H24年度 採択課題 研究機関:平成24年11月~平成27年10月 カテゴリー2 伝統的建造物群保存地区における総合防災事業の開発 研究代表者 横内 基(国士舘大学 理工学部 准教授)

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概要

背景・問題意識:伝統的建造物群保存地区は防災面では一般市街地以上に弱点となる要素があるため、従前より保存事業とならび防災事業が重視されてきた。しかし、それは防火対策に重点が置かれており、東日本大震災で甚大な被害の原因となった耐震対策などに取り組む事例は少なく、総合的な防災体制の重要性が再認識されている。

目標

我が国にとって価値の高い歴史的町なみを、安全・安心に継承・発展させるため、地域コミュニティと共に、総合的に防災対策を立案する

関与する組織・団体

  • 小山工業高等専門学校
  • 東京都市大学
  • 早稲田大学
  • 明石工業高等専門学校
  • 栃木の例幣使街道を考える会
  • 栃木蔵街暖簾会
  • NPO ハイジ
  • ネットワークとちぎ
  • マチナカプロジェクト
  • 真壁町登録文化財を活かす会
  • ディスカバーまかべ
  • とちぎ蔵の街職人塾
  • 栃木県建築士会栃木支部
  • 茨城県建築士会桜川支部
  • 栃木市教育委員会伝建推進室
  • 桜川市教育委員会文化財課
  • NPO全国町並み保存連盟

「コミュニティ」紹介

栃木市や桜川市の歴史的町並みには、近世初期の町割や地割がよく残されており、江戸末期から昭和戦前に建てられた伝統的建造物が現存する。その集積度は従前より伝建地区であった町並みほど高くはないが、土蔵造の建物が存在感を示す関東地方の在郷町ならではの特徴的な町並みが形成されている。

このような町並みが今もなお残っている背景には、商人、職人、役人ら当時の住民が互いに支え、知恵を出し合い、生業や冠婚葬祭、災害などに対処する文化があったからであろう。今の伝統的建造物群の存在には様々な効果が期待できるが、防災上でいえば伝統的建造物群は「みんなで町を守る」という文化の象徴といえる。しかし、産業構造や生活スタイルは町並み形成当時から大きく変化し、所有者や後継者らの郊外への転出が進んでいる。それに伴い、地区内では少子高齢化が進行し、転入者の増加も今のままでは期待できず、空き地や空き家も目立つ。さらに、町の担い手が不足し、自主消防組織や祭り組織などの昔から続くコミュニティ文化を地元の人材で維持することが困難になっている。

2011年東北地方太平洋沖地震とその余震は、それらの町並みにも多くの被害をもたらした。十分な経験と実績の不足や、職人不足などの課題を抱えながらも、現在はその復旧や修理に全力で取り組まれている。

アプローチ

・地域の伝統文化を改めて見つめ直し、魅力を再認識する仕掛けづくりを行っていく。
・また、耐震や防耐火に配慮した修理・修景に関するガイドラインの整備や、伝統構法を継承するための施工体制の構築、さらには住民参加による防災ガイドラインの作成や総合防災訓練の実施などを通じて、「地域のみんなでまちを守る」というまちをつくるための体制づくりを進める。
・さらに本成果を一般化し、他の伝統的建造物群保存地区や木造密集地域など類似の問題を抱える地域への展開を図る。

到達点と課題

 

★ステークホルダーに対する意識の醸成
★次代を担う子供たちによる実践的取組み
★地域コミュニティ間や学協会との連携
★異なる地域の職能同志のコミュニティの連携
★耐震・防火に対する工学的知見の蓄積

<課題>
・地域の人々による守るべきものの共有
・個々の活動を有機的に結び付ける理念(伝建地区はどうあるべきか?)の明確化
・継続的に実施・運用していける体制の構築
・伝建地区だからこそできる使い方と保存の仕方の提示

(H26年2月現在)

アピールしたいこと

地域の絆、周辺地域の絆、全国の絆
・近年、伝建地区が持続可能な地域社会モデルになり得るものとして認識されつつある。しかし、少子高齢化や空き家対策、防耐火・耐震対策など共通する課題も多い。
・対象地区での成果を全国の伝建地区へと展開し、我が国の歴史的地区、さらには既存市街地・集落の安全・安心で持続可能なまちづくりへの指針とする。

メッセージ

歴史的個性の際立つ魅力的な地域の伝統的建造物群保存地区(伝建地区)は、今もなお人々の生活や生業の場として重要な役割を果たしている。ただし、歴史的な町割りに伝統的な建造物が集まる地域ゆえに、防災上はやや脆弱なところが多く、人々と地区の安全安心のため、火災や震災、土砂災害等に対して、万全の対応が必要とされる。一方、北関東の伝建地区は、商業の衰退、少子高齢化、空き家の増加などが進行し、まちの伝統や文化を継承する景観や地域コミュニティが失われつつある中、東日本大震災で多くの伝統的建造物が被災した。

そのような町を研究の舞台として、このプロジェクトでは、地域で活動する様々な立場の人々の連携による"みんなで町を守る文化"の再構築と、検証が十分になされていない技術的背景の蓄積に取り組んでいる。安全安心かつ持続可能な歴史文化地域として、地域で担い手が育まれ、地域コミュニティあるいはそれぞれの地区で活躍する同じ関心を持つ人々による絆が平時から情報や意識を共有し、支え合える社会基盤が整うことを目指している。

リンク

アウトカム(プロジェクトの成果)開く

生活や生業の場としての魅力を失い、若い人たちが離れ、少子高齢化が進む地域は、防災力も低下していきます。栃木市にある歴史的な町並みの残る伝統的建造物群保存地区も例外ではありません。伝統的建造物群保存地区の歴史や伝統文化を中心に据えた平時の活動で様々な人たちをつなげ、災害時の被害を最小限に抑える総合的な防災力向上に取り組みました。

Point1
歴史的建物の修繕方法に地域で取り組み、技術の継承が可能になりました。

被災による応急処置や復旧工事を含めた歴史的建物の修繕が少ない地域では、修繕の仕事そのものは短期的であるため、修繕に関わる伝統技法の継承が困難です。しかし、伝統的建物を守るために北関東土塗壁の性能や効果、補修方法を明らかにし、耐震性能が不足する土塗壁の補強法の開発を地域の技術者や技能者集団とともに進めたことで、補強法などを含めた技術向上と地域での技術定着を高めることができました。
 また、近郊地域の技術者が集まり、技術や情報を共有できる場を設け、災害時に支え合えるネットワークづくりを支援しました。その結果、地域間で連携がはじまり、また職人らが集まり、伝統的な建物を保全するための技術の研鑽を目指す組織が設立されました。このように地域内外で伝統継承の新たなネットワークが生まれつつあります。

Point2
歴史的建造物の修復技術の継承と地域防災活動の向上を目的としたプログラムを実施しました。

歴史的建造物を活用した地域協働型育成プログラムを実施しました。学生を対象に、本物の職人が先生となり被災した歴史的健造物の震災復旧工事現場で修理方法や使用材料等を実践的に理解できるワークショップを開きました。また、小学生とその保護者が参加する歴史的建造物の修復体験も実施。被災した建物の修復を通じて地域の魅力や価値を共有するワークショップも開催しました。さらに、小学生から大学生までを対象に防災に限らず地域のイベントや活性化を目指した取り組みへの新たな参加を促すイベントを実施しました。

Point3
歴史的資産を活用し、地域を活力化しました。

真壁地区では震災の復旧工事を終えても、利用されることなく空き家になっている建物が多くあります。一方で、若者や民間団体が店を開き空き家を再生させたり、イベントを開催するなど新たに建物を利用する動きが起こっています。災害で建物を復旧できる体制とともに重要なのが普段の建物活用です。普段の建物活用を促すために空き家と空き地を詳細に調査し、その情報を地域で共有し、地域のニーズと開業希望者のニーズをマッチングさせる取り組みを実施。また、この町での平時の生活をイメージしやすいように歴史的資産の活用事例の紹介や生活を疑似体験できるワークショップを企画しました。

Point4
人のつながりを支援することで、地域の防災体制を強化できました。

2012年に伝統的建造物保存地区として指定された栃木市嘉右衛門地区内の伝建地区は、3つの自治会にまたがる新たなコミュニティであるため、既存の地域コミュニティとの連携や協力ができていませんでした。そこで関係者と意見交換を重ね、イベントなどで集まれるような場を設けました。
 防災意識を高められる避難所体験や防災イベントを実施する取り組みをきっかけに、自主防災組織のない自治会でも自主防災組織が誕生。嘉右衛門地区内の3つの自治会と隣接する地域、消防団、自治体、近隣の教育機関が参加した防災企画や自主防災会対抗の防災訓練大会が実施されるほど防災意識レベルが向上し、意識の統一もみられ、防災体制が整備できました。
 また、とちぎ協働祭に積極的に参加することが伝建地区の現状と防災について地域の人たちの興味や関心を引くことにつながりました。伝建地区でも町づくり協議会が設立され、官民一体の活動が生まれました。

 
残された課題

このプロジェクトを通して栃木市の統的建造物保存地区は、受け身から自発的に活動をする地域になりました。ただし、個々の関心が異なるため取り組みに偏りが生じ、総合的かつ組織的な地域活動にまでなっているとは言えません。理由は地域のエリアマネージメント組織がないためです。担い手の育成を目指す研究会を立ち上げましたが、これに併せ、今後はエリアマネージメント組織の体制づくりを進める予定です。

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