2015年度の国際科学オリンピック記者説明会が8月25日に都内で開かれ、日本代表生徒の国際大会での成績と、2016年に三重県で開催される国際地学オリンピックの概要を、関係者がメディア向けに説明しました。また、当日は7教科の代表生徒も出席し、国際大会で得た経験や、これから科学オリンピックを目指す生徒たちへのアドバイスなどを語りました。
国内開催ラッシュを前に日本代表が大活躍
今年の国際科学オリンピックは、8月末までに6教科(数学、化学、生物学、物理、情報、地理)が世界各国で開催されました。 日本からはのべ27人の代表生徒が出場し、全員がメダルを獲得(うち金メダル7個)するという素晴らしい成果を上げています。
国際大会での日本人生徒の活躍を背景に、代表選考を兼ねた国内大会の参加者も毎年10%前後増えており、昨年は7教科合計で1万8000人を突破。 国際科学オリンピックは、優れた資質を持つトップ層の育成はもちろん、科学に興味を持つ生徒のすそ野を広げることにもつながっています。
こうした中、2016年の国際地学オリンピックを皮切りに、5つの国際大会(2018年・情報、2020年・生物学、2021年・化学、2022年・物理)が日本で開催されます。
筑波大学教授 内田史彦氏
内田史彦・筑波大学教授(国際科学技術コンテスト支援事業推進委員会委員)は、国内での開催は、国民が日本の科学教育のレベルを知り、科学に興味を持つきっかけにもなるとし、 「国や産業界、さらには国民全体が一丸となって、大会実施や代表生徒育成を支援していくことが重要」と話しました。
第10回国際地学オリンピックは、2016年8月20日~28日に三重大学などで開催され、30か国・120名(予定)の代表生徒が、筆記と実技試験で成績を競います。各国生徒の混成グループで野外調査を行い成果発表する、 国際大会ならでは活動も周辺地域で実施されるほか、近隣の高校生との交流の機会も設けられます。
筑波大学教授 久田健一郎氏
久田健一郎・筑波大学教授(地学オリンピック日本委員会理事長)は、「世界中の生徒たちが日本の自然や文化、最新の防災技術に触れ、地元の高校生たちと親睦を深められる大会にしたい」と抱負を語りました。 閉会時には、大会テーマ「地球から宇宙へ、未来へ」にちなんだ「三重宣言」を高校生が発表する予定です。日本代表の活躍だけでなく、地学=地球科学への関心の高まりも期待されます。
チャレンジする過程で大切なことが学べる
説明会の後半は、今年度の代表生徒が成果を報告し、今後の国際大会を目指す生徒たちにアドバイスを送りました。 国際数学オリンピックで銀メダルを獲得した佐伯祐紀さん(開成高等学校3年)は、「いろんな国の生徒と交流し、友だちができたことがうれしい」と国際大会での経験を語り、 「代表になるまでの道のりで苦労した分、達成感があったし、大会を楽しむことができました」と振り返りました。
国際大会の経験を話す代表選手
「実験問題が予想以上に難しく、化学の奥の深さを感じました」と話したのは、国際化学オリンピック金メダリストの吉村耕平さん(麻布高等学校3年)。オリンピックの問題を通じて、 学校の授業とは異なる化学が学べるとし、「高校化学に飽き足らない生徒にこそ挑戦してほしい」と呼びかけました。
国際生物学オリンピックで銀メダルを手にした宮田一輝さん(愛知県立岡崎高等学校2年)は、生物学オリンピックを目指す過程で学んだことが、化学の学習にも生かせた経験を語り、 「こうした大会に挑戦する過程で、自分の得意な分野に気づくこともある。教科の枠にこだわらず、横断的に学ぶことも大切だと思います」とアドバイスしました。
国際物理オリンピック金メダルの渡邉明大さん(東大寺学園高等学校1年)は、「各国生徒と交流する中で、コミュニケーションのための英語の大切さを肌で感じました」と振り返る一方、 「たとえ代表になれなくても、国内大会に参加することでさまざまな出会いがあり、自分の将来を考えることができます」と挑戦する意義を強調しました。
学校の環境や先生の言葉も挑戦のきっかけに
勢揃いした7教科の代表選手
髙谷悠太さん(開成高等学校1年)は、情報と数学の国際大会に出場し、国際情報オリンピックで2年連続の金メダル、 数学オリンピックでも銀メダルを獲得しました。「前回が金メダルだったのでプレッシャーもありましたが、去年より総合順位も上げられてよかった。これからも参加したいと思いました」とほっとした表情で振り返っていました。
ロシア北西部の古都トヴェリで開かれた国際地理オリンピックからは、銀メダリストの菊池裕太さん(筑波大学附属駒場高等学校3年)が出席。「フィールドワーク試験などを通じて、ロシアの自然や文化を体験できた。 現地へ赴き、野外に出て学ぶ大切さを、オリンピックを通じて多くの生徒に感じてほしいです」と話しました。
7教科の大会を締めくくる国際地学オリンピックは、9月にブラジルで開催されます。代表の茂木隆伸さん(筑波大学附属駒場高等学校3年)は、高校1年時から生物学と地学の国内大会に6回挑戦し、 「最後のチャンスの今回、初めて代表になれました」とうれしそう。大会での国際交流も楽しみにしているそうで、「私と同じようにカンブリア紀の生物を愛する人がいるのか、 自分から積極的に声をかけて友だちを見つけたいです」と意気込みを語ってくれました。
2016年の地学から始まる日本開催の国際大会には、高校生だけでなく、現在の小中学生も挑戦することになります。代表生徒たちは、「小学生の時期は、遊びを通じて好きなものを見つけよう」、 「生活科や社会科など、身近な地域に出かけて学ぶ授業を大切にしてほしい」とアドバイス。また、「高校の先生にオリンピック挑戦を勧められたことや、周りにオリンピアンの先輩がいたことが刺激になった」など、 先生を含めた学校全体での後押しや環境づくりが重要とする意見も出ていました。
理科や数学の好きな生徒が活躍でき、同好の友人に出会える場として、多くの中高生が挑戦するようになった国際科学オリンピック、教育関係者にとっては世界の科学教育を知る機会ともなります。 日本での国際大会開催を、国全体で推進していきましょう。