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医薬品評価技術の新展開 ~ヒト代替評価系の確立へ~

エグゼクティブサマリー

本報告書は、医薬品開発における評価技術の研究開発潮流と今後の展望について、国内外の動向を分析した結果をまとめたものである。

第1章では、医薬品評価プロセスと評価技術をとりまく状況変化を中心に整理した。医薬品の社会実装には有効性と安全性の評価が不可欠であり、非臨床試験と臨床試験が必要とされる。非臨床試験では主に細胞と動物が用いられるが、種差や個体差によりヒトにおける反応の完全な予測は難しい。近年、新たな評価系として生体模倣システム(MPS:Microphysiological System)が注目されているが、まだ勃興期にあり、動物実験など従来の評価系を代替するには至っていない。

第2章では新規in vitro評価系(細胞評価系)の動向と展望をまとめた。 MPSは、微小スケールの細胞培養プラットフォームを利用して特定の組織や臓器の機能的特徴をin vitroでモデル化するシステムである。研究開発/製品化動向から分類すると、デバイスに二次元培養した細胞を搭載したもの、デバイスに3次元培養した細胞を搭載したもの、或いはデバイスは用いずに3次元培養した細胞(オルガノイド)のみで評価系とするものが見られる。米国では2010年代から大型国家プロジェクトが推進され、MPSの基礎研究や製品化研究が加速した。日本でも2017年から経産省/AMEDによるMPSプロジェクトが開始され、現在、第2期のプロジェクトが進行中である。欧州では、例えばオランダのコンソーシアムを中心にMPS関連プロジェクトが動いている。欧米を中心に複数のスタートアップが独自の技術を製品化している。日本でも第1期MPSプロジェクトで4つのシーズについて開発が加速され、製品化に至ったものも見られる。

第3章ではin vivo評価系(動物)の動向と展望をまとめた。創薬評価、特に安全性評価の段階では遺伝的にヒトと類似度が高い霊長類が利用される場合が多い。主にカニクイザルが用いられるが、2020年に最大の輸出国であった中国が輸出を停止したことで、世界的な需要供給バランスが崩れ、価格が高騰した。米国では国内繁殖施設の設置を検討するなど、輸入依存からの脱却を図っている。日本でも一部の民間企業がカニクイザルの繁殖体制の増強を表明している。タイでは国立霊長類研究センターが設立され、国際的なサービス提供を目指している。

第4章では、わが国でこれから重要になると考えられる方向性をまとめた。創薬を加速するための課題を、in vitro評価系、in vivo評価系、デジタルツイン、法規制の4つの観点で整理した。これらの課題に取り組むことで、より効率的で臨床予測性の高い医薬品評価系が確立し、わが国における医薬品開発の活性化につながり、かつ日本発の医薬品評価ツールの海外展開も期待される。

なお、MPSを含む、全ての創薬モダリティ技術の動向と展望について別途調査報告書を刊行(※)したところであり、ご参照頂きたい。

(※)JST-CRDS調査報告書「創薬モダリティの潮流と展望」(2025年2月刊行)

※本文記載のURLは、2025年1月末時点のものです(特記ある場合を除く)。

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