国際科学技術コンテスト

科学オリンピックだより 2021 Vol.21 「~科学の世界はこんなに広い~オリンピアンたちとのトークショー」




2021年10月2日、オンラインによる国際科学オリンピックイベント「~科学の世界はこんなに広い~オリンピアンたちとのトークショー」が開催されました。
JSTでは、2014年から国際科学オリンピックへの支援事業を行っています。国際科学オリンピックには数学、化学、生物、物理、情報、地学、地理の7つがあり、毎年国内大会を経て選ばれた代表生徒による国際大会が各地で開かれています。2021年は「第52回国際化学オリンピック日本・大阪大会」が新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けてリモート開催されました。今後、2023年には千葉県で国際物理オリンピック、東京都で国際数学オリンピックが開かれ、世界中から科学好きな高校生が日本に集結する予定です。


今回のイベントは、歴代の科学オリンピックメダリストらにその魅力を語ってもらうトークショーと、各教科オリンピックへの最初の扉となるワークショップの2つのプログラムで構成されました。どちらも、オンラインならではの特性を生かし、トークショーは東京のメインスタジオと関西、イギリス、九州をつないでの実施。ワークショップはオンラインでも実験や資料が鮮明に映し出されるよう高性能撮影機器を使用。ともに全国の科学好きな児童・生徒や多くの保護者・教育関係者に視聴頂けました。


トークショーに先立ち、産学官連携によるオールジャパンでの科学技術人材育成の推進を目指し活動する「日本科学オリンピック委員会」運営委員会を代表して筧捷彦先生の開幕挨拶と、スリーエム ジャパン株式会社代表取締役社長の宮崎裕子さんからの応援メッセージが紹介されました。「自然を理解することはとても楽しいこと。そして、地域や言葉、考え方を超えて皆で話し合い、伝え合うことによって互いに理解を深め、さらに新しい発見が得られることもあります」と筧先生。宮崎社長は、「スリーエム ジャパンは、スポンジやポストイットなど暮らしを豊かにする製品を数多く生み出しています。その 秘密は、もととなる科学技術とひらめきです。多様な人々の考え方を引き出したり、合わさったりと、ひらめきが生まれる環境をとても大切にしています」と述べ、本イベントでの出会いや経験が参加者の今後の成長へとつながることに期待を寄せました。


さらに、宇宙飛行士の山崎直子さんから「次世代へのメッセージ~未来の科学者を夢見るみなさんへ~」と題した、本イベントのためのスペシャルメッセージが寄せられました。山崎さんは日本人女性2人目の宇宙飛行士として2010年4月にスペースシャトル「ディスカバリー」に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)の組み立て作業などに携わりました。メッセージでは最近の嬉しかった話題として、当時ISSで行った実験の結果が11年の月日を経てイギリスの科学誌に掲載されたことを報告。「みなさんが今取り組んでいることもこの人類の叡智、科学の成果の地平線を少しずつ広げることに役立っていく ことと思います。ぜひ好奇心を忘れず、失敗を恐れず、挑戦を重ねていってください」と激励しました。

科学のオリンピアンと一緒に科学のおもしろさに触れる

トークショーには、国際科学オリンピック応援団の五十嵐美樹さんを司会に、第27回国際数学オリンピック金メダリストであり、現在株式会社steAm代表取締役として科学教育分野の多方面にわたって活躍中の中島さち子さん、第46回国際物理オリンピック銅メダリストで現在オックスフォード大学留学中、同時にドイツ・マックスプランク量子材料大学院センターにも在籍し研究の研鑽を積む高橋拓豊さん、第53回国際化学オリンピック日本大会銀メダリストで現在洛南高等学校3年の竹本隆弘さんの3人が登壇しました。



東京のメインスタジオでトークを繰り広げる、向かって左から、
中島さん、竹本さん、高橋さん、五十嵐さん



「いま、なぜ科学が人気?!こどもからおとなまで実は科学好き~科学のオリンピアンと一緒に科学のおもしろさに触れてみよう!」をテーマに、まず、科学に興味を持ったきっかけや国際科学オリンピックを目指した経緯について、「子どもの頃はパズルが好きでした。あるとき、『物理に強くなる』という漫画で物理は日常のさまざまな現象を数学やパズル的思考で解き明かす学問だと知り、おもしろそう、自分に向いていそうだなと思い興味を持ちました」と高橋さん。竹本さんは「小学生の頃からよく科学館に連れて行ってもらっていました。展示内容はよく分かりませんでしたが、科学ってすごいなと思ったのを覚えています。僕も『実験対決』という漫画をきっかけに化学に魅せられ、理科部で自ら実験をするようになりました。部の先輩が『化学グランプリ』で日本一を取り、かっこいいなと思いましたね」と思い出を語りました。中島さんも「私は1つのことをじっくり考えることが好きで、月刊誌『大学への数学』にある“今月の宿題”に挑戦していました。そこで考え続けることの楽しさや仲間の多様な解法・考え方に触れ、私も数学オリンピックを目指してみようかなと思うようになりました」と、いずれも科学に興味を持ったきっかけとして1冊の本を紹介しました。

続いて、国際科学オリンピックに出場した感想やその後の進路に話題が及ぶと、3人から現地で撮影した写真とともに当時の思い出が語られました。「滅多に行けないインドやアルゼンチンで世界から集まった人と一緒に過ごした日々は五感で感じたものも多く、かけがえのない体験になりました」と中島さん。高橋さんも「競技は約10日間のうち2日程度で、参加者間で交流を深める機会が多くありました。うまく英語が話せなくても科学への興味は共通で、すぐ打ち解けられましたね。でも、日本では上位の成績でも世界ではさらに上のレベルの人がたくさんいて、世界で戦うためにはもっと頑張らないといけないとも思いました」と、国際大会出場を機に世界中から人が集まる環境に身を置きたいと強く思うようになったと振り返りました。一方、リモートでの国際大会を経験した竹本さんは、日本大会ならではのデザインが施されたメダルやVR空間内での交流会の様子などを紹介しました。





リモート開催された第53回国際化学オリンピックでのVR交流会について紹介する竹本さん


そして「ゆくゆくは化学者になりたいと考えていますが、具体的な進路はまだ決め切れていません。今日、中島さんや高橋さんのように多様な進路があることを知り、とてもワクワクしています」と将来への希望を語りました。



学びを深めた仲間との出会い

トークショー中盤には、久留米大学附設中学校・高等学校とのサテライト中継も行われ、同校高校3年の楠元康生さんと糸永泰樹さん、高校1年の山之内望花さん、高校2年の宮崎莉子さんの4人が参加しました。



サテライトオフィスの久留米大学附設中学校・高等学校



楠元さんと糸永さんは2021年7月に開催された第51回国際物理オリンピックのメダリスト、山之内さんは2021年4月に開催されたヨーロッパ女子数学オリンピックで銅メダルを獲得、宮崎さんは中学3年生のときに第63回全国学芸サイエンスコンクールで文部科学大臣賞を受賞した俊英です。

五十嵐さんから科学に興味を持ったきっかけや魅力について問われると、「もともと科学が好きだったのですが、高校で楠元さんと出会い競技科学に興味を持ち始めました」と糸永さん。楠元さんも「僕は小さい頃からよく図鑑を読んでいましたが、周りに科学好きがいる本校に入学し先輩から多くの刺激を受けることで、一層科学に興味を持ちました。また、日本代表候補になって支給された教材も学びを深めるのに非常に役立ちました」と仲間との出会いが影響したことを挙げました。また、山之内さんは数学を好きになったきっかけとして『ドラえもんの学習シリーズ』を紹介。宮崎さんは「私は小学生の頃から自由研究が好きで、中学生のときに特に身近なものを研究するおもしろさを知りました」と述べ、現在も醤油を題材とした研究活動について取り組んでいることを報告しました。



向かって右手から、
久留米大学附設高等学校の楠元さん、糸永さん、山之内さん、宮崎さん

刺激や興味が科学を学ぶ原動力に

登壇者と久留米大学附設高等学校生との質疑応答では、宮崎さんが中島さんに「数学と音楽の共通点は何ですか」と質問。中島さんは「美しい音楽は美しい数式につながっている点や、ともに何かを“生み出す”“創造性”の点が共通していると思います」と回答し、続けて「宮崎さんの研究内容にとても興味が湧きました。醤油に聞かせる音楽のジャンルの違いによる変化など、ぜひいつかコラボレーションできるとよいですね」と提案しました。
楠元さんから「問題を解くことと研究の違いは何ですか」と問われた高橋さんは、「高校の物理はある程度どうなるかが分かっている現象を数学で定式化することが多いのに対し、大学での研究はそもそも何が起こるか分からないものを一から調べていくことができる点が魅力だと思います。ですから、著名な先生が間違えたりすることもあります」と回答。また、「科学オリンピック国際大会は10日間という短期間での交流でしたが、留学中の今は仲間と深い絆を築くことができます。今の仲間は6人中3人が国際科学オリンピック出場者で、世界の科学オリンピアンや研究者と共同研究できるのもとても楽しいです」と述べました。



高橋さんと仲間たち



国際数学オリンピック出場を目指している山之内さんからは、「現地で開催される国際大会参加に向けてのアドバイスはありますか」との質問が挙がりました。中島さんは「やっぱり現地に行くことで世界はさらに広がります。事前に日本についてしっかり語れるようになっておくと、彼らとの話も盛り上がって楽しいと思います」と回答し、「女子生徒の皆さんの一層の活躍を大いに期待しています」と激励しました。

最後に、これから科学オリンピックを目指す児童・生徒の皆さんへのメッセージを求められると、「メダリストや同年代である久留米大学附設高等学校の4人の話はとても刺激になりました。皆さんも何かしらの刺激を感じたと思いますが、その刺激や興味が科学を学ぶ原動力になると思います。今日感じた思いを忘れず、これからも一緒に頑張っていきましょう」と竹本さん。また、高橋さんは「科学そのものはもちろん、競い合ったり協力し合ったりと科学を通じた人とのつながりも大きな魅力です。科学オリンピックは日本大会なら日本中の、国際大会なら世界中の人とつながれるとてもよい機会です」と、あらためて国際科学オリンピック参加の意義を強調しました。中島さんも「一つのことを深掘りするのはもちろん、私のように好きなものや興味が複数ある人はそれらをつなぐ楽しさもあると思います。そして、“仲間”や“好き”をつなげて自分なりの研究や人生を歩んでいってほしいです」と述べ、2023年に開催される物理と数学の日本大会に向け「選手としてはもちろん、選手以外にもさまざまな関わり方があると思うので、ぜひつながって一緒に盛り上げていきましょう」と呼びかけ、トークショーを締めくくりました。



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