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2050年の持続可能な食・栄養へのシナリオと社会の合意形成 ~人文・社会科学からのアプローチ
エグゼクティブサマリー
本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が2023年12月4日(月)に開催した、科学技術未来戦略ワークショップ「2050年の持続可能な食・栄養へのシナリオと社会の合意形成~人文・社会科学からのアプローチ」の内容をとりまとめたものである。
現行の食料システムは環境負荷の大きな要因となっている。2050年には世界の人口が100億人に達し食料需要の増大が見込まれるなか、環境負荷低減と食料需要及び栄養の充足を同時に達成する、持続可能な食料システムへの抜本的な変革は、地球規模の喫緊の課題である。
JST-CRDSでは、持続可能な食料システムへの変革に向けて、今後必要とされる食・栄養に関する研究開発について調査・検討を進めてきた。一方、持続可能な食料システムへの変革には、低環境負荷の食料生産方法の開発や健康的な食生活に必要な栄養素の解明といった科学技術の貢献のみならず、食文化や安全性、経済性などの科学技術以外の要素が色濃く存在するため、人文・社会科学からの示唆が重要である。特に、持続可能な食料システムへの変革、即ち大規模な食料需要と供給の変化には、消費者個人の食生活変容及び食に関わる多様なステークホルダーの理解・合意形成・変容が必須であることから、行動変容を含む社会受容に着目した人文・社会科学研究アプローチの検討を行った。
近年、社会受容に関する研究領域では、「個人の認識」を数値指標化する研究手法が高度化しつつある。また、社会課題解決のために、政策誘導ではなく、未来像を実現する計画を多様なステークホルダーの関与により策定する「シナリオ形成」に関わる研究が盛んである。そこで、本ワークショップでは、「個人の認識」及び「シナリオ形成」に関する研究手法の紹介と、それらの食・栄養分野への適用可能性について、有識者を招聘し議論を行った。以下にその概略をまとめる。
- 「個人の認識」に関する研究手法と食・栄養分野への適用可能性
「個人の認識」に関する研究手法である「社会調査に基づく表明選好法」や「購買データと人々の属性・価値観の相関分析」を用いて、代替タンパク質の摂取に関する個人の認識の研究が進行している。また、「環境アセスメントと人々の価値観を組み合わせた学際研究」は食農分野を含めて実施されている。これらは今後、栄養の観点も加えた研究に展開可能と考えられる。「個人の認識」に関する研究成果は、食に関わる多様なステークホルダーによる消費者理解の基礎情報となるほか、消費者個人の行動変容を促進する情報提供のあり方の検討にも貢献しうる。 - 「シナリオ形成」に関する研究手法と食・栄養分野への適用可能性
「シナリオ形成」に関する研究手法として、未来を構想する「フューチャー・デザイン」、未来のビジョンから年代を遡り計画を立てる「バックキャスト」、問題の気づきや行動変容を促す「シリアスゲーム」、無作為抽出から選ばれた人々の熟議から計画を立てる「ミニ・パブリックス」が、研究事例も含め紹介された。「シナリオ形成」に関する研究手法を持続可能な食・栄養に関する研究に適用することにより、消費者も含む、食に関わる多様なステークホルダーが関与する形で未来への実行計画の提案が可能となり、社会における持続可能な食料システムの実現が期待される。
※本文記載のURLは2024年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。