「21世紀の科学技術リテラシー」採択プロジェクト

平成18年度採択

先端研究者による青少年の科学技術リテラシー向上

大島 まり(東京大学 大学院 情報学環 教授)

最新の科学技術成果を結集した機器の利用とそれを支える科学技術の概念や法則の不理解といったいわゆる"科学技術のブラックボックス化"を対象に、具体的な例を用いて紐解くことにより青少年の工学リテラシーの向上を図る。これにより、日本の先端技術・製造業の発展を目指す。研究成果として、最先端工学の成果の初等・中等教育での活用のための、初等・中等教育プログラムの構築や教科書副読本の作成、産学が連携した科学技術リテラシー向上のためのシステムを提案する。

自立型対話プログラムによる科学技術リテラシーの育成

大塚 裕子(財団法人計量計画研究所 言語・行動研究室 主任研究員)

従来の「啓蒙型」「一方向型」の情報伝達への反省と双方向的な科学技術コミュニケーションの重要性に対する認識から、進行役のいる援助型対話と知識・経験が非対称な参加者の対話を通じた自律型対話手法の確立を目指す。研究成果として、対話能力を基盤とする科学技術リテラシー育成のための、理科系・文科系の大学生を対象とした学習プログラムを提案する。また、既存の科学技術コミュニケーション手法の支援を通した科学技術リテラシー分野全体の発展、分野を超えた専門家と非専門家のコミュニケーション基盤の構築への展開を図る。

科学技術リテラシーの実態調査と社会的活動傾向別教育プログラムの開発

西條 美紀(東京工業大学 統合研究院 教授)

科学技術コミュニケーションにおける情報の受け手のニーズと受容能力に対する考慮が十分ではないという問題意識から、国民の科学技術リテラシーの実態調査、リテラシー構造のグループ化を行い、グループごとの教育プログラムを開発することをねらいとする。調査は、質問紙と行動分析を組み合わせて行い、被験者の社会における活動傾向と科学技術についての知識と意識を関連させてリテラシー構造を考える。研究成果として、参加者のリテラシーを踏まえた科学技術コミュニケーションの技法を開発する。

文理横断的教科書を活用した神経科学リテラシーの向上

信原 幸弘(東京大学 大学院 総合文化研究科 准教授)

神経科学に対する拡大解釈が広がりつつある現在において、一般市民の神経科学リテラシーと神経科学者の社会リテラシーを同時に向上させる基盤を確立することを目指す。そのために、神経科学者、科学哲学者、応用倫理学者の共同研究により神経科学の基礎理論とその社会的インパクトを扱った教科書やWEB教材等を作成し、その教育効果を検証する。これら一連のサイクルにより、神経科学リテラシーの長期的な向上を図る。また、同様の問題が見られる他の科学技術分野においても展開を図る。

平成17年度採択

気候変動問題についての市民の理解と対応についての実証的研究

青柳 みどり((独)国立環境研究所 社会環境システム研究領域 主任研究員)

一般の人々の気候変動問題をめぐる理解について、専門家の論理との違いをグループインタビューを用いて明かにします。一般の人々は個人の過去の知見をもとに科学技術をめぐる様々な問題についての理解モデルを構築しますが、基本的知見の土台が異なるためにその理解モデルは専門家のそれとは異ならざるを得ません。これを実証分析によって明かにし、不確実性をもつ多くの問題をめぐる意思決定への利害関係者の参加に新たな展望を与えます。

衛星画像情報を利活用した市民による自然再生と地域社会再生のためのリテラシー普及

上林 徳久((財)リモート・センシング技術センター研究部 主任研究員)

霞ヶ浦の水源である周辺の谷津田を主たるフィールドに、衛星画像情報を利活用した、市民による自然再生と地域社会再生を実施します。その際、地域住民自身が気が付いていない潜在的な衛星画像判読能力を高めます。また、地域社会システムの共通問題認識ツールとして、衛星画像情報提供WebGISを構築し、自然再生と地域再生の基盤となるリテラシーの共有により、自然と共生しつつ、霞ヶ浦とその流域における水を守る現代版入会を構築します。将来的には、この研究の手法を基に、全国各地で展開される自然再生事業、地域社会再生事業にも適用可能なスキームを構築していきたいと考えます。

市民の科学技術リテラシーとしての基本的用語の研究

左巻 健男(同志社女子大学 現代社会学部現代こども学科 教授)

わが国における市民の科学リテラシーの状況を改善するための基礎的な研究です。その目標は、21世紀に必要な市民の科学技術リテラシーとしての基本的用語を選定し、それを元に「市民の科学技術リテラシーとしての基本的用語辞典」を作成し、世に公表することです。この成果から以下が想定されます。

  • 市民一人一人が自分の持つ科学技術リテラシーのレベルを理解することができるようになります。
  • 科学技術リテラシーの広さ、レベルについて議論する手がかりや基礎的なデータの一つになります。
  • 学校教育のカリキュラム作成の際の手がかりになります。

市民による科学技術リテラシー向上維持のための基礎研究

滝川 洋二(特定非営利活動法人 ガリレオ工房 理事長)

本研究では、以下の項目に関しての調査・研究を行います。

  1. 地域に根付く科学ボランティアの現状調査および育成の展開方法の探究
  2. 科学技術リテラシー向上への地域行政の取り組みの事例研究
  3. 情報社会における科学コンテンツへのアクセスの現状調査および展開方法の探究
  4. 科学技術リテラシーの市民への普及方法の探究および学校教育へのボランティアの協力に関する研究

これらの調査・研究により、市民が自発的に科学技術リテラシーを向上し、それを維持することのできる社会を作り上げていくことが可能となることが期待されます。

基礎科学に対する市民的パトロネージの形成

戸田山 和久(名古屋大学 情報科学研究科 教授)

  1. 市民の財政支援により実現した電波望遠鏡移設を事例として、市民による基礎科学研究への資金援助(パトロネージ)を実現するための諸条件を解明します。
  2. 市民のパトロネージが実現する程度にまで、双方向コミュニケーションを質的に向上させていくための方法論と教育内容を定式化し、研修プログラム・教材等を開発します。

以上により、市民の科学リテラシーと研究者のコミュニケーション能力向上の到達点を明確化し、それらをより高い水準に引き上げ、科学技術の位置づけを市民と研究者がともに再定義する場の構築を目指します。

研究者の社会リテラシーと非専門家の科学リテラシーの向上

松井 博和(北海道大学 大学院 農学研究科 教授)

北海道GM作物交雑防止条例策定の一方で、研究者と市民との対話(一種のリスクコミュニケーション)が十数回行われました。この特殊事例を改良し、一般化を目指したモデルを作ります。研究者と様々な立場の市民が対等に対話できる小フォーラムをネットワーク化し基盤グループを育て、これを基にステークホルダーによる円卓会議を開催します。最後に大規模対話フォーラムを開催し共同宣言を出します。この大フォーラムでは、傍聴者も参画できる仕組みを考えています。これにより、研究者と市民の相互理解のリテラシー向上が期待されます。

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