- 環境・エネルギー
フューチャーグリーン2050
エグゼクティブサマリー
本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が、平成28年12月12日に開催した俯瞰ワークショップ「フューチャーグリーン」の結果を記述するものである。
近年日本では、低価格品の輸入増加により農村での仕事が減少して若者の農林業離れが進んできたことに加え、日本全体での少子高齢化のため、農林業従事者の後継者が不足しており、農用地内や林地内の植物資源を維持するための環境条件を満足することが厳しい状況となってきている。その一方、国際的には、2016年5月に発効した地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」を受けて、2025年または2030年までの温室効果ガス排出量削減目標を国ごとに自主的に設定することが求められることとなり、CO2を吸収して温室効果ガスの排出削減に貢献するという観点から改めて植物資源に期待がもたれている。
こうした背景から、CRDSでは植物資源を取り巻く環境の維持・発展・向上に必要な科学技術的課題を検討することにした。また、この検討の取り組みを「フューチャーグリーン」と呼ぶこととして、様々な分野の有識者を招聘してワークショップを開催した。なお本検討では、農作物だけではなく長い成育期間を必要とする樹木も念頭に置いたため、想定する時点を2050年頃とし、その時点に向けて必要な課題を議論することとした。
ワークショップでは、CRDSから次の仮説を提示した。「農林業従事者の減少により植物資源の維持に必要な環境条件を満足することが困難になり、近い将来、植物資源がもたらす様々な持続力(環境保全力、エネルギー供給力、食料・産品の供給力)や価値(地域活性)が減退する。」
これに対して有識者から現状認識、将来のあるべき姿、それを達成するための技術、課題などの話題が提供され、最後に総合討論を行った。
本ワークショップからは、次のような認識を得た。
農林業に於いて、植物資源がもたらす機能(様々な持続力や価値)を表す指標は長年の研究から多数提案されている。この指標の開発や実際の定量化において基礎となる研究は、生態系サービス研究分野と窒素、リン、カリ、水などの物質の動態を追跡したり推定したりする資源循環研究分野である。しかしながら、こうした分野の研究がこれまで行われてきたにもかかわらず、植物資源がもたらす各種機能を定量化することは、依然として容易ではなく、機能の劣化を科学的に把握することが十分にできていない可能性がある。
植物資源がもたらす各種機能を維持・回復・向上させるには、関連する分野の研究の更なる進展が必要である。現場に導入可能な科学的手法や技術の研究開発を促進することも望まれる。また、これらをより効果的に推進する上では、農学、工学、環境学等の従来の学問領域を乗り越えた研究体制を構築することが重要と考えられる。
CRDSでは、今回のワークショップで得られた結果を基に、今後国として重点的に推進すべき研究開発領域、具体的な研究課題、その推進方法の検討などを引き続き進める予定である。