「科学技術と人間」研究開発領域は、平成17年度に始まり、平成24年度に活動を終了しました。
「科学技術と人間」研究開発領域は、平成17年度から24年度までの8年間にわたり、科学技術と社会の間に生じる問題について、二つの研究開発プログラム、①「21世紀の科学技術リテラシー」(平成17~21年度)、②「科学技術と社会の相互作用」(平成19~24年度)の推進に取り組みました。
本領域の詳細サイトは下記よりご覧ください。
領域総括
村上 陽一郎
東洋英和女学院大学 学長※所属・役職はプログラム終了当時のもの
科学技術の知が、知の総体の中で卓越した力を発揮し、その結果、人間を取り巻く環境は人工物で満ち、人間の行動は人工物で支援・制限され、人の生涯 は誕生から死に至るまで人工的処置の支配下に置かれる事態を迎えています。これまで自然の支配の下にあった多くの事柄が、人の意志の下に移りつつあると 言ってもよい。このような科学技術化された社会にありながら、人の行動、それを規定する行動原理・行動規範、あるいは社会の制度は、自然の支配の下にあっ た過去のそれと大きく変わってはいません。
今後、科学技術の社会的役割がますます増大する中で、未来に向けて、人の在り方、生き方、社会の在り方の研究を目指します。研究は、安楽椅子型ではなく、実証的立場を重視します。
領域の目標
この研究開発領域は、以下の2項目を目標としました。
- 科学技術と社会の間に生ずる問題について、関与者が協働して評価・意志決定し、対処する方法およびシステムの構築に資する成果を創出する。
- 社会との相互作用の中で、科学技術の変容の実態と課題を把握し、対応方策を提言する。
領域の構成
本領域は以下の構成で研究開発活動を推進しました。
研究開発領域成果報告書(提言書)
領域成果報告書 「関与者の拡大と専門家の新たな役割」
Report of R&D Focus Area: Science Technology and Humanity
"Expanding the range of participants and a new role for experts"
公募型研究開発「科学技術と社会の相互作用」
期間:平成19年度~24年度
研究開発テーマの概要
領域の目標(1)、(2)を達成するために、公募による研究開発プログラムを推進しました。推進に当たっての問題意識と想定される主要な研究プロジェクトの例は以下のとおりです。
- 科学技術と社会の間に生ずる問題について、関与者が協働して評価・意志決定し、対処する方法及びシステムの構築に資する成果の創出
科学技術が社会に及ぼす影響は、社会に生きる人々の生活のあらゆる側面に及んでおり、科学技術の成果の社会への受容・活用、さらに、その上流の問題として科学技術の研究開発のあり方は、行政、産業、科学技術、一般社会における関与者が協働して取り組むべき重要な課題です。
先端的科学技術の成果の社会への受容・活用について、意志決定のプロセスやその結果を実行するための法制度等の社会システムを新たに創出するような提言もあるでしょう。大域的な問題では科学技術的知見の不確実性が議論となりますが、事前警戒原則の考え方も踏まえて意志決定を行う方法論、環境保全等の地域固有の問題に科学技術的知見とともに「ローカル・ノレッジ」を活用する方法論も挙げられます。また、社会の側が科学技術の側と協働する上で求められる特質(科学技術リテラシー)を明らかにし、そのための対応策を提言することも考えられます。 - 社会との相互作用を通した科学技術の変容の実態・課題の把握と対応方策の提言
科学技術の重要性の認識の高まりと同時に、研究開発活動の不正行為に対する批判が厳しさを増していることに伴い、社会が科学技術に及ぼす影響が強まり、科学技術の側の変容が加速しています。この変容は、科学技術の共同体のあり方と、科学技術の社会的貢献の双方に影響する問題です。特に科学者共同体がその本来の役割を損なう可能性への危惧と問題があります。
例えば、研究領域の消長の実態を把握するとともに、それが科学や技術本来の知的蓄積を損ない、結果として社会の安寧や経済の発展にも影響を与え得ること、などについて評価し、必要な対応策を提言することも重要です。また、社会からの働きかけに反応して研究者や研究機関、研究コミュニティーの行動、組織等が変容しつつある実態とその課題を把握し、研究者等の行動規範等を含めたあり方を提言することも挙げられます。さらに、社会の側と協働するために必要とされる研究者の特質(社会リテラシー)を明らかにし、そのための対応策を提言することも必要になります。
本プログラムでは、研究開発プロジェクト及び(具体的なプロジェクト提案を作成するための)プロジェクト企画調査を実施しました。実施機関は、プロジェクトは1~5年間、企画調査は半年間です。
- 詳しくは「社会技術と人間」研究開発領域における新規研究開発プログラムの概要(PDF:186KB)をご覧ください。
領域の成果のまとめと提言
今日、科学技術は社会に広く浸透し、私たちの生活に大きく影響しています。科学が問うことはできても解くことができない問題をトランス・サイエンス的問題と呼びますが、こうした問題解決のためには、研究者だけではなく、その影響を受けるさまざまな関係する人々が共に考えなくてはなりません。
この研究開発領域の研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」では、12のプロジェクトが、ナノテクノロジー、医療、食の安全、地球環境、情報社会など、さまざまな問題解決に取り組みました。研究開発成果を踏まえた「まとめと提言」は、以下の通りです。
- 1. 科学技術と生活知をつなぐ
科学技術や社会を巡る複雑性や不確実性が増大する中、社会における意思決定をより効果的で公共性の高いものにするためには、関与者の拡大によって科学技術の専門知と地域や生活空間に根差した「常識=生活知」をつなぐ必要がある。 - 2.踏み出す専門家をはぐくむ
自らの専門的知見に閉じこもることなく、専門的知見の限界をわきまえつつも専門領域を踏み出して発言し、多様な関与者と協働できる「踏み出す専門家」が求められる。 - 3. 果敢な社会的試行でまなぶ
多様な社会的試行、とりわけ、具体的な社会的課題に対して踏み出す専門家が多様な関与者と協働する場を、継続的に設けることに取り組むべきである。失敗も含めて学び、次のチャレンジに生かす長期的な展望のもとに、覚悟を持って行う必要がある。 - 4. 応答の継続が信頼をうむ
とりわけ平成23年3月11日の震災以降顕著であるが、社会的試行の成否は、信頼の創出にかかっている。信頼は、専門的知識の有無によってのみ生まれるのではない。社会的課題に伴う複雑性と不確実性がある中で信頼を生み出すためには、関与者間の応答・対話の継続が必要である。
領域・プロジェクトの成果発信
研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」の活動の記録やプロジェクト成果等を、専用webサイト上で公開しています。
研究開発プロジェクト
平成21年度採択課題
- アクターの協働による双方向的リスクコミュニケーションのモデル化研究
飯澤 理一郎(北海道大学 大学院農学研究院 教授) - 自閉症にやさしい社会:共生と治療の調和の模索
大井 学(金沢大学 人間社会研究域学校教育系 教授) - 科学技術情報ハブとしてのサイエンス・メディア・センターの構築
瀬川 至朗(早稲田大学 政治経済学術院 教授) - 不確実な科学的状況での法的意思決定
中村 多美子(弁護士法人 リブラ法律事務所 弁護士)
平成20年度採択課題
- 地域主導型科学者コミュニティの創生
佐藤 哲(総合地球環境学研究所 研究推進戦略センター 教授) - 政策形成対話の促進:長期的な温室効果ガス(GHG)大幅削減を事例として
柳下 正治(上智大学 大学院地球環境学研究科 教授) - 海域環境再生(里海創生)社会システムの構築
柳 哲雄(九州大学 応用力学研究所 所長/教授) - 多視点化による「共有する医療」の実現に向けた研究
行岡 哲男(東京医科大学 救急医学講座 主任教授)
平成19年度採択課題
- 地域に開かれたゲノム疫学研究のためのながはまルール
明石 圭子(長浜市 健康福祉部健康推進課 参事) - 先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と社会への定着
城山 英明(東京大学 大学院公共政策学連携研究部 教授) - 森林資源のエネルギー化技術による地方の自立・持続可能な地域経営システムの構築
那須 清吾(高知工科大学社会マネジメントシステム研究センター センター長) - 市民と専門家の熟議と協働のための手法とインタフェイス組織の開発
平川 秀幸(大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター 准教授)
プロジェクト企画調査
平成20年度新規採択課題
- 当事者主体によるフリー・モビリティ社会の実現をめざして
貝谷 嘉洋(特定非営利活動法人 日本バリアフリー協会 代表理事) - 研究者のマス・メディア・リテラシー調査
瀬川 至朗(早稲田大学 政治経済学術院 教授)
平成19年度採択課題
- 福祉機器の開発を介する市民と研究者の共創リテラシーと場づくり
三宅 美博(東京工業大学 大学院総合理工学研究科 准教授) - 長期的なGHG大幅削減に向けた政策形成対話の促進
柳下 正治(上智大学 大学院地球環境学研究科 教授)
評価
事後評価
研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」同プログラム研究開発プロジェクト事後評価について
- 平成25年5月
「科学技術と人間」研究開発領域及び研究開発プログラム「 科学技術と社会の相互作用」について、平成25年3月に同領域及び同プログラムの事後報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次のとおりです。 - 平成25年5月
研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」平成24年9月に終了した7研究開発プロジェクト事後評価について、平成24年11月から進められ、平成25年1月に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次のとおりです。 - 平成24年10月
研究開発プログラム「 科学技術と社会の相互作用」平成19年度及び平成20年度に採択され、平成24年3月に終了した3研究開発プロジェクト事後評価について、平成24年6月から進められ、平成24年10月に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次のとおりです。 - 平成23年11月
研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」平成19年度に採択され、平成22年度に終了した研究開発プロジェクト事後評価について、平成23年6月から進められ、平成23年11月8日に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次の通りです。
中間評価
研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」同プログラム平成19年度採択研究開発プロジェクト中間評価について
- 平成22年6月
研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」同プログラム平成19年度採択研究開発プロジェクト中間評価については、平成21年11月から進められ、平成22年5月25日に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次の通りです。
公募型研究開発「21世紀の科学技術リテラシー」
期間:平成17年度~21年度
研究開発テーマの概要
本プログラムでは、以下のねらいにより、研究開発プロジェクトを実施していますが、本プログラムの対象範囲を含む上記プログラム「科学技術と社会の相互作用」が設定されたことに伴い、平成19年度からは、本プロジェクトの公募は行いません。
現代社会において、科学・技術の研究フロントが、極めて高度化し、専門家と非専門家の間の知識程度は乖離する一方で、専門家は自分たちの研究成果が、一般社会に直接大きな影響を与えるという事態に慣れていないための戸惑いを隠せません。こうした全く新しい事態を迎えて、これまでの理科教育や、啓蒙活動では対応し切れないことが明らかになっています。「科学技術と人間」研究開発領域では、科学・技術に関わる人々の「社会リテラシー」も含めて、誰のリテラシーを、誰のために上げるのか、という点を明確にしつつ、具体的に探り、提言し、実行するものです。言うまでもないが、実行の場を学校制度に限る必要は無いと考えております。
研究は、さし当たって現在の日本社会に適用すべきものとし、対象(生徒か、学生か、一般の人々か)、目標(国家主権者、生活者、職業人、専門家など、何を目指すか)を明確にし、このような点を考慮しながら、専門家集団にのみ目を向けた研究プロジェクトではなく、広く実社会を視野に捉えた研究とします。
本プログラムの研究開発プロジェクトの実施期間は三年間を予定しています。
研究開発プロジェクト
平成18年度採択課題(研究終了)
- 先端研究者による青少年の科学技術リテラシーの向上
大島 まり(東京大学大学院 情報学環 兼 生産技術研究所 教授) - 自律型対話プログラムによる科学技術リテラシーの育成
大塚 裕子(財団法人計量計画研究所 言語・行動研究室 主任研究員) - 科学技術リテラシーの実態調査と社会的活動傾向別教育プログラムの開発
西條 美紀(東京工業大学 留学センター/統合研究院 教授) - 文理横断的教科書を活用した神経科学リテラシーの向上
信原 幸弘(東京大学 大学院 総合文化研究科 教授)
平成17年度採択課題(研究終了)
- 気候変動問題についての市民の理解と対応についての実証的研究
青柳 みどり((独)国立環境研究所 社会環境システム研究領域 主任研究員) - 衛星画像情報を利活用した市民による自然再生と地域社会再生のためのリテラシー普及
上林 徳久((財)リモート・センシング技術センター研究部 主任研究員) - 市民の科学技術リテラシーとしての基本的用語の研究
左巻 健男(法政大学 生命科学部 環境応用化学科 教授) - 市民による科学技術リテラシー向上維持のための基礎研究
滝川 洋二(特定非営利活動法人 ガリレオ工房 理事長) - 基礎科学に対する市民的パトロネージの形成
戸田山 和久(名古屋大学 情報科学研究科 教授) - 研究者の社会リテラシーと非専門家の科学リテラシーの向上
松井 博和(北海道大学 大学院 農学研究科 教授)
評価
事後評価
研究開発プログラム「21世紀の科学技術リテラシー」平成17年度採択 研究開発プロジェクト事後評価について
- 平成21年11月
研究開発プログラム「21世紀の科学技術リテラシー」平成17年度採択研究開発プロジェクト事後評価については、平成21年6月から進められ、平成21年10月16日に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次の通りです。
研究開発プログラム「21世紀の科学技術リテラシー」平成18年度採択 研究開発プロジェクト事後評価について
- 平成22年6月
研究開発プログラム「21世紀の科学技術リテラシー」同プログラム平成18年度採択研究開発プロジェクト事後評価については、平成21年11月から進められ、平成22年6月16日に報告書がとりまとまりましたので公表します。評価に関する資料として公表するものは、次の通りです。