「科学技術と社会の相互作用 」採択プロジェクト

平成21年度採択

アクターの協働による双方向的リスクコミュニケーションのモデル化研究

飯澤 理一郎(北海道大学大学院農学研究院 教授)

科学技術が高度に発達した今日ほど、研究者と市民、生産者、行政、メディアなどとの間のリスクコミュニケーション、合意形成が重要になっている時はない。しかし、これまでの経緯を顧みた時、一方的な「説得」になっているのではないかとの印象は免れない。本研究では如何にしたら双方向的な、「説得」ではなく各層の「納得」に基づく合意形成が達成されるのかを、BSE全頭検査とGMO問題を事例に検討していきたいと考えている。

自閉症にやさしい社会:共生と治療の調和の模索

大井 学(金沢大学人間社会研究域学校教育系 教授)

「正常」との境界線が高度に不確実な知的障害なき自閉症問題について、社会の自閉症への眼差しの解明、「自閉症に優しい学校」作り実験、先端脳科学による自閉症早期発見・治療の是非の議論を、医系・文系研究者、保健・医療・福祉・教育の「現場人」、自閉症者・家族・支援者・市民などからなる「自閉症共生・治療地域共同体」を通じて行い、自閉症との共生と自閉症への治療の持続的調和をはかる「自閉症に優しい社会」をめざす。

科学技術情報ハブとしてのサイエンス・メディア・センターの構築

瀬川 至朗(早稲田大学政治経済学術院 教授)

科学技術分野の研究者と、新聞・テレビをはじめとする「メディア関与者」の交流を促進する「日本版サイエンス・メディア・センター」(SMCJ)の構築を目指す。SMCJは、メディア関与者の科学技術に関するアジェンダ構築を助け、また、研究者に対しては社会への効率的な情報発信の道筋を開くことを主目的とする。「研究者とメディア関与者の出会いの場」の創出により、社会の合意に基づいた科学技術の発展をもたらすことが期待される。

不確実な科学的状況での法的意思決定

中村 多美子(弁護士法人リブラ法律事務所 弁護士)

科学技術開発は潜在的危険に関する論争を引き起こし、時に司法はその社会的受容の判断を迫られる。しかし、法律家と科学者の間に相互協力の仕組みがないため、合理的な法的意思決定に困難が生じている。本プロジェクトでは、両者の協力障害原因を探り、科学的争点を適切に議論するためのシステムを構築する。これにより、不確実な科学的状況における法的意思決定に関する提言を行う。

平成20年度採択

地域主導型科学者コミュニティの創生

佐藤 哲(長野大学 環境ツーリズム学部 教授)

地域社会の環境問題解決への取組の中で、地域社会に常駐するレジデント型研究機関・訪問型研究者・ステークホルダーの相互作用を通じて、科学者が問題解決型に変容しつつある実態を把握する。科学者とステークホルダーが参加する「地域環境学ネットワーク」を形成して、ステークホルダーと科学者の協働のガイドラインと、ステークホルダーが参加する科学研究の評価手法を構築し、地域社会による主体的な問題解決への貢献を使命とする科学者コミュニティを創生する。

政策形成対話の促進:長期的な温室効果ガス(GHG)大幅削減を事例として

柳下 正治(上智大学 大学院地球環境学研究科 教授)

長期的なGHGの大幅削減では、社会を構成するあらゆる主体(ステークホルダー、一般市民)の社会的意思が実現の鍵を握る。本プロジェクトでは科学者が描いたシナリオを素材に、科学者/専門家と社会の構成員が「対話」を重ねる中で社会的意思の形成の可能性を模索し、その方法論(場・仲介機能)を見出そうとするものである。なお、プロジェクトでは世界市民会議(World Wide Views)の日本での運営を行い、その過程や成果を活用することで「対話」を深化させることを企図している。

海域環境再生(里海創生)社会システムの構築

柳 哲雄(九州大学 応用力学研究所 所長/教授)

過去の沿岸域開発が社会に与えた影響を、社会との関係から明らかにするとともに、今後行おうとする里海創生事業において、周辺住民のニーズが反映できる事業実施手法を提案する。また、各地で進められている里海創生活動の実証例を類型化し、その成果を検証しつつ、関係者にその情報を提供し、沿岸域開発に関わるTA(技術アセスメント)、SEA(戦略的環境アセスメント)のあり方について、環境の保全・創生(再生)という視点から、新たな提案を行う。

多視点化による「共有する医療」の実現に向けた研究

行岡 哲男(東京医科大学 救急医学講座 主任教授)

救命処置を要する患者は意識不明のことも多く、時間的制約から通常の「説明と同意」は例外視されてきた。医療を情報共有に基づく当事者間の納得を目指すプロセスとし、これを「共有する医療」と表現する。救命救急医療においてこそ、この達成が必要である。本プロジェクトは情報技術とコミュニケーション分析の融合により、市民参加を得て救命の現場における「説明と同意」のための新たな基本モデルの提示を目指すものである。

平成19年度採択

地域に開かれたゲノム疫学研究のためのながはまルール

明石 圭子(長浜市 健康福祉部健康推進課 参事)

「ながはま0次予防コホート事業」の主要素であるゲノム疫学研究において、個人情報保護や倫理問題に対処するための「ながはまルール」を作成する。
作成にあたり
①研究協力者にとっての個人情報保護、
②疫学研究の地域づくりへの活用、
③長浜版バイオバンクの法整備の3点に視点を置き、
地域に開かれたゲノム疫学研究ルールの基準を提案する。

先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と社会への定着

城山 英明(東京大学大学院公共政策学連携研究部 教授)

テクノロジーアセスメント(TA)は、技術の社会導入前にその正・負の影響を評価し、政策決定を支援する事を目的とする。日本では断片的評価等は行われてきたが、多様な社会影響を考慮した包括的TAが定着していない。そこでまず、政策過程論の観点から日本のTAの歴史を分析する。次に、多様な関係者の視点を組み込む問題構造化の概念に基づいたTA手法を構築する。最後に、新手法の社会定着に向けた制度構築・運用上の提言を行う。

森林資源のエネルギー化技術による地方の自立・持続可能な地域経営システムの構築

那須 清吾(高知工科大学社会マネジメントシステム研究センター センター長)

高知県の様な高騰するエネルギー資源に依存し、衰退する林業・農業を抱える地域を対象に、地方の「環境経営」「農業と林業の活性化」「エネルギーの自立」による地方の自立・持続可能な地域社会の経営システムの構築を目的とし、かつ、様々な分野を統合したマネジメント機能の実践的方法論を提示することで、技術を社会に生かす「統合の科学」の発展を目指す。

市民と専門家の熟議と協働のための手法とインタフェイス組織の開発

平川 秀幸(大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター 准教授)

科学技術に関する多様な主体の「公共コミュニケーション」を支援するための「インタフェイス組織」を大学に設立し、他大学にも移転可能な事業モデルとして示すことを目的として、特に専門家と市民の関の「熟議」と「協働」のための手法を開発し、既存の手法と合わせて手法ライブラリを整備する。同時に、組織の運営基盤の研究開発を行い、総合的な公共コミュニケーション支援を行う体制を構築する。

TOPへ