第264回「社会変革型イノベーション EU、5分野で目標設定」
現在の社会経済システムを変革し社会課題を解決するとともに、新たな成長の形を生み出す「社会変革型イノベーション(トランスフォーマティブ・イノベーション)」が、科学技術・イノベーション(STI)政策の新たな柱となっている。
先行する欧州連合(EU)は、①気候変動適応、②スマートかつクライメート・ニュートラル(気候中立)な都市、③土壌、④海・水域、⑤がん―五つの領域で、2030年を達成期限とした社会変革目標(ミッション)を設定した。
施策など総動員
各分野の政策を担当する総局(省庁に相当する)とSTI担当の総局が連携し、研究開発以外の施策や資金も総動員して、革新的な解決策やシステムの実装による変革を生み出そうとしている。
例えば、④海・水域のミッションでは、海事・漁業総局が主担当となり、地中海やドナウ川など四つの海・水域で、汚染回復や水産資源の持続的利用などの具体的目標を設定した。研究開発に加え、EUやその加盟国の地域振興政策や関連施策、欧州投資銀行による融資などを活用し、各地域の特性に応じた具体的取り組みを進めている。
その中核は、「実装プラットフォーム」や「ライトハウス(灯台)」と呼ばれる研究機関やシンクタンクなどの組織をつなぐコンソーシアムである。実行計画の策定、取り組みの支援と進捗把握に加えて、市民への情報発信、企業や関係組織のネットワーク作りなどにより、変革に向けたエコシステムを構築する(図参照)。
府省の連携必須
日本でも、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、各府省の施策連携により、資源の再利用と循環を促進しながら付加価値を生み出すサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現や、統合ヘルスケアシステムの構築による健康寿命の延伸などの課題解決に向けた技術の社会実装を進めようとしている。
また、CO2排出実質ゼロに向けて取り組むことを30年度までに目指す地域を支援する環境省の「脱炭素先行地域」や、持続可能な社会の実現に取り組む自治体を支援する内閣官房の「SDGs未来都市」なども行われている。
これらの課題解決型の研究開発や技術の社会実装と、分野の政策を担当する府省や自治体などが進める社会変革の取り組みを、共通の目標のもと連携することで、社会変革型イノベーションは加速できる。そのために、さまざまな取り組みをつなぐ組織を中核とするエコシステムの強化策が必要である。
※本記事は 日刊工業新聞2024年11月15日号に掲載されたものです。
<執筆者>
小山田 和仁 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)
東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。産業技術総合研究所、政策研究大学院大学などにて政策研究に従事。17年より現職。経済協力開発機構(OECD)「ミッション志向型イノベーション政策」プロジェクトにも参画。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(264)社会変革型イノベーション EU、5分野で目標設定(外部リンク)