国際科学技術コンテスト

INTERVIEW

プラスチック製の旅客機の時代が到来!?

最近注目を集めている「炭素繊維強化プラスチック」は、就航間近なボーイング787の構造材料として使われています。

ボーイング787は、機体構造の約半分にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が採用された次世代型飛行機。従来の同型機よりも大幅な軽量化が達成され、燃費効率が20%アップするとともに排出される二酸化炭素も約10%削減されます。そんな地球にやさしい先端素材を開発したのは、炭素繊維で世界最大手のメーカーである東レ株式会社。生産本部参事(複合材料技術、ACM技術部担当)の吉永 稔さんにその優れた特性や、開発にいたる経緯などについて詳しくお聞きしました。

東レ株式会社 生産本部参事 吉永 稔さん

「“複合材料”は身のまわりに山ほどあります。むしろ単一の素材の方が少ないくらいですね」。吉永さんによると、炭素繊維もいわば補強材の一種。土壁の中に入れるワラや、モルタルのセメントの中に混ぜる砂などと一緒で、樹脂と一体化させることで、その優れた特性を引き出すことができるとのこと。

炭素繊維複合材量 約50%

CFRPの場合、軽くて複雑な形に加工できる樹脂(=プラスチック)の長所はそのままに、炭素繊維の強さや剛性(変形しにくさ)がプラスされています。航空機に使用される場合、炭素繊維は一方向に引き揃えられ、樹脂を染み込ませた“プリプレグ”とよばれるシートに加工されることが多く、そのプリプレグを角度を変えながら何枚も重ねていくことで好みの強度と剛性に設計できます。「ちょっと想像しづらいかもしれませんが、ボーイング787の主翼や胴体も、数十枚のプリプレグが精密に重ねられ、それを焼き固めて作られているんですよ」と吉永さん。

カーボンファイバー大国・日本

 そもそも炭素繊維とは、アクリル繊維を高温で蒸し焼きにして、その後炭化させたもの。炭素による結束の固い分子構造が築かれることで、特有の強さが生まれるのです。1000℃から3000℃まで、高温になるほど炭素の純度が高くなり、より硬く、変形しにくくなります。そのため、用途毎の要求に応じた炭素繊維を製造することが可能です。

 また、炭素繊維は原料の違いから、アクリル系(PAN系)とピッチ系(石油タール)に大別されます。日本ではPAN系炭素繊維の生産量が大きく国内上位3社で世界7割のシェアを誇ります。PAN系、ピッチ系のいずれも日本人が世界で初めて開発した炭素繊維で、カーボンファイバーはまさに日本のお家芸といえます。

ブリブレグ(炭素繊維樹脂含侵シート)

さまざまな用途に使われるCFRP

 吉永さんは79年の入社以来、30年近くにわたって炭素繊維の研究・開発・製造に携わってきました。「入社当時は、航空機の1次構造材料に欠かせない耐衝撃性と耐熱性の両立は、不可能と思われていました。しかし、樹脂・炭素繊維の高性能化に加えて、第3の材料となるエネルギー吸収材を複合させるというアイディアにより、この難問をクリアすることができたのです」。

航空機と自動車のライフサイクルアセスメント

そしてボーイング777(1995年商業運行開始)の尾翼などの主要材料として本格的に採用され、その信頼性が高く評価されたことが、ボーイング787への採用理由のひとつです。 航空機への本格採用までの間に起こった釣竿やゴルフクラブ、テニスラケットのCFRP化ブームは、長期間におよぶ航空機向け開発期間の下支えとなりました。

今後期待できる夢の素材とは

「脱石油を目指して、バイオ素材分野にも力を入れていきたいですね。炭素繊維もいずれはバイオ原料から作る方向に持っていけたらいいと思います」。さらに、ナノ技術を応用して樹脂を分子レベルで設計して複合させたら、バイオ素材と並んで想像もつかないような特性を引き出せる可能性があると吉永さんは続けます。「“傾斜機能材料”と表現されたこともありますが、複合材料もいずれはそんな風に、特性が連続的に変化するような、無限の要素が集まったものになっていく可能性がありますね」。

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