2013年3月31日をもちまして、領域の活動は終了致しました。

 子どもを取り巻くさまざまな問題が複雑になるなか、いじめや虐待、非行といった被害・加害の防止に一つの機関だけで対応することは難しく、関係機関がお互いに連携した迅速・的確な対応が求められます。しかし、他の機関への理解が不足しており、実際は連携がとれていない場合もあります。
 そこでプロジェクトでは中学生を対象に、今起きている加害者化・被害者化の拡大をくいとめる方法や、その後の対応における適正で有効な連携のあり方について、学校・教育委員会、児童相談所、警察(少年サポートセンター)を中心に研究し提案を行いました(図1)。

 プロジェクトは3つの政令指定都市で研究を進めました。学校・教育委員会、児童相談所、警察の少年サポートセンターの担当部署が同じ建物・フロア内にあり、活発に人事交流している北九州市、ケースごとに関係機関が対応チームを作る札幌市、そして各機関が高い専門性と独自性を保ちつつ連携へ向けて歩み始めた横浜市です。

 3都市の連携対応事例を調べ、聞き取り調査で連携の実態を解明するとともに、3都市間でお互いを評価しあったほか、3都市以外の関係機関による外部評価も行いました(図2)。有効かだけでなく法的に適正かも検討し、最終的に提言としてまとめました。

 研究から見えてきた有効な連携方法は、関係機関が同じ建物・フロアに入ることや人事交流をすること、研修会を常設することなどです。情報の共有や相互理解も深まり、素早い的確な対応が可能になります。また中学卒業後から20歳を超えた若者までに切れ目のない就労・就学支援をする体制の整備や、虐待対応に追われ非行の相談に対応しきれない児童相談所の機能を連携により強化する必要性も見えました。人事交流を進めるための法律・条例の制定や、子どもの個人情報保護に関する法令を守ることも大切です。

 3都市間の研究交流を通じて、北九州市では児童相談所に教員の現職と退職者、退職した警察官を置く「非行相談部門」が新設されました。札幌市では児童相談所の虐待対応部門に退職した警察官を置くとともに、警察と教育委員会で協定書をかわし情報共有を進めました。横浜市では児童相談所長が神奈川県学校・警察連絡協議会の会議に参加したほか、子どもや若者の総合的な相談に応じるセンターの設立を構想しています。
 各都市の機関連携の仕組みを担当者が相互に見聞きし、意見を交換する研究交流も連携の促進に有効なので、全国レベルでの交流会実施も提案しました。

代表者・グループリーダー
■石川 正興:早稲田大学法学学術院 教授 / 早稲田大学社会安全政策研究所 所長
■田村 正博:早稲田大学社会安全政策研究所 客員教授
■石堂 常世:早稲田大学教育・総合科学学術院 教授 / 早稲田大学社会安全政策研究所 研究所員
■棚村 政行:早稲田大学法学学術院 教授/早稲田大学社会安全政策研究所 研究所員
■小西 暁和:早稲田大学法学学術院 准教授 / 早稲田大学社会安全政策研究所 研究所員

主な実施者
■宍倉 悠太:早稲田大学社会安全政策研究所 研究助手 ■三枝 功侍:早稲田大学大学院法学研究科 M2
■大浦 宏:札幌少年鑑別所 所長 ■阿部 政孝:横浜少年鑑別所 所長 ■中嶋 英治:小倉少年鑑別所 所長
■望月 茜:早稲田大学大学院法学研究科 M2 ■溝田 明美:福岡県警察本部少年課 室長補佐
■下妻 一雄:福岡県警察本部少年課 室長補佐 ■齊藤 敏雄:北海道少年サポートセンター 所長
■井上 靖浩:北海道少年サポートセンター 所長 ■鳥海 保弘:神奈川県警本部少年育成課 課長
■山田 眞也:神奈川県警本部少年育成課 課長
■池田 尚弥:日本ガーディアン・エンジェルス北九州支部 理事
■宮古 紀宏:早稲田大学教育・総合科学学術院 助教
■帖佐 尚人:早稲田大学大学院教育学研究科 D2 ■平林 末一:北九州教育委員会 指導第二課長
■渡邉 義隆:北九州教育委員会 指導第二課長 ■斎藤 宗明:横浜市教育委員会 人権教育・生徒指導課長
■坂井 徹:横浜市教育委員会 人権教育・生徒指導課長 ■藤原 究:杏林大学総合政策学部 専任講師
■原田 綾子:早稲田大学比較法研究所 助手 ■伊藤 亜佑美:早稲田大学大学院法学研究科 M2
■曽根崎 哲也:福岡保護観察所北九州支部 支部長 ■岩崎 健朗:福岡保護観察所北九州支部 支部長
■横山 由美子:敬愛大学国際学部 兼任講師 ■関 美喜子:早稲田大学大学院法学研究科 M2
■小石原 善徳:北九州市子ども家庭局・子ども総合センター 所長
■藤川 智久:北九州市子ども家庭局・子ども総合センター 所長 ■築島 健:札幌市児童相談所 所長
■勝澤 昭:横浜市中央児童相談所 所長

協力者
■高橋 みどり:札幌少年鑑別所 統括専門官 ■菊地 功:横浜少年鑑別所 統括専門官
■森山 利昭:小倉少年鑑別支所 首席専門官
■安永 智美:福岡県警察本部生活安全部少年課・北九州サポートセンター 係長
■榎田 慶一:北九州市教育委員会 指導主事・北九州サポートセンター 係長
■木元 匡:北海道少年サポートセンター被害少年支援・育成係担当 統括官
■前田 幸子:北海道少年サポートセンター 育成係長
■龍島 秀広:北海道教育大学教職大学院 教授 ■阿部 敏子:神奈川県少年相談・保護センター 所長
■西谷 晴美:神奈川県少年相談・保護センター 所長 ■佐藤 哲也:北九州市折尾中学校 教頭
■鎌田 茂義:北九州市教育委員会指導第二課・北九州少年サポートチーム 室長
■中嶋 孝宏:神奈川県警察本部生活安全部少年育成課副 主幹
■鈴木 光敏:横浜教育委員会人権教育・児童生徒課担当 係長
■水木 尚充:横浜教育委員会人権教育・児童生徒課担当 主任指導主事
■松浦 弘則:福岡県保護観察所北九州支部 保護観察官
■守口 昌彦:北九州市子ども家庭局・子ども総合センター 児童虐待防止担当 課長
■田中 弘人:北九州市子ども家庭局・子ども総合センター 非行相談担当 課長
■入江 幽子:札幌市児童相談所 相談一係長  ■清水 孝教:札幌市児童相談所 相談二係長)
■岡 聰志:横浜市北部児童相談所 相談調整係長
※所属・役職は、参加終了時のもの。詳しくは研究開発実施終了報告書を参照。

【論文】

■石堂 常世(2010)児童生徒における社会性・規範意識の開発の問題 -実践的教育哲学論-,早稲田大学大学院教職研究科紀要,第2号.

■石堂 常世(2010)児童生徒の規範意識の醸成に関する教育法規・政策の推移と概況,早稲田大学社会安全政策研究所紀要,第2巻.

■石堂 常世(2011)身につけさせよう規範意識,子どもに規範意識を身につけさせよう : 次代を担う少年の育成のために(全少協少年研究叢書22)全国少年警察ボランティア協会編,17-64.

■若林 隆生(2011)滋賀県における少年非行防止と立ち直り支援のための機関連携について,早稲田大学社会安全政策研究所紀要,第3号.

■宮古 紀宏(2011)子どもの問題行動に対する多機関連携の事例研究-北九州市の取組に着目して-,生徒指導学研究,第10号.

■帖佐 尚人(2011)我が国における児童虐待問題と生徒指導上の課題-学校の虐待予防・防止機能に焦点を当てて-,早稲田大学教育学会研究大会紀要,12.

■石川 正興(2012)多機関連携事例あれこれ,更生保護,3月号.

■石堂 常世(2012)学外の機関・人的資源活用にあたっての学内基盤整備-望ましい連携の前に生徒指導体制はどうあるべきか-,早稲田大学教育総合研究所研究報告書「子どもの問題行動防止と健全化育成をめぐる総合的対策の研究-学校内の改善および学校外関係機関とくに警察との連携を中心に-」.

■石堂 常世(2012)徳育における規範意識の問題-21世紀における徳育の強化から見えてくるもの-,早稲田大学大学院教職研究科紀要,第4号.

■石堂 常世,宮古紀宏,帖佐尚人(2012)北九州市及び札幌市立小・中学校の生徒指導に関する質問紙調査結果(報告)-生徒指導体制と予防教育に焦点を当てて-,早稲田大学社会安全政策研究所紀要,第4号.

■宮古 紀宏(2012)学校を起点とした効果的な多機関連携に関する事例研究-北九州市・札幌市・横浜市の取組を例に-,早稲田大学教育総合研究所研究報告書「子どもの問題行動防止と健全化育成をめぐる総合的対策の研究-学校内の改善および学校外関係機関とくに警察との連携を中心に-」.

■宮古 紀宏(2012)横浜市における児童生徒の問題行動の現状と教育施策の展望-地域連携システムの新たな展開に向けて-」,早稲田大学社会安全政策研究所紀要,第4号.

■宮古 紀宏,帖佐尚人(2012)札幌市における子どもの問題に対する多機関連携制度-学校を端緒とした取組に着目して-,早稲田大学教職研究科紀要,第4号.

■帖佐 直人(2012)戦後我が国における子どもの問題行動等に対する一次予防教育-中学校段階におけるその取り組みの歴史的展開と今後の展望-,早稲田大学教育総合研究所研究報告書「子どもの問題行動防止と健全化育成をめぐる総合的対策の研究-学校内の改善および学校外関係機関とくに警察との連携を中心に-」.

■田村 正博(2012)少年福祉機関、教育機関及び警察の連携-北九州市の事例を中心に,警察政策,第14巻,警察政策学会.

■田村 正博(2012)警察の組織と行動特性と他機関連携のための施策について,早稲田教育評論,第26巻,1号.

■田村 正博(2012)児童相談所における警察経験者配置の意義,早稲田大学社会安全政策研究所紀要,第4号.

■田村 正博(2012)警察と学校との連携-少年サポートセンターの役割と非行防止教室を中心に-,早稲田大学教育総合研究所研究報告書「子どもの問題行動防止と健全化育成をめぐる総合的対策の研究-学校内の改善および学校外関係機関とくに警察との連携を中心に-」.

■望月 茜(2012)少年補導職員及び少年関係課所属警察官へのアンケート調査結果報告,早稲田大学社会安全政策研究所紀要,第4号.

■小西 暁和(2012)児童相談所を起点とした機関連携に関する質問紙調査の結果について―独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター研究開発プログラム〈犯罪からの子どもの安全〉研究開発プロジェクト「子どもを犯罪から守るための多機関連携モデルの提唱」における研究の一環として―,早稲田大学社会安全政策研究所紀要,第4号.

■棚村 政行(2012)児童虐待の防止に向けた取り組みと今後の課題,早稲田大学社会安全政策研究所紀要,第4号.

【メディア報道・投稿】   

■2011年5月21日,千葉日報朝刊,公開シンポジウム(第一次) .

■2011年5月25日,東京新聞朝刊,公開シンポジウム(第一次) .

■2012年3月16日,北海道新聞夕刊,公開シンポジウム(第二次).

【その他】

■2011年8月,石川 正興編,中学生を犯罪から守るための多機関連携-学校・児童相談所・警察を中心に-JST研究開発プログラム〈犯罪からの子どもの安全〉「子どもを犯罪から守るための多機関連携モデルの提唱」公開シンポジウム(第一次)報告書,早稲田大学社会安全政策研究所.