海外調査報告書
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ASEAN 諸国の科学技術情勢 ~タイ~

エグゼクティブサマリー

ASEANの中核になる国の一つであり、多くの日本企業が進出するタイについて科学技術イノベーション動向を取りまとめた。バンコク在住の海外動向ユニットフェローが、現地での収集した情報や実施したインタビューを中心に、リアルでダイナミックな現在のタイについて報告する。タイは2014年の軍部クーデター以後も政情不安が続くものの、20カ年の国家戦略を策定するなど、少しでも安定した国作りに向けて、科学技術と高等教育を一元的に所掌する官庁が発足するなど、新しい動きが起こっている。科学技術全般の進展状況は、経済での大きな進展と比較してそれほど急速ではなく、科学技術に関するインフラ整備や高度人材の育成が中心であり、まだ世界の科学技術の最前線に立つまでには至っていない。しかし国力や経済において科学技術が占める重要性を十分に認識し、将来に向けて科学技術の振興に努力している姿勢が印象的である。

国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センターでは、我が国の科学技術イノベーション政策の立案と研究開発の推進に資することを目的として、世界各国・地域の科学技術動向を把握し必要な分析を行い、報告書等により適宜その結果を公表してきている。2015年、ASEAN経済共同体(AEC)2015年発足を前にASEAN 諸国十カ国に焦点を当て、これらの国々の科学技術動向を調査分析した。経済成長の著しいASEAN諸国だが、科学技術イノベーションの進展という面ではシンガポールを除いてそれほど注目されてこなかった。しかし、経済成長がある程度進んでくると、その経済成長をさらに維持発展させるため国内における科学技術振興政策が拡大強化されるのは、これまで世界各国で見られた流れである。前回調査から5年が経過し、この間に各国でどのような進展があり、イノベーション創出によるどのような国作りを目指しているかを改めて調査することにした。今回は、十カ国を同時に調査するのではなく、個々の国について順次報告書をまとめていく。

ASEAN諸国との科学技術協力については、従来、シンガポールなど一部を除いて日本の研究レベルの方が高く、日本側への直接的なメリットはそれほど大きくないという見方もあった。しかし、ASEAN諸国の発展が著しく、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の急速な進展などにより研究開発の進め方が変化する現在、協力のあり方も変わろうとしている。日本での研究成果の実証の場として協力が機能するなど効果的なケースも増えており、より連携を深め信頼関係を構築することが重要となっている。その際、日本との協力は、ASEAN諸国と多くの国々との多様な協力関係の一部を成していることを改めて認識する必要がある。我が国の他、欧米諸国もASEAN諸国と様々な協力を行ってきており、近年では、科学技術分野においても成長著しい中国が、経済分野に加えて科学技術分野での協力関係の強化に積極的である。今後の我が国とASEAN諸国との科学技術協力のあり方を考えていく上で、このような国際的動向の中で我が国がどのような役割を果たそうとするのか、また、我が国の限られたリソースをどのように効果的に投入していくのかという視点が重要であろう。

※本文記載のURLは2021年7月時点のものです(特記ある場合を除く)。