俯瞰セミナー&ワークショップ報告書 人・AI共生社会のための基盤技術

エグゼクティブサマリー

本報告書は、2024年9月17日・20日・27日と10月2日に開催した俯瞰セミナー&ワークショップ「人・AI共生社会のための基盤技術」の内容をまとめたものである。

人工知能(AI)技術の発展が著しく、産業・生活・教育・科学研究等、社会のさまざまな場面にAI技術の活用が広がっている。2022年11月末のChatGPT登場がこのトリガーになったが、その後、ChatGPTやGemini等のメガ生成AIのさらなる大規模化・高機能化が進んだことに加えて、分野・用途向けや組織・個人向けのカスタム生成AIも簡単に作れるようになりつつある。今後、多数のAIが共存・乱立する中で、人々がそれらを日々活用するとともに、より複雑・複合的なタスク遂行のためAI間の連携や人とAIの協働も進むと予想される。すなわち「人・AI共生社会」(多様・多数の人・AIが共生・協働するマルチエージェント社会)へ向かうだろう。

この「人・AI共生社会」をうまくデザインできれば、多様な人々と多様なAIが共生・協働して、さまざまな社会課題を解決し、社会システムを全体最適化し、社会の持続性・安全性を確保することが可能になると期待される。人口減少に直面する中で、より良い情報化社会の実現が可能になる。これは「Society 5.0」を人・AIの観点から再定義したものと言えるかもしれない。ただし、その一方で、高度化・複雑化したAIエージェント群によって引き起こされるAIリスク(人間疎外、暴走・フラッシュクラッシュ、AI談合、思考誘導・依存等)が懸念されている。

そこで、健全で高い価値を生み出し得る「人・AI共生社会」の実現に向けて、どのような研究開発への取り組みが必要か、関連する取り組みを俯瞰、課題を抽出、議論するために、講演主体の俯瞰セミナーシリーズと議論主体の俯瞰ワークショップを短期集中で開催した。

俯瞰セミナーシリーズは3日間に分けて開催し、10名の専門家から、マルチエージェントシステム、エージェントシミュレーション、エージェント設計論、エージェント間の連携・協調・交渉、エージェントの特性分析、Human-AI Teaming、Human-AI Interaction、人・AI共生社会における共創・創発、人・共生社会像とELSI(倫理的・法的・社会的課題)等、人・AI共生社会に関連する幅広い研究トピックとその動向を紹介いただいた。

俯瞰ワークショップでは、俯瞰セミナーの内容を振り返った上で、人・AI共生社会への展望と期待・懸念、および、期待をかなえ懸念を回避するための研究開発課題と日本の立ち位置等について議論を深めた。非常に幅広く多面的な研究開発が必要であるとともに、どのような人・AI共生社会を目指すか、研究開発によってどのようなインパクトが生み出せるのか、といった点について、より解像度を高める検討が必要であることを確認した。また、生成AIの登場・発展によってマルチエージェント研究やインタラクション研究が新たなステージに移行しつつあるが、生成AIをブラックボックスのまま組み込むのではなく、生成AIの原理解明・改良にも踏み込んだ研究開発の必要性も指摘された。

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