戦略プロポーザル
  • 環境・エネルギー

環境や社会の変化に伴う水利用リスクの低減と管理

エグゼクティブサマリー

本戦略プロポーザルは水利用におけるリスクを低減、管理するために実施すべき研究開発戦略を提案するものである。水利用とは、水という物質と、利用という人間の行為を合わせた概念を示す。現在、世界および国内で、水利用リスクに関わる未解決の課題が存在する。さらに、2030 年や2050 年といった中長期的な時間軸で見ると、環境や社会の変化によって、水利用リスクはさらに増大していく。水利用リスクの理解を深めるには、人々を平均値としてではなく分散値として捉え、取り残される個人の領域にまで視野を広げる必要がある。この領域には顧みられていない潜在的需要が存在する。それらの課題の調査、分析から導き出された、我が国として取り組むべき科学技術イノベーションの推進戦略をまとめたものである。

水は人間の生命、健康の観点から基本的人権でもある。多様な水の価値は、人間が文化的に生きていくうえで、世界中どのような地域においても欠かせない。しかし、人間が利用可能な淡水の量には、空間的・時間的偏在性などの制約が存在する。水の質という側面でも、安全性に関わる課題が存在する。自然環境では、水は砂泥や溶存物質、微生物、熱、エネルギーなどの運び手となっている。さらには水へのアクセス性、公衆衛生、経済性、処理や運搬に係るエネルギーなどの要素も存在する。これらの要素が複合的に水利用リスクを形成している。

環境や社会の変化に伴って、世界、国内ともに水利用リスクがさらに増大していく。それらの背景を踏まえると、革新技術、破壊的技術、伝統技術を含めた包摂的イノベーションの促進策が有効と考えられる。具体的には下記の研究開発の促進により、水資源供給・需要の多様な変動性を把握、制御して、持続的な水利用システムを構築することが望まれる。

(1)水循環システムの把握:水資源の循環を把握する研究開発である。水源の変動性や持続性、水の価値を示すことで、以降の研究開発に対して指針を与える役割も担う。
(2)水利用リスクのマネジメントのための水処理:水利用の需要に対し、変動性のある水源の原水を安全に制御するための多様な処理技術である。
(3)水利用リスクの実践的診断:水質や水量の観測・分析技術と、効率的、効果的な水利用のために可視化する技術である。
(4)多様な利害関係者との協働・対話型社会実装:水利用リスクは人々の多様な価値観にも関わるため、合理性、非合理性あわせもつ人間性の要素は無視できない。社会実装を目指すには、共同体としての共感、信頼の関係を形成する共創モデルなどが効果的である。上記の各研究開発に関連する側面がある。

水利用リスクは社会、経済に密接した研究開発領域である。科学的分析や技術開発の蓄積に立った持続可能な水利用シナリオの検討に加え、多様な水への主観と社会受容性に応じて社会実装を目指す研究開発の取り組みは、きわめて挑戦的なものとなる。しかしながら、水循環研究による課題の可視化や、水処理技術や診断技術の小型化や低廉化などが進み、実現可能性が高められつつある。中長期的に持続可能な水利用システムの構築を志向した研究開発は、先導性や学術的価値の高さが認められ始めている。さらに、水利用リスクは本質的に複合型学問領域の課題である。したがって、学問領域越境型、融合型などの研究推進という要請が必然的で、世界をリードする水研究では、この傾向が顕著にみられている。
我が国においても、良好な事例が幾つかなされているが、ますます水利用リスクが高まっていく世界と国内の情勢を踏まえると、このような取り組みを増進、拡大する施策が望まれる。

※本文記載のURLは2020年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。