2020年7月3日

第58回「社会的課題 ミッション志向で解決」

構造変革を加速
国連の持続可能な開発目標(SDGs)に代表される社会的課題の解決に向けて、社会や産業の構造変革が求められている。その実現に向けて、政府が長期的かつ野心的な目標(ミッション)を掲げて、府省横断で多様な政策手段を活用し、研究開発と社会実装を推進しつつ構造変革を進めるという「ミッション志向型」の科学技術イノベーション政策(ミッション志向政策)に欧州を中心として注目が集まっている。

欧州連合(EU)では、2021年から始まる7年間の研究・イノベーション枠組み計画Horizon Europeにおいて、五つの優先領域(がん、気候変動、海洋・水資源、都市、土壌と食料)を設定し、加盟国政府、市民、専門家、企業などの多様な関係者との協議を通じて具体的なミッションの検討を進めている。この他、英国、オランダなどでも、長期的に取り組むべき国家的優先課題を設定し、研究開発とイノベーションを方向付けるとともに、研究開発から規制、標準、税制、政府調達などに至る多様な政策手段の活用を府省横断的枠組みで推進しようとしている。

我が国でも、基礎研究から社会実装まで見据えた統合イノベーション戦略の策定、社会的課題解決を目指した府省横断型の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や野心的目標に取り組むムーンショット型研究開発制度などの関連する取り組みが行われている。

政府の役割拡充
このような動向を踏まえて、筆者も参画する経済協力開発機構(OECD)のプロジェクトでは、各国のミッション志向政策の事例収集と分析を進めている。各国とも、市民も含む多様な関係者を巻き込んだ野心的目標設定、実験的な取り組みや挑戦的課題に取り組む研究開発制度、社会的課題や技術の実装に責任を持つ現業省庁と研究開発担当省庁との間の連携と調整、ベンチャーや金融なども含む多様な関係者の活動・資金の巻き込みなどの点で、政府の役割の拡充と機能強化が必要とされている。

これまで民営化の流れの中で政府の役割は限定的に捉えられてきたが、政府が果たすべき役割への関心は再び高まっている。新型コロナウイルス感染症の危機後(ポスト・コロナ)に向けた社会変革の必要性は高まっており、各国政府のミッション志向の取り組みはより加速するものと思われる。

※本記事は 日刊工業新聞2020年7月3日号に掲載されたものです。

小山田 和仁 CRDSフェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。産業技術総合研究所、日本学術振興会、政策研究大学院大学などで、科学技術政策研究、国際交流事業などに従事。17年より現職。OECDミッション志向政策、ハイリスク研究プロジェクトにも参画。

<日刊工業新聞 電子版>
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