「犯罪からの子どもの安全」研究開発領域は、平成19年度に始まり、平成24年度に活動を終了しました。
少子化が進む中で、犯罪から子どもを守ることは重要な社会問題です。保護者や警察だけの問題でないことは、虐待やいじめによる自殺の問題などをみても明らかです。犯罪から子どもを守る上では、「子どもは社会全体で守り育むべき存在である」、「様々な取組みを被害の予防に結びつける」、「人、モノ、社会システムの観点から考える」、この3点が重要であると考えます。
本領域の詳細サイトは下記よりご覧ください。
領域総括
片山 恒雄
東京電機大学 教授※所属・役職はプログラム終了当時のもの
子どもを取りまく環境が社会とともに大きく変化する中、子どもが犯罪に巻きこまれる事件の発生を受け、国をはじめとして、防犯の観点から地域で子どもを守る取り組みが、家庭、学校、地域住民、自治体、NPO、企業などによって行われています。
しかし、現状では、目の前にいる子どもの安全を守るための個別の取り組みが、試行錯誤的に実施されているにすぎず、有効で継続的な取り組みには至っていないと、多くの関係者は問題を指摘しています。
そこで、平成19年度から新しい研究開発領域「犯罪からの子どもの安全」を設定し、現場で問題解決に取り組む人たちと研究者の協同作業として、防犯対策に科学的な知見や手法を導入するとともに、社会に役立つ効果的で持続的な取り組みとなるよう、多くの関与者に開かれたネットワークをつくり、優れた研究開発プログラムを推進することにしました。
詳しくはこちらをご覧ください。
領域の目標
この研究開発領域は、以下の3項目を目標としました。
- 犯罪からの子どもの安全に取り組む人々と研究者の両方を含む関与者の間で情報共有し協働するための開かれたネットワークを構築する。
- 本領域の活動が、我が国において科学的根拠に基づく犯罪予防の重要性が認知され、定着する一つの契機となることを目指して、防犯対策の基盤となる科学的知見及び手法を創出する。
- 子どもが犯罪被害に巻き込まれるリスクの低減を目指して、科学的知見及び手法を活用し、地域の実情に合わせた効果的かつ持続的な防犯対策について、政策提言、実証等の具体的成果を創出する。
研究開発の推進に際しては、「信頼できる人間関係」、「子どもの心身の健全な育成」などの重要な価値が損なわれないこと、興味や立場の異なる多くの人たちの協同作業により担われる取り組みであることに留意する。
ネットワークの構築
子どもを犯罪から守る取り組みを強化するためには、問題解決に取り組む人たちと研究者が経験と知恵を出し合って、科学的根拠に基づく防犯対策を実施していくことが大切です。そのような環境を醸成するには、さまざまな人たちが自由に情報を交換し、問題意識を共有することが可能な人的ネットワークの構築が重要になります。
そこで、本領域では目標(1)を設定し、問題解決に取り組む人たちや研究者の探索、情報の発信・共有などを、領域運営の一環としてセンターが実施しました。
ネットワーク構築と研究開発プログラムを同時に実施することにより、具体的な問題解決に取り組むための優れた研究開発提案がなされるとともに、研究開発の成果が本プログラムの関係者以外にも広く普及し活用されることが期待されます。また、本領域の活動を通して構築されたネットワークにより、領域が終了した後も新たな協力関係が生み出されることが期待されています。
領域の構成
本領域は以下の構成で研究開発活動を推進しました。
研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」
研究開発テーマの概要
領域の目標2と3を達成するために、公募による研究開発プログラムを推進しました。推進に当たっての問題意識と想定される主要な研究開発プロジェクトの例は以下のとおりです。
- 防犯対策の基盤となる科学的知見及び手法の創出
近年、欧米を中心に犯罪予防を科学的かつ合理的に推進するための知的基盤が整備されつつあり、防犯対策の科学的な効果検証の要請が高まっています。我が国においても、防犯対策の立案における科学的知見の活用や取り組みの効果検証及びフィードバックが課題となっています。例えば、子どもの犯罪被害の実態や、違法・有害情報が子どもに与える影響など、防犯対策に結びつく知見を科学的根拠に基づいて集め、その活用方法を提言すること、子どもの発達段階に応じた能力や地域のボランティアが担いうる負担などを考慮に入れて、これまで実践されてきた防犯教育や防犯活動を評価・分析し、対策の効果を測定する手法を確立することなどが考えられます。その際、単に欧米で有効性が示された知見の収集・分析に留まらず、我が国独自の文化や法制度、社会システムを考慮した上で、どのような対策が有効かを検証する視点が求められます。 - 科学的手法・知見を活用した、地域の実情に合わせた効果的かつ持続的な防犯対策の創出
地域社会で活発に行なわれている子どもを守る取り組みを、効果的かつ持続的なものとするためには、科学的手法及び知見をどのように活かすかが課題です。また、取り上げる問題や対策、地域の実情によって、子どもを犯罪から守るための取り組み、関与する主体やその連携、防犯技術の活用のあり方などはさまざまですが、子どもの犯罪リスクの低減という視点からは、地域社会システム全体の設計とその実践及び評価が求められています。例えば、子どもの健全な育成を損なわないよう注意しながら、地域を構成する多様な主体が効果的に防犯対策を実施していくための設計手法について科学的根拠に基づき提言すること、特定の地域において対策を実施し、その効果を科学的に評価することなどが重要です。すでに防犯対策に使用され、または近い将来に使用されることが見込まれる技術については、それらを地域の防犯対策に用いて効果を評価すること、将来使用される可能性がある技術については、有効な技術開発のあり方と社会の受容について指針を示しておくことが必要になります。このようなプロジェクトを実施することにより、プロジェクト終了後も、地域において科学的根拠に基づく犯罪予防の重要性が認知され、地域の実情の変化に合わせて対策を更新していくサイクルが定着することを期待します。
このプログラムでは、研究開発プロジェクト及び(具体的なプロジェクト提案の作成のための)プロジェクト企画調査を実施しました。実施期間は、プロジェクトについては1~5年間、企画調査については半年間です。
領域の成果のまとめと提言
私たちは、科学的根拠に基づく犯罪予防の取組みを日本で認知・普及し、子どもへの犯罪リスクを低減し未然に被害から守るため、科学的な知見や手法と、地域の実情に合った具体的成果を創出すること、そのために地域、学校、行政などの現場で問題に取り組む人々と研究者が協働するネットワークを構築することという3つの目標を掲げ、6年にわたり13のプロジェクトを推進してきました。
また、シンポジウムなどを通じて、個々のプロジェクトの取組みや成果に止まらない問題提起を行ってきました。そして、その総括として、個々の研究者や、一助成機関の取組みでは解決できない課題を「犯罪から子どもを守る7つの提言」としてまとめました。様々な取組みや政策にも役立つと確信しています。
犯罪から子どもを守る7つの提言
- あらゆる関与者が協働して子どもを守り育む
- 実態と根拠を踏まえ持続的な取組みを目指す
- 子どもの叫びを捉えデータ化し予防に活かす
- データを共有し取組みに活かす仕組みを作る
- 犯罪現象を理解して防犯に役立つ能力を育む
- 犯罪予防に資する研究開発や実装を促進する
- 現場のニーズや研究の成果を社会に発信する
領域・プロジェクトの成果発信
領域活動は平成24年度末に終了しましたが、問題の全てが解決したわけではありません。プロジェクトの成果を社会にお返しし、さらに発展させていくということでは、これからがスタートと言っても過言ではありません。また、今後も新しい問題が出てくるに違いありません。そこで、これまでの取組みや成果をお伝えするために、本研究開発領域の活動の記録やプロジェクト成果等を、領域webサイト上で公開しています。
「犯罪から子どもを守る7つの提言」全文や13のプロジェクト成果など、領域の成果を分かりやすくまとめました。各プロジェクトの具体的な成果に加え、実際に成果を活用いただいた協働者の声や、犯罪予防の考え方なども紹介しています。また、プロジェクト独自のWebサイトへのリンクもあります。
研究開発プロジェクト
平成21年度採択課題
- 子どもを犯罪から守るための多機関連携モデルの提唱
石川 正興(早稲田大学法学学術院 教授/早稲田大学社会安全政策研究所 所長) - 犯罪の被害・加害防止のための対人関係能力育成プログラム開発
小泉 令三(福岡教育大学 教育学部 教授) - 被害と加害を防ぐ家庭と少年のサポート・システムの構築
辻井 正次(浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 客員教授/ 中京大学 現代社会学部 教授) - 子どもの犯罪に関わる電子掲示板記事の収集・監視手法の検討
中村 健二(立命館大学 情報理工学部情報システム学科 助手) - 演劇ワークショップをコアとした地域防犯ネットワークの構築
平田 オリザ(大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター 教授)
平成20年度採択課題
- 子どものネット遊び場の危険回避、予防システムの開発
下田 太一(特定非営利活動法人青少年メディア研究協会 理事長/合同会社ロジカルキット 代表) - 犯罪から子どもを守る司法面接法の開発と訓練
仲 真紀子(北海道大学 文学研究科 教授) - 虐待など意図的傷害予防のための情報収集技術及び活用技術
山中 龍宏(独立行政法人 産業技術総合研究所 デジタルヒューマン工学研究センター傷害予防工学研究チーム チーム長) - 計画的な防犯まちづくりの支援システムの構築
山本 俊哉(明治大学 理工学部 教授)
平成19年度採択課題
- 子どもの見守りによる安全な地域社会の構築 ハート・ルネサンス
池﨑 守(特定非営利活動法人 さかいhill-front forum 理事長) - 系統的な「防犯学習教材」研究開発・実践プロジェクト
坂元 昂(社団法人 日本教育工学振興会 会長) - 子どもの被害の測定と防犯活動の実証的基盤の確立
原田 豊(科学警察研究所 犯罪行動科学部 部長) - 犯罪からの子どもの安全を目指したe-learningシステムの開発
藤田 大輔(大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター教授/センター長)
プロジェクト企画調査
平成20年度新規採択課題
- こころに着目して被害と加害をともに防ぐ
辻井 正次(浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 客員教授) - 子どもの感情理解・統御能力の測定と訓練
箱田 裕司(九州大学 人間・環境学研究院 教授)
平成19年度採択課題
- 子ども中心の体験型安全教育プログラムの開発
清永 賢二(日本女子大学 人間社会学部教育学科 教授) - 子どものネット遊び場危険回避、予防システム開発の提案
下田 博次(群馬大学 社会情報学部 教授) - ITを用いた子どもの安全確保の研究開発
松本 勉(横浜国立大学 大学院環境情報研究院 教授) - インテンショナル・インジュリー予防のための情報技術
山中 龍宏(独立行政法人 産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センター傷害予防工学研究チーム長) - 地域の防犯まちづくり活動計画策定推進支援ツールの開発
山本 俊哉(明治大学 理工学部建築学科 准教授) - 幼稚園・保育所等における幼児の安全管理手法確立のための研究開発
渡邉 正樹(東京学芸大学 教育学部 教授)
実行可能性調査
平成21年度採択課題
- 保健室ネットワークによる子どもの危険への対処
宮尾 克(名古屋大学大学院 情報科学研究科 教授)
実行可能性調査とは、研究開発プロジェクトとしての実行可能性を半年間で調査し、その結果に基づき、あらためて採択・不採択についての評価を行うことを条件としたものである。
評価を実施した結果、研究開発プロジェクトとしての採択には至りませんでした。
評価
事後評価
研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」同プログラム研究開発プロジェクト事後評価について
- 平成25年5月
「犯罪からの子どもの安全」研究開発領域について、平成25年2月に同領域及び同プログラムの事後報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次のとおりです。 - 平成25年5月
研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」同プログラム平成24年9月に終了した8研究開発プロジェクト事後評価について、平成24年11月から進められ、平成25年1月に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次のとおりです。 - 平成24年10月24日
研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」同プログラム平成21年度に採択され、平成24年3月に終了した1研究開発プロジェクト事後評価について公表します。 - 平成24年2月
研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」同プログラム平成19年度に採択され、平成23年9月に終了した2研究開発プロジェクト事後評価について、平成23年12月から進められ、平成24年2月8日に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次の通りです。 - 平成23年11月
研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」平成19年度、21年度に採択され、平成22年度に終了した研究開発プロジェクト事後評価について、平成23年6月から進められ、平成23年11月23日に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次の通りです。
中間評価
研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」同プログラム平成19年度採択研究開発プロジェクト中間評価について
- 平成22年6月
研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」同プログラム平成19年度採択研究開発プロジェクト中間評価については、平成21年11月から進められ、平成22年5月25日に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次の通りです。