自家消費型の小水力発電による持続的むらづくり

  • SOLVE(シナリオ/ソリューション)

2022年2月21日

  • プロフィール (2021年11月)
    1955年山口県下関市生まれ。建設省土木研究所、国土交通省九州地方整備局の武雄河川事務所長を経て九州大学 教授。2021年度に、熊本県立大学 特別教授、一般社団法人九州オープンユニバーシティ 代表理事に就任。専門は河川工学、河川環境。最近は、地域づくり、小水力発電導入等に取り組んでいる。住民参加の川づくり、多自然川づくり、トキの野生復帰、自然再生、川の風景デザイン、流域全体での治水、技術者の技術力向上などにも精力的に取り組んでいる。日本湿地学会会長、応用生態工学会元副会長、風景デザイン研究会会長、NPO法人水圏環境研究所理事長。

研究開発の概要

解決すべき社会課題

福岡県朝倉市のように山間部の河川域など、高齢化や人口減少が進む地域における大規模自然災害の発生後には、防災最優先の縦割りの復旧・復興が行われ長期視点の村づくりに至らない。持続可能な復興の社会経済的基盤となり得る再生可能エネルギー導入のチャンスであるが、個別対応に追われ将来の地域づくりの主体となるものを形成することが困難で余裕がない、あるいは初期投資が高く地域主体で導入できない、などの課題がある。これらの課題は互いに連関し、同時に解決すべきであるが、その理解共有や対策整備がなされていない。

活用する技術シーズと解決手法

山間部の河川域など高齢化や人口減少が進む地域における資源として、身近で、復興事業の関与が可能で、共有資源である水に着目し、住民が自ら主体的に実践できる3Dプリンターを用いた水車による小水力自家消費モデルを導入する過程で、村づくりのための勉強会・ワークショップ、小水力発電を用いたシステム設計活動などを通じ、地域づくりの主体を形成し、その主体が地域の将来を描き、地域主体による地域資源の活用による持続可能な村づくりにつながるシナリオを形成する。

可能性試験の実施計画

2017年7月九州北部豪雨で甚大な被害を受け、高齢化・後継者不足など環境変化により、集落の維持すら困難な状況になりつつある中、地域再生に向け取り組んでいる福岡県朝倉市の松末コミュニティの中心である、松末小学校跡地に3キロワット規模の自家消費型の小水力発電所のモデルを構築し、住民との協働で設置し、自家消費の方法について工夫し、「作る」⇔「使う」の体験を実施する。

小水力エネルギーを活用した災害復興時における主体形成と持続的むらづくり

※ 本プログラムは、シナリオ創出とソリューション創出という二つのフェーズで構成されており、本プロジェクトは、シナリオ創出フェーズとして研究開発を実施している。シナリオ創出フェーズでは、社会課題を解決する社会システムを想定し、技術シーズを活用した解決策(シナリオ)における社会実装の可能性を検証する。

インタビュー(2021年7月)

地域の復興に向けた住民の強い思い

RISTEXのプロジェクト「小水力エネルギーを活用した災害復興時における主体形成と持続的むらづくりのシナリオ形成(令和2年度採択)」の舞台となっているのが福岡県朝倉市の松末コミュニティだ。筑後川の支流、赤谷川流域の複数の集落からなる松末コミュニティは、2017年7月九州北部豪雨で大きな被害を受け、被災から4年経ったいまも復興の途上にある。

「災害復興時には大きな公共投資が行われます。本来なら再生可能エネルギー導入など持続可能な地域づくりの大きなチャンスになるはずですが、これまでは防災優先で縦割りの復興がバラバラに行われ、将来その地域をどうしていくか主体形成が困難でした」とプロジェクト立案の社会的背景を話すのは、本プロジェクトの研究代表者の一般社団法人九州オープンユニバーシティ代表理事、九州大学の島谷幸宏教授だ。

そうした社会的課題解決のひとつの手段として、島谷教授が考えるのが「自家消費型の小水力発電」というモデルだ。

「山間地には地域の資源として『水』があります。その地域の資源を活かした小水力発電を住民主体で導入していくことにより、地域に主体力が育まれ、復興や持続可能な地域づくりにつながると考えています。本プロジェクトでは、そうした考えのもと、松末コミュニティの中心である松末小学校跡地に、3kW規模の小水力発電所を住民と協働で設置し、電気の自家消費の方法についての工夫もしていく計画です」

プロジェクトは現在、小水力発電の実装に向けた地域住民との話し合いを進めている段階にある。島谷教授は話し合いの中で地域住民の強い思いを感じているという。

「松末小学校は昔からの地域の拠点で、被災時にも避難場所になり多くの住民が夜を明かした場所です。水害があった2017年度を最後に廃校になりましたが、閉校式のプレゼンテーションで、子供たちが『松末大好き、小学校大好き、人が好き、自然が好き』『川でとても怖い目にあったけれど、またこの川で遊びたい』と話していたのがとても印象的でした。地域住民との話し合いの中でも、松未小学校を地域の拠点として蘇らせたい、その際のエネルギーは小水力発電でやりたい、という強い気持ちが伝わってきます」

実証試験予定地(松末小学校跡地)

松末小学校跡地利用のアイディアプラン

小水力発電所は“現代の水車小屋”

「自家消費型の小水力発電所」というモデルは、かつての水車小屋への原点回帰だと島谷教授は言う。

「かつての水車小屋は、同時に粉挽き小屋でもありました。つまり、地域住民の作業場であり、生活の拠点のひとつだったわけです。いまは、電気は遠くで発電して、使う場所に運んでくるものになっています。しかしそのためには、電力会社の電柱と電線を使わなければならない。それでは、本当の意味での地域の自立にはなりません。なるべく電気は運ばず、その場で発電し、その場で使う“地産地消”の基本に戻って、小水力発電所に地域づくりの拠点をつくるという逆のシナリオで、持続的な地域づくりをどうすればいいかという発想をしていきたいと思っています」

本プロジェクトを通して島谷教授が描いているのは、住民自身が直接関わり合いながら、つくったり、使ったりするという能動的なプロセスを通して地域に主体力をつけ、地域づくりを進めていくという「大きなストーリー」。実際、その「ストーリー」の有効性を、島谷教授は先行事例の宮崎県五ヶ瀬町を挙げてこう話す。

「五ヶ瀬町では500Wの小水力発電機を設置していますが、そのすぐ横に小屋を建て、地域住民の作業場にできるよう、配電しています。実際に作業をともにして感じたのは、とにかく皆さんが楽しそうにしていたことです。身体を動かして物作りをするのは単純に楽しいものですし、農家の人たちにとっては取水管から発電機に水を引く塩ビ管の設置は、農作業でいつもやっていること。小屋づくりについても、『ただ置くのではなく、基礎からやらないと』と、率先して作業を進めてくれました」と振り返る島谷教授。現在、小屋の中にはエアコンや冷蔵庫が設置されているが、今後はドライフルーツをつくる装置なども入れ、「ご当地商品」の製造にも使っていく予定だという。

しかし、こうした地域住民主体の小水力発電所の設置にあたり、これまでネックになっていたのが「高くて、重い」従来の小水力発電機だった。小水力発電では、水車、オルタネーター(発電機)、チャージコントローラー、バッテリーが必要になるが、その多くが輸入に頼らざるを得ないのが現状だ。

「特に1kWや2kWという小型の発電機には、国産製品がごくわずかしかありません。ほとんどが海外からの輸入になるため、導入コストが高くなります。また、発電機は重くて設置に重機が必要なケースも多い。特に山間部の河川では、地域住民の手で設置する際のネックになります」と話す島谷教授。

こうした導入のハードルを下げるため、今回のプロジェクトの技術的な柱になっているのが、3DCADで設計し、3Dプリンターで形成する「Jet水車」である。スプリンクラーのようなノズルから吹き出す水流によって回転する「Jet水車」は、島谷教授が技術開発したもので、すでに2020年3月に特許を取得済みだ。

Jet水車 水車の動き

「水車の設置場所によって水流の落差や流量が変わってくるので、すべてオーダーメイドが必要です。基礎的な技術開発は済んでいても、実装するときには調整が必要になりますが、3Dプリンターで自作できるようになれば、そうした作業も簡単にできるようになります」と、その導入効果に期待するところは大きい。

海外展開も視野に入れる

国土の約7割を山地が占める日本の川は、短くて流れが急なのが特徴だ。気候変動の影響もあり、近年、毎年のように大きな水害が発生しているが、そうした環境の中で本プロジェクトが果たす役割は大きい。現在の「シナリオ創出フェーズ」に止まらず、その先の「ソリューション創出フェーズ」、さらには社会実装までも見据え、島谷教授は次のように語る。

「地域主体の自家消費型小水力発電の導入モデルをパッケージ化できれば、可能性は大きく広がっていきます。そのために現在、行政に復興工事の際にお願いしているのは、砂防施設などをつくるときにあらかじめ小水力発電所用の取水施設を設置すること。その分、小水力発電所の設置時に地域が負担する土木事業費が抑えられるので、より導入の敷居が下がります。そうした考え方を広めていくとともに、パッケージ化したモデルを山間地の地域づくりにより活かせるような形に発展させていきたいですね。国内だけでなく海外でもニーズはあると思います。小水力発電にはJICA(国際協力機構)なども興味を持っています。3Dプリンターさえあれば現地でも部品はつくれますし、軽量なので輸送することも可能です。新型コロナウイルスの流行下にあって厳しい状況ではありますが、本プロジェクトを進める中で海外展開の見込みについても検討していきたいと考えています」(島谷教授)

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