• バイオ・ライフ・ヘルスケア

持続可能な食料システム

エグゼクティブサマリー

世界人口は今世紀中頃には100億人に達すると予想されている。産業革命以降の急激な人口増加に対して、1960年代に始まった「緑の革命」と言われる農業技術革新により穀物生産量が大幅に増加し、今日に至るまで大きな食料危機は回避されている。その反面、農業そのものが、気候変動、生物多様性の低下、窒素やリンの循環などにおいて地球環境に負の影響を及ぼしている。農業による地球環境負荷を低減するには、農業技術の革新に加えて、消費者が何を食べるかの影響が大きいことが示されており、生産から食料消費に至るまでを包括する、食料システムの変革の重要性が認識されるようになってきた。2019年にはEAT-Lancet委員会が「持続可能な食料システムから見た健康的な食事」という報告書を公表し、世界の多くの国々や地域レベルで持続可能で健康的な食事ガイドラインの検討が進んでいる。

本調査報告書は、持続可能な食料システム(食料生産、加工、輸送、及び消費に関わる一連の活動)を構築するために必要となる研究開発、社会実装に向けて検討が必要な社会・経済的な課題についてサプライチェーンに沿って俯瞰的に調査を行い、まとめたものである。わが国では畜産物消費が増え、国内の農地面積では飼料需要を賄いきれず、食料自給率は極めて低い。食料供給がグローバル化している現在、地球全体における持続可能な食料システムの構築と、輸入依存率が高いわが国の食料安全保障の確保は緊密に関連する。そのため、持続可能な食料システムの構築は、わが国においても喫緊の課題である。

食料システムの中で、生産資材や食料生産に関する研究開発動向に関しては、公開情報等を通じて動向を把握した。しかし、「何を食べるか」に関しては、公開情報は限定的であり、日本独自の問題が存在することから海外の議論をそのまま導入することは適当でないと考えられる。そのため、有識者によるワークショップを開催し、日本の食が置かれている現状と課題を整理したうえで、日本の食の将来の姿を描くこととした。

国内では持続可能で健康的な食事に関する議論はあまり進んでいない。本調査報告書で示したように、日本の食料生産や食料消費を取り巻く現状と課題を整理して、日本における持続可能な食料システムの構築に向けて議論を盛り上げることは極めて重要である。

※本文記載のURLは、2025年2月末時点のものです(特記ある場合を除く)。