調査報告書
  • 科学技術イノベーション政策

社会的課題解決のためのミッション志向型科学技術イノベーション政策の動向と課題

エグゼクティブサマリー

現在、地球温暖化や海洋汚染などの地球規模課題への対応、災害や感染症などの危機に対する復元力のある社会の構築、高齢化社会への対応などの諸課題の解決に向けて、社会変革型イノベーション(トランスフォーマティブ・イノベーション)の必要性が高まっている。その実現に向けて、将来ビジョンに基づいた野心的かつ具体的な目標(ミッション)の達成を目指して産官学民の多様な取組を方向付け連携させる、「ミッション志向型科学技術イノベーション政策(ミッション志向型STI 政策)」の取組が、欧州を中心として進められている。

ミッション志向型STI政策は、「長期的かつ総合的な取組が必要な社会的課題(グランドチャレンジ)の解決のための、社会変革型イノベーションの実現に向けた科学技術イノベーション政策の体系的アプローチ」であり、その主な特徴としては、①多様なステークホルダーの参画を通じたミッションの設定、②社会経済システムを構成する様々な要素の変革につながる多様なプロジェクトや取組の一体的推進(ポートフォリオ・アプローチ)、③研究開発から社会実装にいたるイノベーションプロセス全般にわたる多様な政策手段の活用、④府省・地方政府間連携(ホール・オブ・ガバメント・アプローチ)、が挙げられる。

現在各国では、ミッション達成に向けて、産官学民のステークホルダーの多様な取組を方向付ける戦略的方向付け、分野担当省庁を含む複数省庁にまたがる政策手段の調整を行う政策調整、複数の補完的政策手段を一体的に実施する政策実施、といった各段階において様々な取組が行われている。我が国においても、Society 5.0の実現に向けて、府省横断型の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、破壊的イノベーションの創出を目指すムーンショット型研究開発制度など、社会変革型イノベーションの実現に向けた取組が進められているが、今後ミッション志向型STI政策をより推進するには、以下のような課題が想定される。

1)戦略的方向付け
• 我が国としての長期ビジョンを踏まえつつ、産官学民のステークホルダーを鼓舞するような野心的かつ具体的な目標(ミッション)をどう設定するか
• 当該社会的課題に対峙する分野担当省庁及び関係者の参画をどう促すか

2)政策調整
• ミッション達成に向けた推進体制をどう構築するか
• 関係府省間、組織間の連携体制の構築
• ミッション達成に向けた事業ポートフォリオの設計と具体的達成目標の設定、進捗管理(ロードマップ設定等)

3)政策実施
• 産官学民のステークホルダーの参画と連携、コミットメントを促す仕組みの構築(ボトムアップでの提案含む)
• 民間資金を含む多様な資金、取組の誘引
• ミッション志向に対応した研究開発ファンディングの設計と実施、改善
• 手法開発(実験的手法、新規手法・アプローチ)とその試行・普及展開

4)横断的事項
• 各組織の目的等と全体のミッションとの整合性を保つマネジメントと評価
• 人文・社会科学を含む科学的知見の活用(総合知、責任ある研究・イノベーション、トランスディシプリナリー研究(学際共創研究)、など)
• 支援体制の構築
• モニタリングや評価のための指標・手法開発と情報・データの利活用
• 知識の体系化と人材養成

また、ミッション志向型STI政策の実施の局面において重要な役割を担う研究開発ファンディングについても、1)制度検討・設計、2)推進体制、3)推進方策、4)評価と検証、学習、5)研究開発プログラム、プロジェクトの役割の再確認、などの点で様々な課題に対応することが必要になると想定される。

これらの課題に対応していく上では、諸外国の取組やこれまでの国内での社会的課題解決型の取組からの知見を踏まえつつ、我が国において実現可能なあり方を検討することが必要である。

※本文記載のURLは2021年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。