国際科学技術コンテスト

科学オリンピックだより 2010 vol.7 第42回 国際化学オリンピックレポート この夏、僕らが手にしたもの。 科学への情熱で、世界と競い、語り合う。-大会ハイライト-

化学の本質と格闘する10時間-実験・理論試験

 各5時間の実験試験と理論(筆記)試験で競う国際化学オリンピック。今回は、水溶液中の物質を判定する実験課題や、リチウムイオン電池の充電量に関する理論問題などが出題されました。

 「オリンピックの問題は、高校で習う化学とは格が違う」と片岡さんは言います。「“なぜこの反応が起きるのか”といった本質が問われるから、知識だけでは対応できないんです」。質の高い思考力と緻密な実験操作、それらを支える精神力が試されます。

 2日間の試験を終えた選手たちは、自身の手応えから結果まで見通していました。「今回は平均点が高くなりそう」(遠藤さん)、「余裕を見せている海外選手も多かったから僅差になると思う」(浦谷さん)、「色まではわからないけど、メダルには届く」(齊藤さん)。

 ただひとり違う反応だったのは、体調を崩すアクシデントのあった片岡さんです。「試験中は熱があるのも忘れていました。力は出せたと思います」と、ほっとした表情で話していました。

“選手”が高校生に戻るとき-交流イベント

 国際化学オリンピックは、世界中の高校生たちが交流する場でもあります。文化体験やエクスカーション、スポーツからパーティまで、さまざまなイベントで絆を深めます。

 折り紙や書道、着物の着付けといった日本文化の体験は、各国の生徒たちにも大好評。書道の手ほどきをした浦谷さんは、「外国人の名前をカタカナで書いてあげたら、すごく喜んでくれました」と振り返ります。

 都内各所の観光のほか、エクスカーションでは鎌倉と日光へ出かけ、1日を過ごしました。おみやげ選びに記念撮影に、世界の仲間たちと楽しむ小旅行です。そんななか、大会3日目の訪問先・鎌倉で、ひとり複雑な表情をしていた遠藤さん。「僕、ここが地元で。もう大仏では楽しめないんです」。それでも、「馴染みのある場所だからこそ、人との交流に集中できていい」と気持ちを切り替え、コミュニケーションに励んでいました。

 試験後のパーティでは、バンド演奏に合わせて踊り出す海外の生徒たちも。それを遠巻きに、「みんなが楽しんでいる姿を見るのがおもしろい」と語ったのは齊藤さんです。賑やかな各国代表に比べると、日本の4人は物静か。「同年代の外国人と過ごしてみて、日本人はまじめなんだと思いました」とは、大会後の齊藤さんの感想です。

日の丸が受け継ぐ挑戦の系譜-閉会式

 閉会式では、銅メダル(成績上位30%)、銀メダル(20%)、金メダル(10%)の順に表彰を受けます。「YES!」とガッツポーズを決めたり、メンターの先生と抱き合ったり、同じチームの選手の受賞に、本人より先に飛び上がって喜んだりと反応はさまざま。どの選手にも、ともに競い友情を築いた仲間たちから、国境を越えた拍手が送られます。

 片岡さん、浦谷さん、遠藤さん、そして齊藤さん。日本代表は一際大きな拍手に後押しされステージへ上がりました。クールな4人が最後に見せたのは、安堵の表情です。プレッシャーから解放された清々しい顔でメダルを受け取り、日の丸を掲げました。

 この国旗は、初参加(2003年ギリシャ大会)から選手団に受け継がれ、歴代代表が署名してきたもの。白地の汚れが、日本の国際化学オリンピックへの挑戦の歴史を物語っています。

 ――金メダル2個、銀メダル2個。初の国内開催という期待に、過去最高の成績応えてくれた4人のメダリストたち。その名を加えた日の丸は、次の日本代表とともに、来年夏、次回開催地トルコへと旅立ちます。

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