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公開シンポジウム報告書:デジタル社会における新たなトラスト形成 ~総合知による取り組みへ~

エグゼクティブサマリー

本報告書は、2023年1月10日に開催した公開シンポジウム「デジタル社会における新たなトラスト形成~総合知による取り組みへ~」の内容をまとめたものである。

トラスト(信頼)は相手が期待を裏切らないと思える状態である。リスクがあるとしても、相手をトラストできると、安心して迅速に行動・意思決定ができる。トラストは協力や取引のコストを減らしてくれる効果があり、人々の活動を拡大し、ビジネスを発展させ、ビジネスの生き死にを左右する要因にもなる。

しかし、デジタル化の進展につれて、バーチャルな空間にも人間関係が広がり、複雑な技術を用いたシステムへの依存が高まり、だます技術も高度化した。その結果、デジタル社会と言われる今日において、顔が見える人間関係や人々の間のルールに支えられた「旧来のトラスト」だけではカバーされないケースが拡大し、社会におけるトラストの働きがほころんできている。この問題は、自動運転車、AIエージェント、コミュニケーションロボット、メタバースなどの新技術・新サービスの社会受容を左右し、フェイク・偽装・なりすましなどによる詐欺・犯罪の懸念を高める。

このような問題意識のもと、JST CRDSでは、2021年6月から「デジタル社会における新たなトラスト形成」をテーマとした調査・検討を進め、2022年9月に戦略プロポーザルを公開した。このプロポーザルでは、上述の問題に対処し、不信・警戒を過度に持つことなく幅広い協力・取引・人間関係を作ることができ、デジタル化によるさまざまな可能性・恩恵がより広がるような社会を目指して、「デジタル社会における新たなトラスト形成」の研究開発推進を提言した。

今回の公開シンポジウムは、その研究開発推進に向けて、戦略プロポーザルの内容をたたき台として、①デジタル社会のトラストに関する問題意識を広く共有したい、②トラストを軸とした総合的な研究開発ビジョンの下絵を提示して議論を深めたい、③総合知による取り組みの必要性を共有して分野横断で継続的に議論できる場作りにつなげたい、と考えて企画したものである。そのため、まず第1部では、戦略プロポーザルの概要を紹介した。

トラストには、「対象真正性」(本人・本物であるか?)、「内容真実性」(内容が事実・真実であるか?)、「振る舞い予想・対応可能性」(対象の振る舞いに対して想定・対応できるか?)という3側面があり、現在の取り組みの多くは、このいずれかの側面に重点を置いている。第2部では、これらトラストの3側面のそれぞれに対して研究開発の状況・事例を紹介していただいた。

今後目指すべき方向性として、トラストの3側面を多面的・複合的に扱っていくべきであり、そのために、分野横断の総合知による取り組みが必要である。そこで第3部では、情報系、人文・社会系、具体的な応用分野など、さまざまな分野でのトラスト研究の動向や事例を紹介していただいた。その上で第4部の総合討議では、さまざまな分野・側面を横断するような議論を通して、総合知による取り組みや、その下地となる分野横断的な議論・知見共有の必要性が示された。

今回の公開シンポジウムはキックオフ的な位置付けであり、今後も分野横断の議論が持てるような場を設けていきたいと考えている。

※本文記載のURLは2023年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。