誰もが個別の丁寧な療育を受けられる社会に 保護者とつくる発達障害児の早期支援体制づくり

  • 実装支援【公募型】

2021年5月18日

  • 実装活動プロジェクト名
    「エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデルの実装」
  • 実装責任者
    熊 仁美(ADDS 共同代表)(2021年3月)
  • 実装活動期間
    2016年10月~2020年3月
  • 報告書
    終了報告書(PDF: 1,792KB)
  • 領域・プログラムWebサイト
    研究開発成果実装支援プログラム【公募型】 Webサイト 熊PJページ
  • プロフィール (2021年3月) 
    特定非営利活動法人ADDS共同代表、江戸川区発達相談・支援センター長 博士(心理学)/公認心理師
    慶應義塾大学・法政大学ほか(非常勤講師)
    09年、在学中にゼミ仲間と学生団体設立、11年法人化。

プロジェクトの概要

日本の発達障害児の早期発見の仕組みは、これまで医療や保健分野において整備が進んできました。しかし、早期支援については、専門家や人員、財源の不足などから、療育の頻度や質が十分でなく、重要な発達時期を逃してしまう子どもがいまだ多く存在します。

本プロジェクトでは、国際的に効果が実証されている応用行動分析(Applied behavior analysis; ABA)の技法を用いた早期療育プログラムを、ペアレントトレーニングによって保護者をエンパワーメントしていくシステムと組み合わせて、自治体の療育センターや民間児童発達支援事業所、保育やリハビリテーションの現場に実装し、その効果を評価することに取り組みました。実装にあたっては、人材研修プログラムやカリキュラム設計に積極的にITを活用することで、支援の質の維持・向上を図り、これにより、既存制度を活用したABA早期療育の持続的な地域モデルを確立して全国に普及することを目指しています。

発達障害などにより、通級による指導を受けている児童生徒数は毎年過去最多を更新
いま注目が集まる、ICTを活用した発達障害児・保護者サポートを行うNPO「ADDS」とは?

「世界自閉症啓発デー」とは

平成19年12月に開催された国連総会において、カタール王国王妃の提案により、毎年4月2日を「世界自閉症啓発デー」(World Autism Awareness Day)とすることが決議され、全世界の人々に自閉症を理解してもらう取り組みが行われています。日本においても「世界自閉症啓発デー・日本実行委員会」が組織され、毎年、世界自閉症啓発デーの4月2日から8日を発達障害啓発週間として、シンポジウムの開催やランドマークのブルーライトアップ等の活動が行われ、誰もが幸せに暮らすことができる社会の実現につながるものとして、自閉症をはじめとする発達障害の理解促進を図っています。

SDGsが取り組む「誰一人取り残さない(leave no one behind)世界実現にむけて

文部科学省による特別支援教育に関する調査によると、発達障害などにより、通級による指導を受けている児童生徒数は毎年過去最多を更新しています。国公私立の小・中・高等学校において、通級による指導を受けている児童生徒数は134,185名(前年度123,095)であり、11,090名増加。障害種別では、言語障害で937名、自閉症で1,460名、情緒障害で3,083名、学習障害で2,096名、注意欠陥多動性障害(ADHD)で3,409名の増となっている状況です。

自閉症スペクトラム障害、注意欠如‧多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)といった発達障害は、支援法の制定や乳幼児健診での早期発見増加など、国や自治体による対応が進められています。しかし、乳幼児健診における発達障害に関する市町村調査報告書(日本臨床心理士会, 2014)では、早期発見に取り組む自治体は8割を超えるのに対し、早期に発達支援プログラムを実施する自治体は2.5割となっており、早期療育の推進は十分とはいえない現状です。早期の発見・療育は苦手を克服、症状の改善が期待されますが、発見が遅れ不適応が慢性化すると、子どもの心や行動はより複雑・深刻化が進み、思春期以降に様々な2次障害や合併症を引き起こしてしまうことも。

新型コロナウイルスの影響により通所が困難となるケースもある中、効果の実証された応用行動分析やICT技術を活用した療育アプリケーションを使用しながら、発達障害のある子どもだけでなく保護者のサポート、トレーニングを行うNPOに注目が高まります。

~発達障害療育支援開発と、地域実装に取り組むNPO~

自閉症などの発達障害のあるお子さんとその保護者を、効果の実証された応用行動分析によってサポートするNPO法人ADDSは、「エビデンスに基づく早期療育モデルの地域実装ーエンパワメントモデルとICTの活用ー」に取り組んできました。
ADDSが行う主な活動は下記の3つ、開発した支援プログラムを地域の療育機関に実装する取り組みを行っています。

①慶應義塾大学と共同開発した早期療育プログラム「AI-PAC(アイパック)」に基づき、600の課題から、子ども1人1人に合わせた発達評価とカリキュラムを設定
②保護者の方が療育について学び、親子で学ぶ療育プログラムの提供
③支援する側の人材「ABA初級セラピスト」の育成研修

~国や自治体の発達障害療育支援に関するトピックス~

江戸川区が自治体として初、ICTを活用して一人ひとりの子どもに合わせた発達課題の設定で、支援の見える化を図る

「江戸川区発達相談・支援センター」は、発達障害を有する未就学児の相談から訓練までを一貫して担うとともに、就学後も相談業務の中で切れ目のない支援を目指した施設。区内初となる福祉型児童発達支援センターの機能を兼ね備えたものとして、特定非営利法人ADDSが指定管理者となって、2020年4月に全面オープン。

就学前の児童を対象とした専門的な短期集中訓練や保育園等を訪問して集団生活への適応支援を提供しています。特に、慶應義塾大学と共同開発した早期療育プログラムAI-PACを自治体として初めて導入。ICTを活用して一人ひとりの子どもに合わせた発達課題を設定することにより、支援効果の見える化を図っています。

厚生労働省の臨時的な取り扱いとして、コロナ禍における臨時休校期間、保護者向けオンラインコンサルテーションが、児童発達支援の報酬算定対象として認められる

新型コロナウイルス感染予防のため、外出を自粛して通所が難しい利用者に対するオンラインコンサルテーションが、福祉制度上の対面支援と同等のサービスを提供しているものとして報酬の対象となることが臨時措置として認めらました。

※「新型コロナウイルス感染症に係る障害福祉サービス等事業所の人員基準等の臨時的な取り扱いについて(第2報)(令和2年2月20日事務連絡)」

これにより、鎌倉市内で療育支援サービスを提供するADDSでは、新型コロナウイルスの影響で通所を控えているご家庭に対し、オンラインのテレビ会議形式で支援を提供することができるようになりました。

インタビュー(2021年2月)

「誰もが個別の丁寧な療育を受けられる社会に」
保護者とつくる発達障害児の早期支援体制づくり

Imageアメリカ疾病予防管理センターが発表した2018年の報告書によると、米国の子どもの約59人に1人が発達障害の一つである自閉症スペクトラム障害(ASD)を持っており、増加傾向にあるという。自閉症は先天的な脳の機能障害で、幼少期の集中的な支援が症状の改善につながると複数の研究により報告されている。ところが日本では、支援を望む子どもや親が増える一方で、「早期支援」は追いついていない。専門家や人員、財源が軒並み不足し、支援の環境が不十分という背景がある。

熊さんらは2006年、学内でADDSの前身となる学生サークル「KDDS(慶應発達障害支援会)」を立ち上げ、独自に学生セラピストの人材養成カリキュラムを作成。経験を積んだ学生自らが、学生たちを研修して、ニーズのある家庭に紹介する事業を続けてきた。大学院では発達心理学と応用行動分析を学び、より専門的な立場から支援を行うため、仲間とともに2009年にADDSを設立した。

日本に必要なのは個別指導の早期療育モデル

日本では公的な療育の頻度も質もまだ十分ではなく、支援につながるまでの待機期間が長い。重要な発達時期に適切な療育を受ける機会を逃してしまう子どもが多数存在するのが現状だ。

世界では、集団よりも個別療育の方が発達促進の効果があるという研究成果も出ている一方で、日本では、早期療育を担える専門家が圧倒的に足りず、いまだに集団指導が中心だ。

自閉症などの発達障害のある子どもと親への支援を行う特定NPO法人「ADDS」の共同代表を務める熊仁美さんは、2020年に新設された江戸川区発達相談・支援センターのセンター長も兼任し、発達障害児支援の全国的なネットワークづくりを推し進める。

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幼稚園の跡地を活用して2020年4月に開所した、江戸川区発達相談・支援センター。
区独自の発達障害相談事業を引き継ぎ、新たに療育部門として児童発達支援センターを併設。一人ひとりの子どもの特性や個性に合わせ、徹底的なオーダーメイドの個別療育を提供している。

熊さんは、日本においても個別指導による療育が必要だと説く。

「丁寧に一人ひとりを見てみると、その特性は千差万別。例えば、物事を認知する上で視覚が優位のお子さんもいれば、聴覚が優位のお子さんもいます。集団の療育だけでは、こうした特性の異なるお子さんたちがまるっとひとまとめにされてしまいます。特性をきちんと見極めて、個々に合った支援をするためにも、個別指導が理にかなっているのです」

応用行動分析学(ABA)に基づく支援

こうした背景から、RISTEXの実装活動プロジェクト(エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデルの実装)では、エビデンスに基づき、それぞれの子どもに合った早期療育プログラムのモデル作りに注力した。取り入れているのは、国際的に効果が実証されている応用行動分析(Applied behavior analysis: ABA)の技法だ。米国では発達障害や自閉症に関して「科学的根拠のある治療法」としてABAを保険適応にしている州が増えている。カナダでは、オンタリオ州などで早期療育にはABAが導入され、公費で実施されている。

ABAとは、日常生活の具体的な目標を立て、子どもの豊かな学びに徹底的に向き合う方法論。「これができたら、次の課題ではここまでやってみよう」と行動のステップを細かく区切り「スモールステップ」で達成度を見極めながら支援方法を進化させ、PDCAのサイクルを繰り返す。

熊さんらの取り組みでは、例えば衝動的にモノを投げてしまう子どもに対しては、まずファーストステップとして、「投げる」と「投げない」の間を“つなぐ行動”を設定している。例えば、「人ではなく壁に向かってなら、投げてOK」とする。次に、「投げていい箱を作るから、その箱に投げよう」と伝える。それができるようになったら、固いものと柔らかいものを見分けるように促し、「柔らかいものだったら投げてもいい」という風に、徐々にルールを追加していく。

「“つなぐ行動”ができるようになったら、『壁に向かって投げて、偉いね』などと褒める。というのも、衝動的にモノを投げてしまうお子さん本人にとっては、投げるという行動を制御されるのって、とても大変なことなんです。それを頑張って、壁に投げられるようになり、箱に投げられるようになり……と段階を経るうちに、危険な行為をしなくなるというゴールに行き着きます。一見遠回りのようですが、『投げちゃ駄目』と言い続けるよりも、ずっと効果は高いです」(熊さん)

「親子共学型」で持続可能な支援モデルを開発

ImageRISTEXのプロジェクトでは、個別指導による親子共学型療育モデル「ぺあすく」を開発。子どもへの個別指導とペアレントトレーニングとを組み合わせて実現した。まず、親子は1週間ごとに療育施設を訪ね、子どもはセラピストからABAの技法を使ったトレーニングを受ける。保護者は別室で、子どもがセラピストから受けているのと同じ課題、同じトレーニング法をeラーニングで学ぶ。家では同じことを親子で実践してみて、その様子をタブレットやスマートフォンの専用アプリでセラピストにフィードバックする。親子は翌週、習得度合いに応じた指導を受けられる。

このように一定期間集中して、親子それぞれが、セラピストによる直接支援を受けながらステップアップしていける仕組みだ。親が子どもへの関わり方を習得した後は、親自身が自立して子どもに関われるようになる。

熊さんは、個別に親子の関係性そのものをエンパワーしていく親子共学型のプログラム導入の利点をこう語る。

「日本では療育機関の空きが少なく専門家が足りない状況がずっと続いていたので、最初から解決できるような仕組みにしたいと考えたのが、親子共学型のモデル。導入した施設では半年に一回、年に一回などと、新しい家庭を受け入れて支援を提供できる対象を広げられるようになりました」

切実なニーズと自閉症児の保護者が持つ底力

専門家とやりとりできる環境をアプリで整えつつ、療育の拠点はあくまでも家庭だと位置づけたのは、「保護者は子どものいちばんの専門家になれると信じているから」と熊さん。学生時代に出会った自閉症児の家庭で、日々子育てに悩み、切実に支援を求めている親たちの姿に触れた。子どもたちの大きな成長を目の当たりにし、個別の関わりの中で育まれる早期集中療育の効果と必要性を実感したという。

「友人が、たまたま大学時代に家庭教師のアルバイトで訪れたご家庭に、自閉症のお子さんがいたことが支援活動のきっかけになったんです。その子がアメリカでABAの技法を取り入れた療育を受けて日本に帰国したら、環境があまりにも違うことに親御さんは驚いていました。療育を担う人材を探しても、その道の専門家を日本で見つけるのは難しく、学生である私たちに、知りうる限りのことを伝えてくれました。その母親たちがネットワークを作って専門家も顔負けというほど熱心に情報を集めていらして、知識も豊富で、親御さんたちの底力を感じました」

伴走型の支援で保護者の自己評価がUP

RISTEXプロジェクトの要は、「ぺあすく」プログラムの実装にある。新たにABAセラピストの養成研修も実施。自治体の療育センター、民間児童発達支援事業所、教育やリハビリテーションなど、協力施設は全国15拠点に広がる。

全拠点で共通のフォーマットを使ってカリキュラムを共有したことで、定量的に支援と効果の評価を行えるようになり、トータルで200人のデータを報告書にまとめた。支援を受けていない子と比較すると、実際に支援を受けた子たちは、言語や社会性のスコアが10ポイント程度上回ることがわかった。

一方、家庭で療育することでの親のストレスについても評価した。すると、「ぺあすく」を導入しても、親のストレス度合いは上がらず、むしろ緩やかに下がる傾向が見られた。その上、親の自己評価が上がるという結果も見られた。

「親御さんご自身が子育てにポジティブな感情を持てていると回答した割合が、15ポイントほど上がったんです。セラピストが伴走し、親御さんが子どもとの関わり方を習得する中で、子育てに自信を持てるようになるという効果も、家庭療育に期待できると思いました」(熊さん)

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親がスマートフォンを用いて、子どもが課題に取組む様子を3つの記号で記録する。
親の手助けがあっても出来なかったら、「-」。手助けがあって出来たら「P」。手助けなしで出来たら「+」。データは色分けしてグラフで表示されるため、一つひとつの課題をクリアしていく様子がひと目でわかる。

スマートフォンやタブレットを用いる療育アプリケーション「AI-PAC」では、直感的なタッチ方式のアプリで効率的に記録を取ると同時に、成果を専門家と家庭とで共有できるようになった。

Image「直感的な操作で記録の負担を少なくしたため、支援者側も、記録を取る親側も負担が減って作業がしやすくなりました。これまでは体系だった基準がなく、支援者ごとにまちまちな基準で達成度を評価してきたため、比較検証もできなかったんです。具体的なカリキュラムを複数の施設で共有できたことは、支援プログラムの実装研究を進める上で意義あることだと思いました」

熊さんを突き動かしているのは、子育てに悩みながらも「よりよい療育環境を!」と求める親たち、そして困りごとを抱えた子どもたちの存在だ。

「どの地域に生まれても、エビデンスに基づいた個別の丁寧な療育を受けられる社会にしていきたい。まずは、江戸川区で新しい療育のモデルをしっかり作って、それを他の自治体にも使ってもらい、民間にも広げていきたいと思っています」(熊さん)

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