- 海外動向
科学技術・イノベーション政策動向報告~マレーシア~
エグゼクティブサマリー
研究開発戦略センター海外動向ユニットでは、我が国の科学技術・研究開発・イノベーション戦略を検討する上で重要と思われる、諸外国の動向について調査・分析し、その結果を研究開発センター内外に「海外科学技術・イノベーション動向報告」として配信している。調査内容は、最新の科学技術・イノベーション政策動向・戦略・予算、研究開発助成プログラム・予算、研究機関や大学の概要・その他科学技術動向などを主とした、科学技術・イノベーション全般の動向となっている。
本報告書ではマレーシアの科学技術・イノベーション政策について調査を実施し、取りまとめた。
1957年にマラヤ連邦として独立したマレーシアは2007年に建国50周年を祝った。22年間続いたマハティール前首相(1981-2003)の時代に工業化に成功し、アジア通貨危機影響を受けた1998年を除いて順調な経済成長をとげた。また建国50周年の年にはロシアのロケットに同乗する形でマレーシア人を初めて宇宙に送った。経済成長の源泉は安定した政治と一貫性のある政府の政策推進であったが、電子・電気製品やその他の工業製品を生産して輸出することでその成長を支えてきた。しかしながらマレーシアの人件費が高騰する中、マレーシアが得意としてきた労働集約型産業と輸出は国際競争においてますます厳しさを増している。国の指導者はマレーシアが知識集約型の産業構造に移行し、高付加価値の製品とサービスを生み出していかなければならないと考えており、マハティール前首相は情報通信技術(ICT)の振興に努めた。続くアブドゥラ首相は科学技術環境省を改組して科学技術革新省を設立し、バイオテクノロジーの振興に力を入れ、研究開発の強化、研究開発人材の育成を目指している。
マレーシアは、西欧ではなく日本の勤労倫理を見習えと指導者が東方政策を行った国であり、数多くの日系企業が進出し、日本との経済的な関係も緊密である。労働集約型産業からの脱皮は他のアジア諸国にも共通する課題であり、マレーシアの取り組みはその政策の一例として興味深い。