戦略プロポーザル
  • 科学技術イノベーション政策

ミッション志向型科学技術イノベーション政策と研究開発ファンディングの推進

エグゼクティブサマリー

社会課題解決はこれまでも我が国の科学技術イノベーション(STI)政策の重要な柱であったが、近年、持続可能な開発目標(SDGs)の達成やカーボンニュートラルの実現など、社会変革までも視野に入れたより広範な取組みの必要性が高まっている。本プロポーザルでは、このような社会変革を視野に入れたトランスフォーマティブ・イノベーションの実現に向けた総合的・複合的なアプローチとして、「ミッション志向型科学技術イノベーション政策」(ミッション志向型STI政策)を推進することを提案する。

ミッション志向型STI政策とは、社会変革を伴う長期戦略の実現に向けて、達成期限を定めた明確な目標(ミッション)を設定し、多様な施策・事業の総合的パッケージ(ポートフォリオ)を設計し調整することにより、研究開発の成果の活用とイノベーションを牽引する政策アプローチである。ミッション志向型STI政策は、研究開発に加えて、法規制や調達などの社会課題に関係する分野担当省庁側の政策手段も一体的に活用する。これにより多様なステークホルダーの取組みを誘引し社会課題解決を加速するとともに、新産業の創出と産学官民による共創的イノベーション・エコシステムの構築を進めることを企図している。

本プロポーザルでは、ミッション志向型STI政策の要件や諸外国の取組みを踏まえた上で、以下の取組みを提案する。

【提案1】ミッションの設定とその達成に向けた施策・事業ポートフォリオの設計・実施
社会変革を伴う長期戦略の実現のため、達成期限を定めた明確な目標としてミッションを設定し、その達成に必要な施策・事業のポートフォリオとその実行計画を設計・実施する。従来のSTI政策の枠を越えて各施策・事業を一体的に調整・活用し、研究開発の成果とイノベーションの活用を方向付け加速するとともに、プロセス全体を通じた評価・改善の仕組みを組み込むことで不確実性やリスクに柔軟に対応する。

【提案2】ミッション達成に責任を持ち必要な施策を動員できる体制の構築
ミッション達成に向けて政府全体として必要な施策を動員できる体制を構築する。

【提案3】科学的知見に基づくミッションの設計・実施の支援
ミッションの設定から設計、実施、評価・改善の一連のプロセスを、人文社会科学分野を含む科学的知見やデータに基づいて支援する。

【提案4】ミッション達成に必要な研究開発の設計・実施
ミッション達成に向けて制約要因となる問題の解決や必要となる能力の実現に貢献しうるシステムやソリューション、及びそれらに不可欠な技術や知見について研究開発プログラムを設計し実施する。

具体的には、カーボンニュートラルや地方創生などの長期戦略の実現に向けた達成期限を持つ具体的目標としてミッションを位置づける。その上で内閣府の総合調整機能のもとに、当該社会課題に関連する分野担当省庁を含む推進体制を構築し、ミッションの設定及び施策・事業ポートフォリオの設計と実施を行うことが想定される。そのような体制において科学技術担当省庁は一連のプロセスを科学的知見に基づき支援するとともに、ミッション達成に必要な研究開発を推進する。研究開発プログラムは、上記の施策・事業ポートフォリオの中に明確に位置づけた上で、成果の活用、普及展開、スケールアップなどについて、分野担当省庁の施策や事業の活用も含め、事前に十分な検討を踏まえて設計する。

これらの取組みを実際に進めるためには、諸外国の事例なども参照しつつ、国内の状況も踏まえた上で、具体的な社会課題に応じた注意深い検討と設計が必要である。そのような議論と実行に資するため、CRDSにおいても引き続き調査分析を継続する。

※本文記載のURLは2022年4月時点のものです(特記ある場合を除く)。