国際舞台が育てる生徒たちの可能性
「1年前は、彼らだって普通の高校生だったんですよ」
ヘッドメンターの木原先生は振り返ります。
指導者として、代表選手らと共に歩んできた立場から、科学オリンピックに参加する子どもたちの成長について聞きました。
学力面も精神面も見違えるほど成長した
私たちメンターは、代表選手と二人三脚になって一緒にゴールを目指す「導き手」です。月に1回の強化合宿で、そのつど課題を与えました。オリンピックの問題は一般的な高校の教科書の範囲にはとどまらない幅広い分野から出題されます。自分の専門外なら、我々でも時間内に解けきれるかどうか、 そういうレベルなのです。
しかし、彼らは驚くほど成長しました。代表に選ばれたからには頑張りたい、そういう勢いがあり、「ここまでできるかな」というレベルの少し上の問題を与えても、そこへヒュッと伸びていったんです。最初は互いに距離があり会話も少なかった4人ですが、次第にそれぞれの性格に合った役割分担ができ、チームとしての一体感が生まれました。精神の面においても、日本代表として恥ずかしくない、立派な選手に成長したと思います。
環境が生徒たちの可能性を広げる
適切な環境さえ用意すれば、子どもたちは自分の力で、どんどん伸びることができます。
スポーツの世界では、野球の甲子園のように、高校生たちが輝ける舞台があることはよく知られています。科学という分野においても、そうした場があること、刺激に満ちた環境があることをもっと広く知ってほしいですね。
国際科学オリンピックの問題の特徴
国際化学オリンピックでは、数値や数式の暗記よりも思考力を重視した問題が出題されます。
第42回国際化学オリンピック実行委員会委員長の渡辺正教授は、国際大会の求める「化学の力」について、『完全攻略 化学オリンピック(日本評論社)』のなかで、次のように論じています。
“小学校→中学校→高校とバーを少しずつ上げながら、こうした「なぜ?」を提示して、子どもが「あぁそうか」と納得する場面を積み重ねれば、国民の「化学力」も高まるだろう。
その化学力は、ビールはなぜPET容器に入れないのか(入れたら輸送の省エネができるのに)、糖尿病の患者さんはなぜインスリンの注射を打たれるのか(飲めるなら痛い思いをせずにすむ)……といった身近な疑問を解き明かすばかりか、大学の化学にもスッとつながる。
上記①~④を高校生としてどれだけ身につけたかーそれをきびしく問うのが、化学オリンピックの姿勢だといえる。”
<『完全攻略 化学オリンピック』(化学オリンピック日本委員会+渡辺正・編著/日本評論社)より抜粋>