次世代型食・栄養研究
~地球環境の持続可能性とヒトの健康を両立する食・栄養の実現へ~
エグゼクティブサマリー
本戦略プロポーザルは、地球環境の持続可能性とヒトの健康を両立する食・栄養の実現に向けた学際的な研究開発として「次世代型食・栄養研究」の推進を提言する。「次世代型食・栄養研究」とは、食・栄養と健康/疾患との関係の根底にあるメカニズムを、分子~個体レベルで統合的に解明し、科学的エビデンスに基づく介入法を社会実装することにより、持続可能で健康的な食・栄養の実現への貢献を目指すものである。
超高齢社会に突入したわが国は、生活習慣病の対策や健康寿命の延伸、医療・介護費の適正化などが喫緊の課題となっている。これらは世界各国でも共通の課題となりつつあるが、課題解決に向けたアプローチの一つとして注目を集めるのが食・栄養である。食・栄養が健康の維持・増進や疾患の予防において重要であることは、疫学研究などから示唆されており、そのメカニズムの解明と具体的な介入法の確立への期待は大きい。また、国際的には、持続可能な食料システムへの変革が急速に進んでおり、わが国においても持続可能で健康的な食・栄養の実現に向けて、国内外の状況に即した適切な対策の検討が急務である。しかし、食・栄養の重要性が高まる中、その知的基盤の整備、科学的エビデンスに基づく介入法の研究開発およびそれらの社会実装のための推進方策の検討は、これまで十分に進められてきておらず未成熟である。
食・栄養研究は、その複雑さと研究手法の限界が相まって、メカニズムの本質的な理解が難しく、曖昧な点が多く残されている。しかし、近年の計測・解析技術やAI・データ科学の進展により、食生活および栄養状態の定量的評価や栄養・代謝メカニズムの解明が急速に進みつつあることを背景に、食・栄養研究は新たな展開を迎えている。そこで本戦略プロポーザルでは、次の【柱1~7】の研究開発課題の推進を提案する(図)。
- 【柱1】食・栄養関連分子の動的ネットワークの統合的解明
- 【柱2】食・栄養による代謝恒常性の維持/変容/破綻機構の統合的解明
- 【柱3】食・栄養による疾患発症/重症化メカニズムの解明と先制的モダリティの創出
- 【柱4】食・栄養に関する最先端計測/データ解析/評価系の技術開発
- 【柱5】食・栄養に関するリアルワールドデータ(RWD)収集・基盤構築
- 【柱6】持続可能な食料システムへの変革に伴う食生活の検討
- 【柱7】社会における持続可能で健康的な食・栄養の実現に向けた推進方策の検討
【柱1~7】の各課題は、統合的な推進によって研究成果の最大化が期待できる。そのために必要な研究推進体制として、本戦略プロポーザルでは府省横断のバーチャル研究所の構築を掲げる。バーチャル研究所において、上記各柱の実行に必要な研究基盤の整備、および基礎研究、臨床研究、社会実装に至る一連の研究開発を戦略的に推進することが望ましい。
以上の取り組みを通じて、持続可能で健康的な食・栄養の実現を加速させるとともに、関連産業(ヘルスケア、食品、飲料、製薬、保険など)の活性化、医療・介護費の適正化なども含む将来の広範な社会・経済的効果を期待するものである。

図 次世代型食・栄養研究の全体像(CRDS作成)
※本文記載のURLは2025年1,2月時点のものです(特記ある場合を除く)。