基幹科学技術研究団体連合調査研究委員会 調査員) |
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医療・介護サービスにおける場づくりと共創的イノベーションに関する企画調査 三宅 美博 (東京工業大学 大学院総合理工学研究科 准教授) |