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環境・エネルギー分野におけるナノテク・材料の可能性―水の利用―
エグゼクティブサマリー
水は人間社会の生存基盤としてあらゆる側面に関わる。国連の報告によれば、安全に管理された飲料水へのアクセスは年々改善されつつあるものの、未だ世界の約4分の1にあたる22億人が利用できていない。先進国においても飲料水中の有機フッ素化合物(PFAS)など様々な化学物質に関する問題が存在する。また水処理プロセスには多くのエネルギーが必要になるため、カーボンニュートラルの実現に向けたグリーン化が課題になっている。水電解による水素の製造にも、今後、原料としての水が世界的に必要になると考えられている。加えて近年は気候変動の影響によって10年に一度と言われるような極端な大雨や高温が頻度、強度ともに増加傾向にある。これらによる深刻な風水害や干ばつが世界的に懸念されており、各地での水の確保や利用の様相はこれから大きく変わっていく可能性がある。
このように水利用の持続可能性には未だ多数の課題が存在している。またこうした課題の解決に向けた取り組みとナノテクノロジー・材料分野との接点は必ずしも十分には明らかになっていない。そこで今回の俯瞰ワークショップ(WS)では、水そのものや水の機能性をナノテクノロジー・材料の視点から深く理解し、より良く制御・利活用することが、上記のような社会課題の解決にどう貢献し得るかを俯瞰することを目的に議論を行った。
WSは基調講演と4つのセッション(「はかる」、「わける」、「つかう」、「総合討議」)で構成されている。全体を通じて、水そのものを使う(管理する)ことを考える従来の水利用に加え、水の機能性(例えば溶解、反応場、相変化挙動、物質との相互作用、クラスター構造形成等)を使う(活用する)視点も含めることで、水の利用を従来よりも広い視点で捉えることを試みた。この観点から、総合討論では、分野を超えた共通的な視点や課題の有無、将来的な分野連携の可能性、予想される困難の有無などについて俯瞰的・横断的な議論を行った。議論の中からポイントと思われるいくつかの点を以下にまとめる。
- 沸騰冷却、水電解、ウルトラファインバブル、動的濡れ性、コロイド等の話題は水と材料が相互作用する中での泡の制御あるいは界面領域の制御を扱うテーマであり、分野を超えた連携により更なる科学技術上の深化や発展が期待できる
- ナノから連続体までの異なるスケールを有機的に繋げる研究の推進が必要
- 日本は第一原理計算は活発だが、マルチスケールシミュレーションや大きいサイズや長時間のシミュレーションに関する研究は欧米と比して少なく、どのように強化していくかを考えるべき
- 実験との連携によるメゾスコピック分子シミュレーションを強化すべき
- 分野連携の場の設計や人材育成、コミュニティ作りには過去の経験も踏まえた工夫が必要
- 実社会の水利用の問題にナノテクノロジー・材料の観点から貢献していくためには適用分野や事例を少しずつでも探索・開拓していくことが必要
- 実験室のようなよく制御された環境・条件下で創られた理論や技術を実社会の多様な環境・条件でも通用可能なものにしていくことが重要
- 工業的な水利用の持続可能性は今後の課題として重要な視点の1つ
- コストに加えてエネルギー収支(温室効果ガス排出)などの環境負荷に関する評価軸も今後はより重要になる
- 非常時の水利用という視点も今後重要になる
今後は、本WSでの議論を基に更なる調査分析を実施し、国として重点的に推進すべき研究開発課題群やその推進方策に関する提言の作成検討等、CRDSの各種活動に活用予定である。
※本文記載のURLは2024年7月時点のものです(特記ある場合を除く)。