人工知能研究の新潮流2025 ~基盤モデル・生成AIのインパクトと課題~
エグゼクティブサマリー
本報告書は、人工知能(AI)の研究開発の潮流を捉え、AI技術の社会的価値を高め、日本の国際競争力を強化するための研究開発の戦略提言と、それらに関連の深い研究開発領域の動向をまとめたものである。
本報告書は2部構成をとっている。1章では基盤モデル・生成AIのインパクトを踏まえた研究開発の動向と戦略提言を、「AI基本原理の発展」「AIリスクへの対処」「AI×○○」という三つの潮流に沿ってまとめた。2章ではそれらと関連の深い13の研究開発領域の詳細動向や国際比較についてまとめた。
第1の潮流「AI基本原理の発展」は、AI技術のさらなる高精度化・高性能化の流れに沿ったものである。現在の基盤モデル・生成AIは、高い精度・汎用性・マルチモーダル性を示しているが、資源効率、論理性・正確性、実世界操作(身体性)、安全性・信頼性等に課題がある。しかも、なぜそれほど高い応答性能や賢く見える振る舞いを示し得るのか、そのメカニズムは明らかになっていない。そこで、基盤モデル・生成AIのメカニズム解明や上述の課題の克服を目指した「次世代AIモデル」の研究開発が進みつつある。
第2の潮流「AIリスクへの対処」は、AIと社会との関係が広がったことで生まれた、精度・性能向上とは異なるタイプの研究開発である。AI技術の応用拡大・普及につれて、AIのブラックボックス問題、バイアス問題、脆弱性問題、フェイク問題等が顕在化した。このような問題に対して、AIに対する社会からの要請が国・国際レベルで議論され、AI倫理指針やAI社会原則といった形で明文化された。さらに、人間によるものと区別できないような応答・出力を返す生成AIが登場したことで、悪用・誤用の恐れが大きく高まり、人間の認知・思考や社会・文化への影響も懸念されるようになり、さまざまな面でAIリスクが深刻化した。そのため、対策の必要性が、倫理や社会原則といった観点から、AIのリスクや脅威への対処といった観点へシフトした。社会からの要請を充足する「信頼されるAI」の研究開発では、このような観点シフトにも対応していくことが急務となっている。
第3の潮流「AI×○○」は、社会・産業・科学等のさまざまな分野・用途にAI技術を活用し、そこでのプロセス変革を生み出すような、AI活用の技術・フレームワークに関する研究開発である。既に生成AIの産業応用はさまざまな分野・用途に急速に広がっているが、特に研究開発面からの取り組みが活発化しているターゲットとして「AI for Science」が注目される。ここでは「AIロボット駆動科学」のフレームワークが研究開発されており、AIを用いた大規模で網羅的な仮説生成・探索による人間の認知限界・バイアスを超えた科学的発見の実現と、ロボットを用いた仮説評価・検証のハイスループット化が期待されている。
AI技術開発は米中2強と言われる状況であり、日本がそこに割り入ることは簡単なことではない。しかし、AI技術は国の産業や科学の国際競争力を左右し、経済安全保障の面からも欠くことのできない技術である。海外からの技術導入・利用に全て依存してしまうようなことなく、日本として優位性を打ち出し得る点を見いだし、戦略的に研究開発を推進すべきである。本報告書では、上で述べた三つの潮流を踏まえて「次世代AIモデル」「信頼されるAI」「AI for Science」という切り口で、その可能性を論じている。
なお、本報告書は、同じ位置付けで2021年6月と2023年7月に公開した報告書のアップデート版である。
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