海外調査報告書
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ASEAN諸国の科学技術情勢 ~マレーシア~

エグゼクティブサマリー

ASEAN主要国の一つであり、半導体関連産業など多くの日本企業が進出するマレーシアについて科学技術イノベーション動向を取りまとめた。 多民族・多宗教国家であるマレーシアは、そのユニークな立場を活かしながら、他のASEAN諸国はもとより、中東、アジア、欧米などと親密な関係を構築してきた国である。日本とも、マハティール元首相の提唱した「ルックイースト政策」もあって、政治・経済・貿易・教育・科学技術など多様な分野で緊密な二国間関係が継続されてきた。科学技術・イノベーション分野においては1980年代から国家戦略を策定し、長期計画と重点分野を定期的に更新してきた。政策の範囲は国家の成長とともに、科学技術政策(ST)から科学技術・イノベーション(STI)となり、先進国入りに向けて、高所得、国民全体の発展、持続可能な国家の形成といった目標が掲げられた。そして現在では、これに「経済」を加えたSTIEという概念を導入し、経済成長を支えハイテク国家になるという目標を達成するための基盤構築と強化を謳っており、今後の成長が注目される。

国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センターでは、我が国の科学技術イノベーション政策の立案と研究開発の推進に資することを目的として、世界各国・地域の科学技術動向を把握し必要な分析を行い、報告書等により適宜その結果を公表してきている。2015年、ASEAN経済共同体(AEC)2015年発足を前にASEAN 諸国十カ国に焦点を当て、これらの国々の科学技術動向を調査分析した。経済成長の著しいASEAN諸国だが、科学技術イノベーションの進展という面ではシンガポールを除いてそれほど注目されてこなかった。しかし、経済成長がある程度進んでくると、その経済成長をさらに維持発展させるため国内における科学技術振興政策が拡大強化されるのは、これまで世界各国で見られた流れである。前回調査から5年以上経過し、この間に各国でどのような進展があり、イノベーション創出によるどのような国作りを目指しているかを改めて調査することにした。

ASEAN諸国との科学技術協力については、従来、シンガポールなど一部を除いて日本の研究レベルの方が高く、日本側への直接的なメリットはそれほど大きくないという見方もあった。しかし、ASEAN諸国の発展が著しく、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の急速な進展などにより研究開発の進め方が変化する現在、協力のあり方も変わろうとしている。日本での研究成果の実証の場として協力が機能するなど効果的なケースも増えており、より連携を深め信頼関係を構築することが重要となっている。その際、日本との協力は、ASEAN諸国と多くの国々との多様な協力関係の一部を成していることを改めて認識する必要がある。我が国の他、欧米諸国もASEAN諸国と様々な協力を行ってきており、近年では、科学技術分野においても成長著しい中国が、経済分野に加えて科学技術分野での協力関係の強化に積極的である。今後の我が国とASEAN諸国との科学技術協力のあり方を考えていく上で、このような国際的動向の中で我が国がどのような役割を果たそうとするのか、また、我が国の限られたリソースをどのように効果的に投入していくのかという視点が重要であろう。

※本文記載のURLは2023年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。