調査報告書
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人工知能研究の新潮流2 ~基盤モデル・生成AIのインパクト~

エグゼクティブサマリー

本報告書は、人工知能(AI)技術の研究開発における「第4世代AI」と「信頼されるAI」という二つの潮流を踏まえ、AI技術の社会的価値を高め、日本の国際競争力を強化するための研究開発の戦略提言と、それらに関連の深い研究開発領域の動向をまとめたものである。同様の位置付けの報告書「人工知能研究の新潮流~日本の勝ち筋~」を2年前(2021年6月)に公開したが、その後、基盤モデル・生成AIがブレークし、社会に大きなインパクトを与え、研究開発戦略・政策の検討も活発に行われている。そこで、今回、2年前の報告書をアップデートし、「人工知能研究の新潮流2~基盤モデル・生成AIのインパクト~」と題して公開することにした。本報告書は2部構成をとり、第1部では基盤モデル・生成AIのインパクトを踏まえた研究開発の二つの潮流と戦略提言の内容、第2部ではそれらと関連の深い研究開発領域の動向や国際比較についてまとめた。

第1の潮流「第4世代AI」は、AI技術の精度・性能を高める流れに沿ったもので、深層学習を中心とした第3世代AIが抱える問題点を克服する新しいAIの基本原理・アーキテクチャーの研究開発である。第2の潮流「信頼されるAI」は、AIと社会との関係が広がったことで生まれた、精度・性能とは異なるタイプの研究開発である。超大規模深層学習で作られた基盤モデルに基づく生成AIは、いわば第3.5世代AIと位置付けられるが、極めて自然な対話応答性能や高い汎用性・マルチモーダル性を示し、人間の知的作業全般に急速な変革をもたらしつつある。そのインパクトは、「第4世代AI」の方向性にも影響を与え、「信頼されるAI」の面でも新たな課題を生み出した。

また、二つの潮流として見られるようなAI技術の発展は、社会・産業・科学の変革を促す。特にさまざまな産業と科学技術の国際競争力を左右する「AI・データ駆動科学」に着目すると、AIを用いた大規模・網羅的な仮説生成・探索による人間の認知限界・バイアスを超えた科学的発見、ロボットを用いた仮説評価・検証のハイスループット化への取り組みが活発化している。生成AIはこの可能性を拡大・加速しつつある。

AI技術開発は米中2強と言われる状況であり、日本がそこに割り入ることは簡単なことではない。しかし、AI技術は国の産業や科学の国際競争力を左右し、経済安全保障の面からも欠くことのできない技術である。海外からの技術導入・活用に全て依存してしまうようなことなく、日本として優位性を打ち出し得る点を見いだし、戦略的に研究開発を推進すべきである。本報告書では、「第4世代AI」「信頼されるAI」「AI・データ駆動科学」という切り口で、その可能性を論じた。さらに、政策・戦略の議論・検討が活発化している基盤モデル・生成AIについて、本報告書では、その研究開発課題の全体観を示した。その上で、基盤モデル・生成AIの活用推進、次世代AIモデルのための基礎研究推進、それらを支える基盤モデルとその周辺技術の実装・運用、という三つの打ち手を連動させるという方向性についても論じた。

※本文記載のURLは2023年6月時点のものです(特記ある場合を除く)。