- 科学技術イノベーション政策
社会変革型イノベーション政策/ミッション志向型イノベーション政策の推進に関する国内外の動向
エグゼクティブサマリー
持続可能な社会の実現は、我が国を含む国際社会の目標となっている。そのためには現在の社会経済システム自体を変革し、新たな成長と価値創出の形を生み出していくことが求められている。このようなイノベーションは、社会変革型イノベーション(トランスフォーマティブ・イノベーション)と呼ばれる。
本調査報告書は、このような社会変革型イノベーション政策(TIP)及びその具体的な政策アプローチであるミッション志向型イノベーション政策(MOIP)に関して、国内外の動向について取りまとめ、我が国における今後の施策の検討に資する知見を提供することを目的としている。
新たな科学技術・イノベーション(STI)政策の枠組みであるTIP/MOIPは、第3世代型STI 政策と呼ばれる推進体制・手法を要請する。そこでは、従来のSTIに関連する府省だけでなく、変革が求められる社会課題を担当する分野担当省庁を含めた府省横断型の連携・調整体制が必要になる。また、規制や標準、税制や公共調達といった研究開発以外の政策手段も含む施策・事業の総合的なパッケージ(ポートフォリオ)を設計し柔軟に運用することも求められる。そして、このような推進体制と手法を効果的に活用しつつ、地域や課題の現場を軸とした共創的なイノベーションのエコシステムを構築し、その中で、研究開発に加えて、変革に向けた様々な取り組みを一体的に推進する。このようなエコシステムは、大学や研究機関、企業の研究開発部門だけでなく、事業会社や金融、地方自治体、地域コミュニティ、当事者団体等の多様なステークホルダーによって構成される。その上で、これら多様な組織・関係者を、社会変革のための具体的目標(ミッション)達成に向けて動機づけし、具体的取り組みを進めていくことが必要になる。
このようなTIP/MOIPについて、本報告書では、我が国を含む各国・組織で展開されている多様な取り組みを紹介している。中央省庁レベルでの横断的連携・調整体制としては、分野担当省庁が主たる責任を有する場合(EU、オランダ)や、STI政策の司令塔組織や担当省庁が中核となる場合(日本、オーストリア)がある。一方で、資金配分機関(ファンディング・エージェンシー)や公的研究機関が中心となって取り組みを進める例もある(ノルウェー、スウェーデン、オーストラリア等)。また、地域や社会課題の現場を軸とした共創的エコシステムにおいて中核となる組織や仕組みを構築した上で、変革につながる研究・イノベーション活動を支援することで、ボトムアップの共創的イノベーションを促進することも行われている(EU 海洋・水ミッション、気候中立・スマートな都市ミッション等)。
また、TIP/MOIPを推進する上では、以下のような基盤や横断的取り組みも必要になる。
- 専門性に基づく支援機能
- データ・情報基盤の構築
- 施策・事業ポートフォリオの設計と管理
- モニタリングと評価
- 未来洞察(フォーサイト)と戦略的インテリジェンス
- 設計・運営に関する知見・スキルの体系化と人材育成
TIP/MOIPでは、直接的な研究開発やイノベーション活動への投資に加えて、研究・イノベーション活動が行われるエコシステムの創出、多様な関係者・組織への支援と調整に多くの資源を投入する。その準備・体制作りにも時間を要する。そのため、研究・イノベーション活動への直接的な支援を要請する立場からの批判があることにも留意する必要がある。また各国の政治体制、これまでの蓄積等も、具体的なTIP/MOIPの設計や実施に大きな影響を与えている。それらを踏まえた上で、諸外国及び国内の事例から、必要となる機能や取り組みを理解し、我が国で実行可能な形に再構成していくというアプローチが必要であろう。
※本文記載のURLは2024年4月時点のものです(特記ある場合を除く)。