戦略プロポーザル
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デジタル社会における新たなトラスト形成

エグゼクティブサマリー

本プロポーザルは、デジタル化の進展につれて社会のさまざまな場面でトラスト(信頼)がうまく働かなくなってきたという状況・問題を、改善・解決するための新たな仕組み作り、すなわち「デジタル社会における新たなトラスト形成」のための研究開発の推進を提言する。

トラストは相手が期待を裏切らないと思える状態である。リスクがあるとしても、相手をトラストできると、安心して迅速に行動・意思決定ができる。トラストは協力や取引のコストを減らしてくれる効果があり、人々の活動を拡大し、ビジネスを発展させ、ビジネスの生き死にを左右する要因にもなる。

しかし、デジタル化の進展につれて、バーチャルな空間にも人間関係が広がり、複雑な技術を用いたシステムへの依存が高まり、だます技術も高度化してしまった。その結果、デジタル社会と言われる今日において、顔が見える人間関係や人々の間のルールに支えられた「旧来のトラスト」だけではカバーされないケースが拡大し、社会におけるトラストの働きがほころんできている。この問題は、自動運転車、AIエージェント、コミュニケーションロボット、メタバースなどの新技術・新サービスの社会受容を左右し、フェイク・偽装・なりすましなどによる詐欺・犯罪の懸念を高める。

この問題に対処するため、「デジタル社会における新たなトラスト形成」の研究開発推進が強く求められる。この取り組みによって目指すのは、不信・警戒を過度に持つことなく幅広い協力・取引・人間関係を作ることができ、デジタル化によるさまざまな可能性・恩恵がより広がるような社会である。これを実現するには、技術開発だけでなく、制度設計や社会受容も考えた「総合知」に基づく研究開発が必要である。

デジタル化が進展し、上述のようなほころびが生じている状況のなか、断片的に切り取られた情報や対象のある一面しか見ずに、何かを信じ込むことはとても危うい。デジタル社会のトラストは、多面的・複合的な検証によって支えていくべきであり、その検証が適切かつ容易に行えるような仕組みが望まれる。

本プロポーザルでは、この多面的・複合的な検証という考えを具現化する上で助けとなる概念として、「トラストの3 側面」を導入する。すなわち、トラストは、どのような側面に着目するかによって「対象真正性」(本人・本物であるか?)、「内容真実性」(内容が事実・真実であるか?)、「振る舞い予想・対応可能性」(対象の振る舞いに対して想定・対応できるか?)という3 通りに整理できる。これら3 側面のそれぞれに対して「社会的よりどころ」になるものを技術や制度によって用意し、それらを用いた多面的・複合的な検証を、社会の中で広く活用される仕組みとして定着させることが、前述した目指す姿の実現につながる。

そのために必要な「総合知」に基づく研究開発として、次の4層から成る研究開発課題への取り組みを連携して推進することを提言する。
・トラストの社会的よりどころの再構築
・社会的トラスト形成フレームワーク
・具体的トラスト問題ケースへの取り組み
・トラストに関する基礎研究

※本文記載のURLは2022年7月時点のものです(特記ある場合を除く)。