調査報告書
  • 環境・エネルギー

二酸化炭素資源化に関する調査報告

エグゼクティブサマリー

本報告書では地球温暖化対策の一つとして、その重要性が認識されてきた二酸化炭素(CO2)資源化の技術、具体的にはCO2と水素、水などを用いて、燃料・化学品に変換する技術について、その背景、国内外政策との関係、および技術開発動向とその課題についてまとめた。

●2015年に採択された「パリ協定」の参加各国は、産業革命後の気温上昇を2℃以内に抑えると合意した。このいわゆる2℃目標の達成には、省エネルギーのみでは到達できず、大気中のCO2を増加させないためのエネルギーシステムの大転換が必要となる。さらにエネルギーシステムにおいては航空、船舶、長距離貨物、負荷調整用発電、製鉄、セメントなど、電化やCO2回収貯留(CCS)での対応が困難な分野も存在しており、これらの対応には発電や燃料の利用で排出されるCO2を取り除く、いわゆる「脱炭素」だけでなく、CO2を循環的に利用する「炭素循環」も必要になる。

●世界各国の取り組みの中で、EUは2050年までに正味ゼロエミッションを目指す複数シナリオを検討しており、その中の重要技術としてPower-to-X(P2X)技術が取り上げられている。P2X技術は再生可能電力を利用して、CO2を燃料・化学品に変換する技術であり、エネルギー形態を電気から燃料へ変換することで熱・運輸などの適用分野の拡大を目指すものである。その実現に向けた研究開発としては、主にコスト削減を目指した実証試験レベルでの技術開発が進められている。一方、米国ではエネルギー安全保障の観点から、幅広いCO2資源化技術を検討しており、P2X技術以外にも人工光合成、生物学的変換技術などの基礎レベルを含む研究開発が実施されている。

●我が国では水素社会を目指して水素を中心とした研究開発を展開してきたが、近年になりCO2の循環利用のために炭化水素への変換技術の重要性が認識されるようになった。2020年1月には長期戦略のための革新的イノベーションを創出することを目標とした「革新的環境イノベーション戦略」が策定され、その中で炭化水素への変換技術はカーボンリサイクル技術の重要技術の一つとして取り上げられており、今後幅広い研究開発が進められようとしている。

●上記の日欧米の政策的な動向から、CO2の燃料・化学品への変換技術、特に再生可能電力を用いた変換技術の重要性が高まっている。これはPV、風力などの再生可能変動電源の大量導入に対応した電力システム安定化のための需給調整力、長期間のエネルギー貯蔵といった電力部門への貢献のみならず、熱・運輸などの他部門への電力利用拡大(セクターカップリング)に貢献できること、さらには既存インフラが活用できるためである。

●現状の研究開発は、技術的な見通しが立っているCO2と水素を用いた燃料・化学品への変換技術が中心となっており、コスト削減が課題となっている。一方で、水とCO2からの直接変換技術は複数段の反応を単段化できるなど、エネルギー効率向上やプロセス簡略化の可能性があることから、長期的な視点からその重要性が高いと考えられる。この研究開発は、電気・光などの外部エネルギーを用いる反応プロセスとなり、これまでの熱化学を用いた反応プロセスとは大きく異なる。このため実用化に向けては、CO2還元に係る触媒やその反応機構解明の基礎研究に加え、実用化に向けたプロセス開発を含む幅広い研究開発が必要になる。

※本文記載のURLは2020年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。