事業成果

司法面接の多機関連携研修プログラム

協同面接の研修・実装で現場と子どもを支援2021年度更新

写真:仲 真紀子
仲 真紀子(立命館大学 OIC総合研究機構 教授/北海道大学 名誉教授)
RISTEX
「犯罪からの子どもの安全」研究開発領域
犯罪から子どもを守る司法面接法の開発と訓練(2008-2012)
「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域
多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装(2015-2019)

司法面接法の研修プログラムを整備・実装

「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域の仲真紀子教授らは、児童相談所、警察、検察といった多機関が連携して司法面接を行う「協同面接」の実践を支える研修プログラムやトレーナー育成研修プログラムを整備した。これまで1万人を超える専門家に司法面接の研修を実施し、100名を超えるトレーナーも養成した。

現実の司法面接や多機関連携についても支援を行い、仲教授が開発した司法面接手法が福祉や刑事手続の現場で用いられていることが確認された。

さらに、同プロジェクトの羽渕由子教授や田中晶子准教授らを中心に、通訳・仲介者を介した場合の効果的な面接や、トラウマ症状をもつ子どもなどへの心身のケアを含む多機関連携についても、司法面接と他領域の連携を促進するプログラムの開発やネットワークづくりが行われた。

2020年には立命館大学が主体となって本研修が事業化され、多機関連携研修プログラムを社会に持続的に提供していく体制が整備された。なお、本事業の立ち上げには同領域の「研究開発成果の定着に向けた支援制度」が活用されている。

図1

図1 立命館大学による司法面接研修事業のウェブサイト
http://www.ritsumei.ac.jp/research/forensic/

多機関連携で子どもの負担を軽減

近年、子どもへの虐待の発見・対処の動きが高まっている。問題の解決には子どもから出来事や被害状況について正確に話してもらうことが重要であるが、子どもは記憶やコミュニケーションなどの認知能力が発達途上にあり、事実の確認は容易ではない。

この状況に対し、仲教授は「犯罪から子どもを守る司法面接法の開発と訓練」(2008-2012)で、NICHDプロトコルに基づき日本の事情に適した司法面接法とその訓練プログラムを開発し、専門家を対象とした研修の開催と効果の測定を行った。

その知見をもとに、面接法と訓練プログラムの社会実装を進めていたところ、新たな課題が見出されてきた。虐待被害などでは福祉的な介入のほか司法的、医療的な介入が必要となることが多く、その過程で面接が繰り返されると、その間に記憶の減衰や変容が起こり正確な情報が把握できなくなる危険性が高まる上、面接のたびに記憶が蘇り、精神的な二次被害が高じる恐れがある、という課題である。

こういった問題を回避しつつ、被害者の声を正確かつ負担なく聞き取るためには、多くの専門機関が連携して司法面接の回数を抑える必要がある。そこで「多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装」では、多機関が連携して行う協同面接の手法の整備と、その手法を支える研修プログラムおよび、トレーナー育成研修プログラムの開発・実施を行うこととなった。

図2

図2 多専門による司法面接のイメージ

1万名以上の専門家に研修し、トレーナーも育成

2015年から、「犯罪から子どもを守る司法面接法の開発と訓練」の成果を土台に、多専門連携を推進する研修プログラムを開発した。このプログラムの特徴は、児童相談所職員、警察、検察官などの専門家がチームを作り、協議・協同しながら司法面接を習得できる点にある。虐待事案においては、福祉や司法の各機関の目標や立場の違いが連携を難しくすることがあるため、本プログラムでは事実調査における連携の強化を図れるようにしている。

これまで1万人を超える専門家(児童相談所、警察、検察、医療機関、福祉施設の職員など)に司法面接の研修を実施。研修前に比べ、研修後ではオープン質問(イエス/ノーではなく自由に答えられる質問)の量や、被面接者からの発語量が増え、正確な情報の割合も高くなることなどが明らかになっている。

その後、研修を受講した専門家が自ら研修指導をできるようになるトレーナーとして育成する育成研修プログラムを整備し、現在までに100名を超えるトレーナーを養成した。

基礎研究としては、仲教授による面接の効果や多機関連携に関する意識調査等のほか、同プロジェクトの羽渕由子教授や田中晶子准教授らが、外国人などを対象とする通訳・仲介者を組み込んだ司法面接の問題を明らかにし、ガイドラインの作成や、研修プログラム、やさしい日本語版目撃者遂行型調査などの開発を行った。また、司法面接と心理臨床の連携も促進し、それぞれ研修やワークショップを実施した。

図3

図3 多機関による協同面接のイメージ

被害者配慮のため、さらなる普及・発展を

現在、児童相談所・警察・検察による協同面接は広く行われるようになっているが、今後、こういった手法が施設や学校、医療機関などでも認識され、また司法面接チームに心理臨床や医療の専門家も参加するようになれば、被害者への配慮が進み、問題のよりスムーズな解決が可能になると考えられる。立命館大学による司法面接研修を通して協同面接手法をさらに普及させ、苦境にある人の基本的人権を守っていくことが期待される。