子どもの精神的負担に配慮した「司法面接」。専門的なスキルを有した人材育成を目指す。

  • 公私領域

2022年12月23日

  • 研究開発プロジェクト名
    多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装
  • 研究代表者
    仲 真紀子 理化学研究所 理事/立命館大学OIC総合研究機構 教授(2022年12月)
  • 研究開発期間
    2015年11月~2020年3月
  • Webサイト
    「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域Webサイト 仲プロジェクトページ
    専門家の連携と司法面接の習得を支援する研修プログラムを開発
    研究開発成果の定着に向けた取り組み
  • プロフィール (2022年12月)
    1984年お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科修了。同大学術博士を取得。東京都立大学人文科学研究科助教授、北海道大学大学院文学研究科教授を経て、2017年、同大名誉教授。2021年、立命館大学 OIC総合研究機構 教授、2022年、理化学研究所 理事。専門は法と心理学、認知心理学、発達心理学。

研究開発の概要

虐待など親密な関係性の中での被害は対応が容易ではありません。主な理由は、被害者から正確な報告が得られにくいからです。その背景には、被害者が加害者との関係性に縛られ話ができないことや、周囲の大人による聴き取りや面接が多重に行われる結果、供述の変遷や精神的な二次被害が増加し、的確な対応が難しくなるなどの問題があります。
本プロジェクトでは、聴き取りを困難にする心理学的要因を調査し、精神的負担に配慮しつつ正確な情報を多く収集する面接法(司法面接)の習得、共有、連携を支援する研修プログラムを開発しました。研修と基礎的研究を繰り返しながらプログラムの充実を図り、技能を持つ専門家と、研修を行うトレーナーを育成し、実事例の支援も行いながら社会実装を進めました。司法面接における連携は、その後の福祉、支援、介入における連携をも支えます。

インタビュー(2022年8月)

事件や事故が発生した際に、それを体験した子どもから正確な事実を聴取することは決して容易なことではない。特に虐待被害が疑われる場合、子ども本人から、その被害状況を聞き出すことは難しい。周囲の大人、例えば、親や教師が「子どもは被害にあった」という仮説のもと、根掘り葉掘り尋ねることで誘導が生じたり、記憶に歪みが生じたりすることがある。また、繰り返し話をさせることで、子どもの精神的な負担が増大する。仲真紀子教授は、できるだけ正確な被害状況を、できるだけ子どもの精神的負担を考慮した形で聴取することを目指す面接法、「司法面接」の習得、共有、連携を支援する研修プログラムを開発した。この研修プログラムによって、司法面接の専門的な技術を持った人材を育成し、さらに研修を実施することができるトレーナーの育成も行っている。子どもが体験した事柄を正確に十分に話すことができるように、そして精神的な二次被害に遭わないように、司法面接のより良い手法を模索しながら適切なスキルを有したより良い人材の育成を目指す。

「子どもを虐待から救いたい」。司法面接の役割とは。

子どもから正確な情報を聞き出すことはなぜ難しいのか。仲教授はこのように話す。
「虐待の事実が疑われたとき、周りの大人は心配のあまり『こうだったの?ああだったの?』と最悪の事態を想定しながら誘導的に質問しがちです。子どもが質問に答えられずにいると、『◯◯が叩いたの?』などと言ってしまう。『◯◯が叩く』という言葉を聞いた子どもが、本当は叩かれたのではなく、蹴られた場合でも『うん』と答えてしまう可能性があります。同様に、『あのおじちゃんがやったの?』と尋ね、『うん』という答えを得て、間違った人を捕まえてしまう恐れもあります。聴取が不正確だと、子どもの供述の信用性が認められなくなり、結局子どもを守ることができなくなります。『子どもを虐待から救いたい』という強い思いのために、むしろ子どもの証言の信頼性が低くなってしまうという状況の中で、どうすれば弱者である子どもが最大限、自分の体験を話し、自らの人権を守ることができるのか。その一つの答えが『司法面接』だと考えています」

アメリカやイギリスでは、1980年代~90年代に起きた、子どもが巻き込まれた事案などから司法面接の重要性が議論されるようになった。日本でも2000年代に入ってから、書籍が出版されるなどして少しずつ関心が高まってきており、仲教授らは2007-2008年頃から、専門家に対する司法面接の研修を開始したという。そして、厚生労働省、警察庁、検察庁の通知により、2015年には、児童相談所、警察、検察が共同で司法面接を行う協同面接(代表者聴取ともいう)が行われるようになった。この協同面接は現在では年間2,000件程度行われているとされ、着実にその数を伸ばしている。仲教授は「司法面接はスキルを学べば誰でも行うことができるようになります。けれども、いい加減にやってしまうと子どもを適切に保護できなかったり、間違った人が罪に問われてしまったりするなど、問題が発生します」と話し、司法面接には細やかな配慮が必要であることを強調する。

講義にロールプレイング…。司法面接のスキルを身に付ける「基礎研修」

仲教授らはこれまで、1万人以上の専門家に対して司法面接の研修を行い、200人以上のトレーナーを輩出してきた。司法面接では複数の機関による連携が重要であるため、警察や検察、児童相談所などの専門家が、4人1組でチームを組んで研修を受ける。基礎的なスキルを学ぶ2日間の「基礎研修」は講義と演習から成る。
まずは司法面接の概要や意義、多専門連携による司法面接の重要性についての講義を聞く。講義の中では、事実の調査にまつわる問題や、面接で重視すべきことなど、アメリカの国立機関NICHD(National Institute of Child Health and Human Development, 国立子どもの健康と人間発達研究所)で心理学者らが作った司法面接のプロトコル(手順書)なども引用しながら説明する。
その上で、研修に重視されるのが実践的なロールプレイング演習である。ロールプレイングの様子は録画して、それを視聴しながら全体にフィードバックする。
「子どもから何度も話を聞くと、話していることが途中で変わってしまったり、精神的な負担が増大してしまったりしかねないので、事実調査のための面接はなるべく1回で済むようにしたいのです。ただ、面接者が1人で対応するのには無理があります。司法面接において大切なのは、面接者が面接している様子をモニターし、裏で支援する“バックスタッフ”の存在です。バックスタッフは録音録画のモニター画面を観ながら聴取内容の記録を取り、都度気になった点などをメモします。面接が一区切りしたところで面接者はモニター室に戻り、残りの面接についてバックスタッフと相談します。バックスタッフは、聴取が必要な部分や問いかけの方法等について助言します」
面接を計画し、実施し、モニターするという研修は、実際の面接の疑似体験にもなるという。受講者はこのようなロールプレイング演習を2日間にわたり4回繰り返すことで、司法面接の基礎的なスキルを身に着ける。

写真 基礎研修の様子をモニターで観るバックスタッフ
基礎研修の様子をモニターで観るバックスタッフ

話すのが苦手な子どもには、「一歩下がって、話しやすい関係づくりから」

事件や事故に関して子どもから聴取する上で、特に難しいのは「話さない子ども」から話を聞くことだ。仲教授の研修には、「話さない子ども」の特性や対応法について学ぶ講義も含まれている。ロールプレイング演習にも「話さない子ども」を想定した内容が盛り込まれている。
「実際のケースでも、虐待についてなかなか打ち明けようとしない子どもがいます。大人はそういう子どもを前にすると、選択式の質問や5W1Hのような質問をしがちです。『嫌なことがあったんじゃない?』『誰が嫌なことをしたの?』と矢継ぎ早に質問したくなります。さらに悪いことには、それでも子どもが口を開いてくれないと、その状況に大人がいらだってしまうこともあります。この子は話してくれない、話してくれないから助けてあげられない、と思ってしまうのです。矢継ぎ早の質問も、いらだちも、子どもの口をさらに閉ざさせてしまうことになりかねません。」話すことが難しい子どもに対しては、『一歩下がって』対応することが大切だと仲教授は言う。「子どもが話せる、話しやすい内容について、温かくオープン質問で話してもらうことから始めます。子どもが話しはじめたら、『うんうん、それで』と応じます。口が重い子どもであっても、誘導することなくオープン質問でサポーティブに話してもらうことで、多くの報告が得られます」

司法面接のスキルを伝える「トレーナー研修」

虐待から子どもたちを守るためには、司法面接研修ができる人材の育成も欠かせない。仲教授らは、司法面接のスキルを伝える「トレーナー研修」も実施している。
「2日間の基礎研修では、司法面接の基礎的なスキルについて学ぶことでいっぱいです。しかし受講者の中には、他の人に伝えるときのノウハウや方法を知りたいという方もいるので、別に2日間設ける形でトレーナー研修を行っています」

トレーナー研修では、通常の研修で行う講義の内容を理解しているか確認し、人に説明したり講義ができるようになったりすることを目指す。またロールプレイング演習をフィードバックして、質問は適切だったのか、誘導質問になっていないかなどを判断できる力も養う。適切なトレーニングを受けて基本的なスキルを身に付けることはもちろんのこと、都度、現場での面接を自分自身や仲間内で振り返ることがより良い司法面接の実施につながるという。

写真 トレーナー研修の様子
トレーナー研修の様子

プロジェクトを通じて立ち上げた「司法面接研究会」。立命館大での「司法面接研修」も事業化

RISTEXの支援を受けたことで、司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装を行った仲教授。研究仲間と一緒に司法面接に関する情報共有などを行う「司法面接研究会」も立ち上げた。プロジェクト終了後も、研修を継続し人材を育成していく方法を模索する中で、立命館大学における「司法面接研修」の事業化につなげることができた。
「子どもたちの安全な暮らしを実現するために、司法面接の研修を持続可能なものにすることが大切だと思っています。RISTEXの支援により、司法面接に関心のある人や研究者と出会うことができ大変嬉しく思います」

図 多機関連携による司法面接イメージ
多機関連携による司法面接イメージ

大事なのは、声を上げられない子どもたちの「声」に気づくこと

仲教授は子どもを虐待や犯罪から守るには、事実を正確に把握すること、そして関係する大人たちが情報共有をしつつそれぞれが役割をとりながら、子ども中心のタイムラインに沿って親身に接し、見守りや支援、対応していくことの大切さを話す。
「私たち個々人ができることは限られています。子どもたちを虐待や犯罪から守るためには、関わる者同士が情報共有しながら、親身に、粘り強く、持続的に子ども中心の未来に向けて子どもに携わっていくことが必要です。重要なのは子どもや障害を持った人など、供述弱者の存在を知ることであり、声を上げられない人たちの『声』に気づくことです。司法面接はそのなかの一点。最大限、正確な情報を、できるだけ子どもに負担をかけずに話してもらう。それを関係者間で共有し、関わりの質や量を高めていくことで、少しでも子どもが安心して生活できる社会が実現できたらいいなと思っています」

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