地域の子どもが犯罪にあいやすい場所や時間を、科学的に絞り込み。効果的で無理のない、防犯活動支援ツールやマニュアルを無償提供。

  • 子ども防犯

2022年7月4日

  • 研究開発プロジェクト名
    「子どもの被害の測定と防犯活動の実証的基盤の確立」
  • 研究代表者
    原田 豊 (科学警察研究所 部長) ※終了当時
  • 研究開発期間
    平成19年度~平成23年度
  • 報告書
    研究開発実施終了報告書(PDF: 4,287KB)
  • Webサイト
    「犯罪からの子どもの安全」領域Webサイト 原田PJの成果紹介ページ
  • プロフィール (2022年6月)
    立正大学 データサイエンス学部データサイエンス学科 教授。
    1956年大阪市生まれ。学術博士(犯罪学)。専門は犯罪社会学。79年東京大学文学部社会学専修課程を卒業、科学警察研究所に入所。86年8月から2年間、フルブライト奨学生として米国ペンシルベニア大学犯罪学・刑法研究所に留学。留学中に書いた研究論文 "Modeling the Impact of Age on Criminal Behavior: an Application of Event History Analysis“ が、日本人としては初めてアメリカ犯罪学会の最優秀学生論文賞を受賞。2000年8月にペンシルベニア大学から博士号を取得。科学警察研究所犯罪予防研究室長、犯罪行動科学部長を経て、2021年4月から現職。犯罪・非行の経歴の縦断的分析、GISを用いた犯罪の地理的分析など、先進的な手法による実証的犯罪研究に取り組むとともに、防犯まちあるき支援ツール『聞き書きマップ』の作成と公開などを通して、研究成果の市民への還元に努めている。

研究開発の概要

近年、児童や未成年者が犯罪の被害に遭う事案が相次ぎ、子どもの犯罪被害への対策が、国として取り組むべき喫緊の課題となっています。しかしながら、我が国では、子どもの被害やその危険性を測る方法論や、子どもの被害防止の取組に有効に活用できる情報技術がないなど、様々な問題があります。

本プロジェクトは、子どもの犯罪被害を測定し、効果的で持続可能な対策を立案・評価する手法を開発するとともに、防犯NPO関係者が利用できるGISツールなどを構築し、これらを用いた防犯教育プログラムを開発するなど、防犯活動の実証的基盤を構築しました。また、子どもの犯罪被害やその前兆的事案の発生状況を測定する手法を開発したほか、地域の安全点検地図作りを支援する『聞き書きマップ』アプリ等を開発し、無料公開しました。

子どもの犯罪被害を防止するためには、被害実態や犯罪のターゲットである子どもの行動特性を考慮した理論的枠組みを構築し、科学的根拠に基づいて被害を測定するだけでなく、防犯の取り組みに従事しうる地域住民の特性などを調べる必要があります。さらに、近年の情報技術の進歩を取り入れることで、持続的な防犯活動に役立つツールを開発し、社会還元することができます。こうした問題意識に鑑みて、本プロジェクトでは、科学的な根拠に基づく子どもの犯罪被害防止を成し遂げるために、犯罪学、行動科学、情報科学の3グループ体制で実証的な研究開発に取り組みました。これらの3つのグループの成果を有機的に組み合わせて、最終的に得られた成果物(ツールやマニュアルなど)を社会実装し、それによって、防犯活動のための実証的基盤を確立しました。

プロジェクトが提案する実践フローとツール・マニュアル群の対応関係

図:プロジェクトが提案する実践フローとツール・マニュアル群の対応関係

本プロジェクトの成果は、現場での問題への取り組みフローのもとにまとめられます。このフローは、本プロジェクトによる成果物を子どもの安全のための実践につなげる「入口から出口まで」の道筋を示したもので、大きくは3つのステップで構成されます。①ファシリテータが「理論を知る」ステップ、②「被害を知る」・「子どもを知る」ステップ、③ファシリテータが本プロジェクトが提供するツールを活用しながら、調査によって得られた「情報を分析し」、「ワークショップを立案・実践」するステップです。このステップによって、ファシリテータは、本プロジェクトが提供する「持続可能な実践のための「提言」」を理解することができ、これにより取り組みの持続可能性の向上に向けた示唆を得ます。

実施項目の全体像と研究の流れ

図:実施項目の全体像と研究の流れ

持続的な防犯活動に役立つツールの社会還元

このプロジェクトは、ヒヤリ・ハット事象を含めた子どもの被害と日常行動を時間的・空間的に測定し、被害の情勢や地域社会・住民の特性に即した対策を立案・評価する手法を開発しました。被害情報を収集し、共有するためのポータルサイト『Skre.jp 科学が支える子どもの被害防止』 を構築。地域でワークショップを開催し防犯活動の改善につながった事例も報告され、平成23年度版の科学技術白書でも紹介されました。

2つのものさしの重ね合わせの例

図:2つのものさしの重ね合わせの例
被害リスクの把握のため、(1)子どもの被害と(2)日常行動を測る2つの「ものさし」を開発。
データをGIS上で重ね合わせると、見守るべき時間と場所が明らかになる

研究開発から生まれた『危険なできごとカルテ』や『聞き書きマップ』をはじめ、効果的で安価に続けられる防犯活動ツールやそのマニュアルは、すべてポータルサイトSkre.jpからのダウンロードにより、無料でお使いいただけます。

被害情報を収集し、共有するためのポータルサイト

その後の活動・展開

本プロジェクトにおける研究開発は、プロジェクト終了後も、最新のスマートフォンに対応したiPhone版アプリやAndroid版アプリをリリースするなど、研究開発成果の進展と社会展開を継続しています。

子ども主体による通学路の安全点検の取組に『聞き書きマップ』アプリが活用

令和3年6月に千葉県八街市で下校中の小学生の列にトラックが衝突し、児童5人が死傷する交通事故が発生しました。これを機に、八街市内の二州小学校では、子どもたち自らが子どもの目線で通学路を調査し、危険か所について地図に記録し、その記録をみんなで共有して対策を考えるという、子ども主体による通学路の安全点検の取組を開始しました。

この取組において、『聞き書きマップ』アプリが活用されることとなり、研究代表者もアドバイザーとして本取組に参画しました。このアプリは、スマートフォンによる写真撮影と音声の録音によって地図上の該当位置にその記録が自動的に反映されるという、手軽さと使いやすさが評価され、子ども主体による通学路の安全点検の取組に取り入れられ、子どもたちの地図づくりに活用されました。平成24年度に行われた八街市二州小学校の通学路の一斉点検の際は、危険か所が1か所しか報告されていませんでしたが、今回の取組では子どもの目線で複数の危険か所が洗い出されており、大人の理屈ではなく、子どもたちの声を土台に通学路の安全対策を進めていく重要性が確認されました。

QGISプラグイン版『聞き書きマップ』スクリーンショット

写真:QGISプラグイン版『聞き書きマップ』スクリーンショット

この取組は、令和4年2月のNHKのニュース番組で放映され、3月にはNHK首都圏ナビに記事が掲載されました。5月には、NHK「首都圏情報 ネタドリ!」で放映されるなど、社会的な注目を集めています。八街市では令和4年度に、市内すべての小学校で同様の取組を実施する予定となっており、『聞き書きマップ』アプリのさらなる活用と通学路事故防止に向けた取組への社会的貢献が期待されます。

二州小学校でのNHK取材の様子

写真:二州小学校でのNHK取材の様子

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