- 安全安心な都市・地域
2020年6月30日
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ニーズ
減災や早期復興で、災害にしなやかに対応する -
領域・プログラム
「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域

- 研究開発プロジェクト名
「伝統的建造物群保存地区における総合防災事業の開発」 - 研究代表者
横内 基(小山工業高等専門学校 建築学科 准教授)※終了当時
2020年4月:国士舘大学理工学部理工学科建築学系 准教授 - 研究開発期間
平成24(2012)年度~平成27(2015)年度 - 報告書
成果報告書(PDF:310KB) - Webサイト
「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域
※写真左は栃木市嘉右衛門町伝建地区、写真右は桜川市真壁伝建地区
城下町、宿場町、門前町、在郷町など、歴史の面影を残す美しい集落・町並み。昭和50年の文化財保護法の改正によって伝統的建造物群保存地区(伝建地区)として保存事業の対象となった全国各地の町並みは、文化財であるとともに生活や生業の場でもあり、地域づくりの中核でもあります。
このプロジェクトでは、伝建地区という「特別な」地域を研究開発の拠点としています。そのため当初は、歴史的な建物の保護や防災の技術、防災体制を中心課題と捉えていました。しかし、研究開発が進むにつれ、伝建地区が抱える課題とは、日本の多くの都市・地域に共通の課題でもあることが、明確になってきました。
- 木造建築や細い道など、地震・火災・豪雨等に対して防災力の弱い設計
- 修復の技術・材料・担い手が廃れつつある
- 空き家が多い
- 高齢化
- 次世代が育っていない
- 地域のつながりが充分ではない
さらに、解決策を探るための緻密な調査と多彩な全国の事例収集、多角的な実装の取り組みを経て、見えてきたものがあります。地域の総合的な防災力を高め、継続させ、災害時の回復力を底上げするためには、コミュニティの繋がり強化や活性化が、極めて効果的な手段となることです。
これは、伝建地区以外にも応用可能な手法です。
地域コミュニティの活性化は、自然に育つのを待つのではなく、地域特性や対象となる層に応じた「しかけづくり」が大切です。
本プロジェクトでは、全国各地の伝建地区調査によって得られた情報や、プロジェクトのさまざまな取り組みの方法・結果を、冊子『歴史的町並みを護り、ヒトもマチも輝き続けるための、地域デザイン雑記帳』としてまとめました。伝建に限らず多くの自治体のみなさまに、地域の防災機能を高め維持するための実践的なアイデア集として、ご活用いただければ幸いです。
地域デザイン雑記帳
A4 276ページ
2016年3月18日第一版発行
監修 横内基
編集 野村佳亮
デザイン 石川達
目次
第I編 地域活力を高める
・地域の様子を知る
・地域への関心や意識を高める
・歴史的資産を活用して、魅力を高めるしくみづくり
・地域の魅力を高める歴史的資産の使い方を創造する
・持続社会を支える人々の繋がりを整える
第II編 予防力を高める
・地域での取組み
・火災に強い地域をつくる
・地震に強い地域をつくる
・建物の健全性を維持する
第III編 回復力を高める
・地域で災害対応の標準化を目指す
・歴史的建造物の復旧ノウハウを蓄積する
研究開発拠点での活動紹介
プロジェクトが栃木市嘉右衛門町と桜川市真壁で行った活動の一部をご紹介します。
① 次世代の担い手の育成と確保
小学生から大学生、その保護者までを対象に、まちづくりアイデアや小論文を募集するイベントを開催。小学生とその保護者に声をかけて建物の補修工事を体験する「くらづくり応援隊ワークショップ」など、まちづくりに触れる機会を設けました。活動を通じて、「とちぎ高校生蔵部」という活動も生まれています。写真は、高校生の小論文執筆にあたって開催された、ワークショップの様子です。
② 歴史的資産の活用によって地域の活力を高めるしくみの創出
栃木市においては、「クラモノ」や「マチナカプロジェクト」といった、歴史的資産を活用する取り組みが進められていました。さらに空き家の老朽化や貸し手・借り手のミスマッチ状況などを調査し、平時の活用を支援するしくみづくりを目指しました。
③ ステークホルダーの円滑な連携体制づくり
「嘉右衛門町伝建地区まちづくり協議会」の設立により官民一体での取り組みへ。他の先進地区から取り組みを学ぶ勉強会&ワークショップの開催や地域内外への情報発信など、活発な活動を展開しました。右の記事は、プロジェクトが作成し地域に配布したミニコミ誌「でんけん」です。
④ 住民個々の防災意識の醸成と自主防災体制の構築
防災意識が高かった一自治会と地域の高校で、合同で避難所体験を実施したこが、周囲の自治会や関連機関の連携を広げるきっかけとなりました。イベント形式の活動等で住民の参画を促し、議論の場を醸成。写真は住民向けの防災啓発活動として実施した、防災ウォークラリーの様子です。
⑤ 予防力を高める技術ソリューションの整備
伝統木造の地域に有効な、住民による初期消火について、可搬消防ポンプ等を活用して迅速に注水が開始できる戦略手法を提示。またその訓練手法について、実際の開催とともに効果の検証等を行い、継続的な訓練につなげました。 地震に関しては、特に土蔵造を主とする町や建物の耐震性を研究した事例が少なかったため、耐震指針づくりや補強法のメニューの蓄積からスタート。地元の職人集団から集めた経験・知識に実験による裏付けを加え、科学的根拠を理解した技能者の育成に取り組んでいます。右図は、歴史的建造物の耐震性能評価手法です。
⑥ 被災した歴史的建造物を迅速に復旧するためのネットワークの構築
大規模災害に備え、ひとつの地域だけで修復技術を継承する職人等を確保しておくことは、現実的に難しい話です。そこで、近郊地域の同じ職能同士が技術や情報を共有し、ネットワークをつくる場を設けました。また、現在行われている震災復旧工事の記録を統一フォーマットに整理する、補修方法の施工マニュアルを整えるなど、貴重な知見を引き継ぐ取り組みを行いました。右図は施工マニュアルの実例です。
(文責:RISTEX広報)
その後の活動
2016年6月1日~2017年3月31日
熊本地震社会実装推進 実装支援課題に、「コミュニティに依拠する歴史的市街地の震災復興」として採択
小学生から高齢者まで幅広い世代が参加し、崩れた土壁から再利用可能な部分を選り分ける。終了後もボランティアへ参加するなど、人々の繋がりを豊かにする効果も見られた。
栃木市・桐生市・桜川市の職人ネットワークが歴史的建造物の応急復旧に貢献。プロジェクトを通じて構築できた繋がりが他の地域の力に。
2016年7月5日
プロジェクトでの活動が紹介される。
2018年3月
栃木市が嘉右衛門町伝建地区防災計画を策定。プロジェクト成果が盛り込まれた。
2018年7月~
プロジェクトに参画したメンバーや団体会員が中心となり、地域の橋渡しを担う集団として栃木市で「かえもん暮らし」が始動。メンバーは建築士・大工・都市計画家・WEBデザイナー・研究者等で構成。歴史的建造物や歴史的景観の保全に資する建物を貸したい方や売りたい方の相談や意向に応じながら、その見学会や活用相談会などを通じて、活用したい人との橋渡しを関係機関と連携しながら進めている。
2019年6月~
栃木市嘉右衛門町伝建地区で暮らし、営む地元有志が、キュレーション情報サイトを開設。このサイト〈kaemos〉を通じて、このまちをもっとオープンにし、まちの蓄積を現代的に活かす機会をつくっている。
関連リンク
- 『Kokushikan University-Yokouchi Lab(建築構造・防災研究室)』
- 『とちぎ高校生蔵部』
- 『特定非営利活動法人 全国町並み保存連盟』
- 『全国伝統的建造物群保存地区協議会(伝建協 でんけんきょう)』
- 『コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造』研究開発領域について
- 「伝統的建造物群保存地区における総合防災事業の開発」(平成24年度採択)