2023年10月20日

第215回「研究開発を俯瞰する⑥ 科技イノベ 新たな枠組み必要」

枠組み拡大
科学技術・イノベーション(STI)政策では、どの技術やどの分野にいくら投資するかということに注目が集まる。しかしながら、どのような仕組みや手段を用いるかという枠組みも、研究開発やイノベーションに広く影響を与える。

これまでもわが国のSTI政策は時代の要請に応じて枠組みを拡大させてきた。戦後、大学の基礎研究基盤を充実させ、さらに宇宙や原子力などでは、国が専門の研究開発組織を設立し、人材や知識、資源を結集した。

産業政策が重視されると、産学官によるコンソーシアムを構築し国際競争力強化のために技術開発を推進した。近年では産学連携やスタートアップ促進を目指し、知的財産や技術移転、起業支援制度が強化された。

そして現在、持続可能な社会の実現や新興技術の社会的影響の増大などを踏まえた、新たな政策枠組みが求められている。

その枠組みについて、国内外の議論を俯瞰すると次のような方向性が見えてくる(図)。

社会システムの変革や新興技術の制度設計を進めるためには、研究開発を担当する省庁と社会課題や規制に関わる省庁との連携が必須である。また、市民、自治体、事業会社など、技術の受け手や、価値創出において重要な役割を担うステークホルダーの参画が求められる。

政策手段に関しても、公共調達や規制などの研究開発以外の手段や、プラットフォームなどの間接的支援との連携が重要になる。資金面でも、民間資金との連携や懸賞金制度創出などの多様化が必要である。

従来の枠を越えた手法や実験的アプローチを行い、その結果を柔軟に取り組みに反映するプロセスも必要になる。また、人文・社会科学を含む多様な専門性やデータ分析の知見を結集し活用することも重要である。

科学技術を取り巻く国際環境が大きく変化するなかで、各国は、科学技術への投資の拡充に加えて、上記のような政策手法やアプローチに取り組んでいる。

社会変革と一体
例えば、米国立科学財団(NSF)は、新設の技術・イノベーション・パートナーシップ(TIP)局において、技術の社会実装に向けてデータや人工知能を用いた技術予測のモデル開発を行っている。また、欧州連合(EU)は、共通到達目標(ミッション)と各分野政策との連携を加速させ、研究・イノベーションと社会変革を一体的に推進している。

わが国も、限られた資金や人材を有効に活用しつつ、多様な価値実現や社会変革といった新たな社会の要請に応えるため、政策の仕組みや手段の刷新を進める必要がある。

※本記事は 日刊工業新聞2023年10月20日号に掲載されたものです。

<執筆者>
小山田 和仁 CRDSフェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。産業技術総合研究所、日本学術振興会、政策研究大学院大学にて政策研究、研究マネジメントに従事。2017年より現職。経済協力開発機構(OECD)などの複数の国際プロジェクトにも参画。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(215)研究開発を俯瞰する(6)科技イノベ、新たな枠組み必要(外部リンク)