調査報告書
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我が国の産業競争力強化に資する工学基盤研究の今後の在り方 ~日本とドイツの比較から~

エグゼクティブサマリー

本調査は、産業競争力強化に資する我が国の工学基盤研究の今後の在り方を検討することを目的としている。「工学基盤研究(Engineering Science)」という用語は本調査で設けた用語である。基礎から応用、開発までの領域にある工学の学術を指すものとして用いている。工学の一部だが数学や物理学などの科学と開発・設計・製造・実装の間に位置し、応用科学と一部重なる。機械工学、土木工学、化学工学、電気工学などの分野が該当する。工学基盤研究を通じて得られる各種知見は、産業機械や輸送機械、エネルギー機器、生産設備・土木建築など様々な機器、設備の性能向上、効率化、評価に資するものとなる。


図 工学基盤研究の定義

本調査では、国の経済成長、特に日本の産業の屋台骨である製造業の高度化、競争力維持・向上のためには工学基盤研究の強化が牽引力の1つになりうるという観点の下、日本の状況ならびに日本と産業構造が類似するドイツの状況について比較検討を行い、我が国の工学基盤研究の在り方について検討した。なお、本調査では工学基盤研究の中でも機械工学分野に注目した。これは、自動車・輸送用機器やエネルギー関連機器は我が国の製造業の中でも特に強みがあると考えられ、それらを支えてきた中心的分野の1つが機械工学分野であるとの認識に基づいている。

ドイツの工学基盤研究を支える仕組みとして、本調査では、ドイツ研究振興協会(DFG)が運営する共同研究センター事業に注目した。この事業では、ドイツの複数の大学や国立研究機関が参画することを通じて、大学間及び大学と研究機関との間の工学系ネットワークの形成やドイツの工学基盤研究の強化が促進されている。その結果、同事業を通して学問としての工学基盤研究の維持発展が支えられている。

また、ドイツの工学は、専門大学を含む高等教育制度を基盤とした豊富な技術系人材(研究者と技術職員)に支えられている。マックス・プランク協会など国立研究機関では教授職を支える研究アシスタントが研究者として約6,000人存在する。研究の中で技術面を遂行できる常勤職員である技術職員も約3,000人存在し、人材の層が厚い。

これに対して日本は研究者、技術職員の確保・育成が喫緊の課題になっている。工学系の大学院生は2005年以降減少傾向にある。法人化以降、研究の中で実験など技術面を遂行できる常勤職員である技術職員も減少している。また工学基盤研究の重要性を理解し、教えることのできる研究者が大学でも企業でも定年を迎え、その知識や経験を継承することが難しくなりつつある。

工学基盤研究を産業競争力強化に繋げるには大学と産業界の連携が重要になる。ドイツなど欧米の大学研究者は企業が抱える課題を投げかけた時に的確に回答するという。このような状況になるためには、大学と企業との連携の実践を拡大し、双方のコミュニケーションを深め連携関係を徐々に強化していくことが重要と考えられる。

※本文記載のURLは2023年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。