戦略プロポーザル
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バイオマス・ネガティブエミッション技術の実用化加速基盤研究

エグゼクティブサマリー

本戦略プロポーザルは、ネットゼロエミッションを達成していくために不可欠とされているネガティブエミッション技術のうち、バイオマスを活用したネガティブエミッション技術に関する研究開発戦略を提言する。具体的にはその基礎科学となるバイオマスの炭素循環・動態、特にこれまで知見が十分とは言えない分解過程にも着目した上で、炭素循環・動態に関する観測・計測技術、モデル評価技術、制御技術・方法、さらには今後普及を加速する上で必要となる技術的課題や社会的課題も対象とした研究開発を提案するものである。

気候変動への取組がますます重要となっている昨今、温室効果ガス排出量を抑制していくだけではなく、大気中CO₂を除去するための負の排出技術、すなわちネガティブエミッション技術が不可欠である。我が国だけでもカーボンニュートラルの実現のためには、2050年までに2億トン以上の吸収・除去量の達成が必要と言われている。ネガティブエミッション技術は、工学的な手法や自然を活用した解決策としての手法などがあり、その中でもバイオマスを活用したネガティブエミッション技術は、陸域の農地、森林、および海洋におけるバイオマスによるCO₂吸収・貯留能を活用したものである。

全球でのバイオマスの炭素循環過程でのCO₂吸収量および分解によるCO₂排出量は、フロー量でみると全世界の化石資源燃焼によるCO₂排出量よりも一桁近く大きな値となっている。このことから吸収フロー量の増大または分解フロー量の抑止の制御ができればバイオマスによる炭素貯留量の大幅増加が期待できる。しかし現状ではバイオマスによる分解過程を含む炭素循環・動態の知見は不足しており、基礎科学的観点からの検討が必要である。特に分解フローの過程は、農業生産増大と直結する光合成による吸収フロー過程と比較すると、その知見は技術的困難も相まって十分とはいえない。このためネガティブエミッション技術の視点からは炭素循環・動態において、特に陸域の地下部や海域における知見の拡充が求められる。

以上のことからバイオマスを活用したネガティブエミッション技術の実用化を加速するための研究開発課題としては、炭素循環・動態の解明、CO₂吸収・固定のメカニズムや計測データの不足による吸収・固定量予測の不確かさの解消が挙げられる。また、実用化に向けては食料や木材生産等と両立させながら、CO₂吸収・固定量を増加させていく制御技術、方策が必要である。このためには、研究開発の推進のみならず、制度・ルール作りや体制整備なども重要となる。

本戦略プロポーザルでは、今後求められる具体的な研究開発課題について、以下の3つの課題に分けて整理した。

  • バイオマス由来の炭素循環・動態の解明(課題1)
  • 吸収量増大・分解抑止のための対策技術(課題2)
  • 炭素市場価値と付加価値の評価(課題3)

研究開発の推進にあたっては、バイオマスの管理は長期に渡るものが多いことから、目標とその課題を短期・中期・長期・超長期に分けて推進する必要がある。炭素クレジット市場で得られた資金が研究開発やその実装などに配分され、研究と資金が好循環するような仕組みづくりが求められる。


図 科学的知見と資金の循環による実用化加速イメージ

本戦略プロポーザルで提案する研究開発の推進により、これらの基礎科学および対策技術に関する研究開発基盤が確立し、さらにはバイオマスによる炭素クレジットのより正確な評価法・推定法に反映できると考えられる。

※本文記載のURLは2023年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。