- 環境・エネルギー
複雑な流れ現象の解明と統合的制御 ~数学的・物理学的検討と豊富なデータを組み合わせた構成則の構築~
エグゼクティブサマリー
本戦略プロポーザルでは、流体工学・流体力学およびその周辺分野を対象とした流体分野を対象とする。本戦略プロポーザルは、数学的・物理学的検討と豊富なデータを組み合わせた構成則の構築を共通目的とした流体共通研究基盤を立ち上げ、新しい学理の創成と産業応用の基盤技術を同時に進展させる研究開発戦略を提案するものである。なお、流体共通研究基盤とは、流体分野の科学技術研究とそれを支える研究プログラム・研究人材・研究環境を含めたものを本戦略プロポーザルでは指す。この流体共通研究基盤は、2050年カーボンニュートラル社会の実現・日本の産業競争力強化、さらには安全安心な社会構築に向けた重要な科学技術基盤となっている。学術から産業までを広く包含し、中長期的な時間軸での推進が望まれる。
これまで流体分野では、出口ニーズに対応する個別具体的な研究が多数実施されてきた。しかし、普遍的な乱流モデルに対する研究が少なく、流体の本質を明らかにすることができていない。そのため、応用分野それぞれでパラメータによって個別問題に対応している状況である。この状況を打破するには、個別具体的な応用研究だけにとどまらず、分野横断的に共通する現象や事例を包含したテーマ設定が必要である。また、個別具体的な研究と分野横断的に共通する研究の双方と、それらの相互作用を促す制度設計が肝要である。ここで得られた共通知見は周辺分野に水平展開することができ、イノベーション創出にも貢献できる。具体的な研究開発課題として、以下の3つを提案する。
①数学的・物理学的検討と豊富なデータを組み合わせた構成則の構築および複雑な流れ現象の解明
②上記の理解に基づく、複雑な流れ現象の予測と制御
③応用研究(エネルギー、環境、航空、バイオ・医療等)
近年、計測分析機器の向上が流体ビッグデータの取得を可能とし、計算機能力の向上が精緻な直接数値シミュレーションを可能とした。ここ数年で実施された萌芽的な研究によって、これら流体ビッグデータの解析に機械学習が適していることが明らかになりつつある。本対象分野は、実験・理論・数値計算・機械学習などのデータ科学のそれぞれの分野で新たな局面を迎えている。これらを密に連携させ、複雑な流れ現象の解明に向けて、物理法則、理論、経験知などの既存の知識と統合させる必要がある。さらに各原理の普遍性を見出すことによって、流体の予測や制御に展開していくことができる。
流体の課題はこれまで多くの数学の発展をうながしてきた。当該分野を進めることで、新しい数学的記述方法、概念、離散構造、代数構造、幾何構造などの抽出とそれらの従来手法との展開を通じて、応用数学側への波及効果も期待できる。また、機械学習を単なるツールとして、流体現象に適応させていくだけでは不十分であり、流体現象に特化した機械学習の開発など、機械学習側に積極的に流体力学の知見を取り込んでいくことも期待される。世界的な数学・情報科学の潮流を組み込み、流体が数学・物理のニーズやシーズとなり、両分野で新しい学理を探求し、共進化する形を目指さなければならない。
推進方法としては、複雑な流れ現象の解明・予測・制御に関わる周辺分野とネットワーク体制を築くことが重要である。そのような体制のもと物理的・数学的な考え方と機械学習とを統合しながら、複雑な流れ現象の普遍的な原理等を解明し、高度な予測、統合的な制御を可能にする知の構築を目指す。
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